『過去の修法陣と大地の王』
水浪は霊長砂漠にある、万世の占術師が施した修法陣にレンナを降ろした。
効力が切れかかっている修法陣は、光と大地の精霊界の加護を得るためのもので、とても複雑な紋様をしていた。
おそらく、古代にあったという因果界の魔法宮の魔法が関連しているとしか、レンナにはわからなかった。同じものを施せと言われても、レンナにはできない。というより不可能だった。
魔法宮の魔法は、魔術師の謎の消失によって絶えて久しい。どんな文献を当たっても無駄だろう。
レンナは別の方法で修法陣を編み出す必要があった。
どこから手をつければいいか……考えあぐねていると、訪問者があった。
パラティングス大樹海から、高く響くいななき。
ハッとして見やると、白い四肢に銀の鬣を持つ一角獣が、こちらへ向かって駆けてくる。
ぎょっとするレンナ。
あれは……大地の王では……?
一角獣は法力が残る陣にやすやすと入り、レンナたちがいる三メートルほど手前で来て止まった。
深い濃緑の瞳が、ひたとレンナを見据える。
「おまえが次の陣を作る修法者か」
居丈高に尋ねられて、レンナは片膝をついて頭を軽く下げ、右手を胸に当て、左手を広げて礼を取った。
「はい、万世の魔女と申します。大地の王に置かれましては、このような辺境にお越しくださり、恐縮でございます」
一角獣は云った。
「生きとし生けるものが依って立つ場所は、すべて我が領域なり。どうということはない。死に絶えたとはいえ、この地も天の恵みから漏れることはない」
「はい、確かに」
「立ちなさい。話がしたい、こちらへ」
「では失礼いたします」
レンナはゆっくり立ち上がって、一角獣の側へ近づいた。
左横に立つように云われて、その通りにする。
一角獣は遠く人界と砂漠を隔てる山脈を見やりながら語る。
「かつてこの地は、緑溢れる肥沃な土地であった。馬が駆け、鹿が眠り、狐が跳ねる喜びの地……。人間が開拓し、建国してからは戦に明け暮れ、土地は休まる暇もなく踏み荒らされ、負のエネルギーが席巻した。我らが源、
「はい……」
大地の王の瞳が哀しく伏せられたのを、レンナは切なく見上げた。
「人間はこの地を見捨てたが、それ故に因果応報によって苦しめられている。皮肉なものだが、食い止めるのにあらゆる知恵と技術が投入されている。それでもはかばかしくないようだな」
「はい、真央界では砂漠に隣接するパラティヌスとウィミナリスが共同で対処に当たっていますが、決め手に欠けるようです」
「さもあらん。問題は負のエネルギーのこごりにある。それを修復せぬうちは、地の恵みは届かぬであろう」
「では、こごりを何とかすれば、砂漠化は止められましょうか?」
「おまえの前任者の万世の占術師もそう考えたが、こごりを解消することはできなんだ。せめて地の恵みを補助し、光を和らげようと施したのが、この修法陣だ。そのおかげで人界の天の運行に障りはなかったようだが」
「そうですか……」
となると、レンナの取る方法は二つ。
万世の占術師と同じ修法陣で、とりあえず人界の気候を以前と同じに戻す。
もう一つは、助力を願った水と風の精霊界の力をこの地に呼び、天の運行に人為を加えるか。
前者は不可能。後者は一つ間違えば天の運行を狂わせる難事だった。
万世の占術師が水と風の精霊界に使いを出したということは、後者しか選択肢はないようだった。
レンナは大地の王に許可を願い出た。
「大地の王様、この件に際しまして、水と風の精霊界から助力を賜っているのですが、この地に水と風の修法陣を施すことをお許し願えないでしょうか」
大地の王は頷いた。
「風の王から話は聞いている、やってみるといいだろう。ただし、この地は方角的に火の精霊の力が強い。それに、今は地の季節から火の季節——
レンナは顎に人差し指を当てて考え込んだ。
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