その80 怒りの魔物軍団

 「しっかり掴まってろよ!!」

 「うん!」

 「ほら、あんた達は後ろに居なさい! いいわよ玖虎」

 「いくぜ……!」


 母ちゃんがアロン達を寝台へ投げ込むのを確認した瞬間、俺はアクセルをべた踏みにする。

 スキール音が周囲に響き、トラックは一気に加速を行い、弾けるように飛び出した。


 <あ”あ”あ”!!>

 <うぉふ!!>

 <♪>


 キュルキュルとした音が気にいったのか背後で魔物たちが合唱を始めて割とうるさい。

 だが、それよりもドラゴンの夫婦が心配なので先を急ぐ。


 「こんなにスピード出して大丈夫なの!?」

 「ああ、このトラックは絶対に転ばないようになっているし、万が一ぶつかってもこっちが勝つ。人間だけ気をつければ特に問題はねえよ」

 「今までより一番速いよね」

 

 サリアが手を合わせてそう言い俺は静かに頷く。

 現在128キロを計測し、恐らく最高だ。このまま行けば160までは上がり、ドラゴンの山までここからなら1時間程度で到着するはずだ。俺は前を飛ぶシルバードラゴンを見失わないようにしながらハンドルをきって急いだ。


 そして――


 <あなた……!?>

 <ぐぬう……き、傷が……>

 「ひゃっはぁ!! 青いドラゴンはもう終わりだ! 卵を奪えええええ!」

 <子供は渡しません! カァッ!>

 「チッ、メスはまだ元気だな……念のためこっちも潰しとくか」

 「「おお!」」


 ――俺達が到着すると、すでに戦闘が開始されており50人前後からなる冒険者に囲まれていた。シルバードラゴンが残っていたらと思うが、逆だ。しっかり獲物を狩るために編成されてきているので三頭とも殺されていた可能性は十分ある。息子さんが瀕死になっているのがいい証拠だ。


 それよりも早く助けないとまずいなと、トラック、ダイト、シルバードラゴンが夫婦を庇うように踊り出た。


 「そこまでだ。このドラゴンは俺達のフレンドでな、悪いが邪魔させてもらうぜ」

 <ふむ、まあまあ数を集めたようだが……我等には勝てんぞ?>

 「な!? に、人間にベヒーモス、か!?」

 <お、おお……ヒサトラ殿……!>


 俺を見て歓喜の声を上げる息子ドラゴン。

 うなりを上げるシルバードラゴンとダイトという状況に冒険者達が驚愕の表情で俺達を指さした。


 「それに見たことがない乗り物だ……! まさかこいつら、隣の国で噂の運送屋ってやつか!? な、なんでここに……」

 <ワシが呼んだのじゃ!! 孫は渡さぬぞ!>

 「マ、マジでドラゴンと友達なのかよ……ベヒーモスもいるしこれは無理だぜ!?」


 シルバードラゴンの咆哮に戦慄する冒険者達だが、リーダー格らしき目つきの悪い男は怯む様子もなく、唾を吐いてから大声を上げた。


 「びびるな! でけぇなら卵だけでも回収する手段を考えろ! よく見りゃ女も居るし、フレンドっつーなら傷ついたドラゴンを盾にでもできるだろうが、考えろ! 一攫千金は目の前だぞ」

 「お、おお……!!」


 チッ、徹底抗戦の構えか。ならぶちのめしてやるかと思った瞬間――

 

 

 「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」

 「あ」

 <む、避けられたか>


 不意に突撃したダイトの一撃で10人くらいが宙に舞った。

 それを皮切りにシルバードラゴンやアロン、ポンチョ達が飛び出した!?


 <あ”あ”あ”あ”あ”!!>

 <わおわおーん!!>

 <#!!>


 お前等やる気かよ!?


 「玖虎、コンテナを開けて! 卵はあたしとサリアちゃんでコンテナに運ぶわ!」

 「うん!」

 「オッケー、なら護衛は俺がやる……!」


 「乗り物から降りてきたぞ、あいつらを狙え!」

 <グルゥゥゥ……!!>


 数が多いな、捌ききれるか? そう思った瞬間、アロンが俺達の前に立ちはだかり冒険者に体当たりを仕掛けた。

 全力のアロンの一撃は冒険者の鎧をひしゃげさせ、2メートルは吹き飛んだ。


 「ち、小さいベヒーモス……!?」

 <わんわん!!>

 「ぶっ殺してやる……!!」

 「アロンちゃん!」

 「いや、大丈夫だ……!」


 短いながらも立派な角と爪で攻撃するアロンの背後から男が刃物で斬りかかる。サリアが絶叫するが、俺はトラックの上に鎮座したスライム達に気づいていた。

 そして五匹が固まってこちらに狙いをつけているのは、戦隊モノでよくある五人で合体して撃つバズーカのおもちゃ。しかし、サリアの剣ですでにお分かりだと思うが、あれも実戦で使える代物――


 <イクゾー!>

 <オオー!>

 <アロンクンヲマモレー!>

 「あれ!? スライムから声が聞こえる!?」


 直後、おもちゃのバズーカから虹色の塊が発射され、アロンを狙っていた冒険者にクリーンヒット。


 「ぐああああああ!?」

 「な、なん――」


 最後まで言い終えることなく、さらに地面からカラフルな爆発が起きて無情にも数人が吹き飛んでいった。色々とおかしい。だが、この状況下でこの理不尽はありがたい。


 <わんわん!>

 「おう、任せたぞ!」

 <きゅーん♪>

 <コッチハマセテー!>


 プロフィア達はコンテナ上から次々と虹色の塊を発射し冒険者達を空へ打ち上げる。なんか普通に喋れてんな……。


 「可愛い! でも後からね、風呂敷を使ってコンテナに載せるわよ」

 「はい! 二人なら軽いですね!」

 <ええー……? そう? 人間には重いからあいつら荷車を持ってきてるけど……>

 「大丈夫ですよ?」


 母ドラゴンは信じられないといった感じだが、サリアと母ちゃんが風呂敷の端を掴んでひょいっと持ち上げてスタスタと歩くさまを見て口を開けてポカンとしていた。しかし今は戦闘中。すぐに頭を振って冒険者たちの迎撃に戻っていた。


 「女と卵、両方ゲットだぜ!」

 「おっと、それは無理な注文だぜ!」

 「ぐあ!?」


 アロン達に負けていられないと喧嘩で培った拳を叩きつけてやる。

 そういやバットを持ってきてないと思っていると、視界の端にバットが見えた。見えたのだが――


 「な、なんだこいつ……」

 「マンドラゴラ、か? なんかでけえ棒をもってんぞ?」


 がらがらとポンチョが片手でバットを引きずりながら冒険者達の行く手を遮っていた。

 

 「あ」


 ポンチョの顔、というか眉間がくしゃっとなっていることに気づき俺は戦慄する。

 あの顔はガチ怒りの顔で、酔ったソリッド様付きの騎士が調子にのってあいつの湯のみを奪った時にああなったのを思い出す。ちなみにその騎士はもちろん酷い目にあった。


 俺が冒険者をあしらいながらごくりと喉を鳴らして見ていると、ポンチョが動いた。


 <あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!>

 「あ――」


 最初の雄たけびで数十人が失神。

 殺してはダメだと言い聞かせているため手加減をしている。だから引っこ抜いた時のように死ぬことは無いがしばらく起き上がれないだろう。

 耐えた冒険者も居るが、すでにポンチョは動いている。


 

 <あ”あ”あ”あ”あ”!>

 「ああああああああ!?」


 雄たけびと悲鳴が交差。

 ポンチョはバットを振り、執拗に相手の右足、その脛を打ち付けていた! もちろん相手は具足をつけているが、ものの数秒で役立たずと化す。そうなると残りは肉と骨のみ。


 「このクソ大根が!! ……ぎゃああああああ!?」

 <あ”あ”あ”あ”あ”!>


 一人目が転げまわると別の冒険者が我に返りポンチョへ襲い掛かっていく。が、小さいため捕らえられず、またしても狂ったように右脛を叩き続けていく。確実に戦意を削いでいくが正直、見た目はなにを考えているか分からない顔で意思疎通ができないから恐怖しかない。


 というか息子ドラゴンが酷い目にあっているのを見てみんなキレちまったらしい。アロンもベヒーモスの子供らしく一撃が重いし。


 とはいえ、まだ人間の数は多い……ここは脱出するべきか?

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