第9話 自己宣伝
俺が自分の名前や異世界出身であることを話すと、所長はすんと鼻を鳴らしながら俺に問いかけてきた。
「異世界人、マコト・サイキ。まずそもそも、貴君はどうした経緯でこのイーウィーヤにやってきて、ガリ王国までやってきたのだ」
所長の問いかけに、俺はわずかに視線を逸らした。正直、説明するのも難しいし、信じてもらえるかも分からない。しかし、問われた以上は答えないといけない。
一つ一つ言葉を選びながら、俺は説明を始めた。
「あー、その……なんかどっかの国の王様だかに、世界を危機から救う救世主だとか言われて召喚されて、でもスキルがまともなのないから役立たずだって言われてワープさせられて……そんで目を覚ましたらあの洞窟の中にいて……」
たどたどしいながらも行われた俺の説明を聞いて、所長は執務机に肘をつきながら深くため息をついた。どうやら、彼にしても結構信じられない話らしい。
「救世主召喚の儀式か……日程から察するにモンデュー王国の行った儀式と見える。しかし自分から異世界人を召喚しておいて、不要だからと他国に放り出すとは、無責任にも程がある話だ」
納得したような表情をしながら、もう一度ため息をつく所長。俺の隣でレオナールも、怒りを露わにしながら声を上げる。
「全くです。マコトはろくな装備も渡されず、説明を受けることなく、着の身着のままでルノヴィノー山にいました。我々が彼を見つけなければ、彼が通路の横穴を見つけなければ、きっと今日のうちに死んでいたことでしょう」
彼の言葉に、俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。あのルノヴィノー山の洞窟で、俺は何体かの魔物に遭遇しているし、追いかけられもしていた。あの時横穴を発見しなかったら、きっとレオナールの言葉通り、俺は死んでいただろう。
レオナールに視線を返しながら、所長が口を開く。
「かの儀式はモンデュー王国国王、フレドリクが御自ら行った、との噂がある。何を焦ったのかは知らんが、転移儀式を、自国内にすら座標を指定せずに行って放り出すなど、愚の骨頂だ」
その口調は変わらず平坦なものだったが、所長の眉間にはシワが寄っていた。やはり、あの国のやってくれたことは随分信じがたい、ひどいことだったらしい。
もう一度ため息をついた所長が、レオナールに視線を向けながらまた話す。
「ともあれ、その横穴にお前たちが捜索していた古代魔法の紋様があったと、ジルー上級部員から聞いている。確かか」
「確かです。記録した紋様はこちらに」
答えながらレオナールが取り出したのは、あの横穴でウラリーがなにかして写し取った、紋様を記した紙だ。『ポータル』で移動している間に、レオナールが俺が何度か運用した魔法の効果や射程、その他なんやかんやの情報をまとめて記載している。
その紙が所長の手に渡ると、紙を目にした所長が目を見開いた。
「ふむ……む?」
その声色には明らかに疑問の色がある。いぶかしむ表情をしながら、所長がレオナールに視線を投げて言った。
「バルテレミー上級部員、どういうことだ。魔法の解析が既に行われているようだが」
問われたレオナールが、小さく口角を上げるのが見えた。その表情のままで俺の肩に手を置きながら、彼は言う。
「これこそが、マコトが我々にとって有用である何よりの理由です。既に魔法の実運用も行えています。その効果と魔法の属性、射程距離はこちらにまとめてあります」
自信満々に言いながら、渡した用紙の下に記載したメモ書きを指し示すレオナール。それを見つつ、半ば困ったような表情をしながら、紙を執務机の引き出しに入れながら所長は返す。
「お前たちのまとめた記録が正しいかどうかは、この紋様を解析班に回して解析を行った上で判断する。しかし……信じられんな。そんなスキルを有しているのなら、モンデュー王国の人間が放り出すこともないはずだが」
そう話しながら、所長は再び俺に視線を向けてきた。興味深そうな、面白いものを見るかのような、そんな眼差しだ。頭をかきつつ俺は言葉を返す。
「なんか、あいつらにとって用途不明とか、訳が分からないスキルだとかで、無視されたっぽい感じがありました。『画像解析』ってスキルで、たぶん出来てるんだと思うんっすけど」
「『画像解析』?」
俺が発したスキルの名前に、所長の目が丸くなる。俺の出来たことを軽く説明すると、所長は部屋の中の本棚から分厚い辞典を取り出してページをめくった。どうやらスキルについてのあれこれが書かれているらしい辞典を見つつ、彼は小さく唸る。
「なるほど……読み取った画像を解析するスキル、とのことだが、これでは確かに用途不明なのも無理はない。どのように解析している?」
「あ、こいつで」
ますます興味を持ったらしい彼に、俺はスマートフォンを取り出した。ここまでで何度も命を助けられている俺のスマートフォンを見て、所長の目が光を帯びる。
「
俺のスマートフォンの、プラスチックで作られた外見を見ながら、不思議そうな顔をする所長。それを見て小さく笑みを漏らしながら、レオナールが自分の本に手をかけた。
「実演してみましょうか。私の『
「ああ、やってみせろ」
レオナールの言葉に所長がこくりとうなずく。『
「マコト、これが
「う、うっす……」
言われるがままに、開かれたページに描かれていた紋様をスマートフォンのカメラで読み取る。明るい部屋、安定した位置、読み取りはすぐに行えた。
―― 魔法『
画面にもしっかり表示が出てきた。これで読み取りは問題なしだ。タップして魔法を使うわけにはいかないので、文言が表示された状態でスマートフォンの画面を所長に見せる。
「で、画面を触ると魔法が使える感じっす。詠唱とかは、なしで」
「ほほう……」
俺の言葉に、所長はあごに手をやりながら非常に興味深そうに画面をまじまじと見た。やはりというか、詠唱なしで魔法を放てるというのはすごく魅力的らしい。
なるほどとうなずきながら、所長は自分の手元にある
そのまま二度三度操作して、棒が光を放つと、それを取り外した所長がそのまま棒を俺に差し出してきた。
「仕組みが気になるが、それは後でじっくり伺おう。よろしい、ガリ王国魔法研究所所員、捜索班下級部員として、マコト・サイキを迎え入れることを承認する」
「ありがとうございます」
棒を受け取り、それをジャケットの胸元に入れる。これで正式に、俺は魔法研究所の所員として認められたというわけだ。
シルヴィもエタンもウラリーも、嬉しそうな顔をして俺を取り囲む。
「やったね、マコト!」
「これで明確に、俺たちの仲間ってわけだ」
「よろしく頼むわね」
三人の言葉に、俺もようやくホッとして笑みがこぼれた。レオナールも満足そうにうなずきながら、自分の『
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