その71 新しい住人

 「意外と適応するのねー」

 「まったくびっくりだぜ」

 <きゅんきゅん♪>


 ジュエリーサンゴの入った水槽に合計五ヤツだが、残り四匹はコンテナにへばりついてついてきた個体で、王都に帰って来た時に気が付いた次第だ。

 最初についてきたやつが喜んでいたので恐らくレッドスライム内でも親しい間柄なのかもしれない。


 とりあえず海水でも生きていけるらしいことが分かったが、ジュエリーサンゴに変な影響がつくとまずいので後で子供用プールを出してやろうと思う。今まで出さなかったのはアロンが爪でダメにしてしまいそうだったからだが、ダイトから言い聞かせればいいだろう。


 ちなみに名前は最初のヤツにプロフィア、残りの四匹にレンジャー、デュトロ、メルファ、セレガと名付けた。

 すると、なんか一回り大きくなり大喜びだったりする。

 ダイト曰く、魔力の高いヒサトラのような者が名づけるとネームドとして今までとは別個体となるケースがあると聞いたことがある。テイマーとかいう人間が魔物を使役するらしいな。


 「ああ、ポケモンみたいな……」

 「なにそれ?」

 「気にするな。さ、仕事に行くぞー」

 <わおーん♪>


 そんでまた五日ほど配達の仕事に戻る俺達。

 お供が増えたが、レッドスライムたちとアロンの愛嬌の良さにより冒険者の乗合も増えて運行状況はぼちぼち悪くない。

 野菜や魚、果物の移送が主だが最近では鉱石や装備品なんかも配達を頼まれることがあり、国境の兵士や鍛冶屋なんかにもツテができた。


 ともあれ残りの素材もあと少しでルアンも頼りになりそうな雰囲気なので少しばかり気が楽になったのは事実で、シルバードラゴン達にマグロでも持って行ってやるのもいいかもしれないなどと考えている。

 マンドラゴラの所在が明らかになっていないのもあるしな。

 手に入りやすい素材から手に入れ、それもあまり苦労無くここまで来ているからもしかすると時間がかかるかもしれないが……


 「お、姉ちゃん俺とお茶でもしない?」

 「間に合ってますよ?」

 「そう言わずに……って、お、なんだスライムと……ベヒーモス……!?」

 <うぉふ!>

 <!!>


 そんなことを考えているとトラックのところで待ってくれていたサリアがまたナンパされていた。助けに急ぐかと思ったが、アロンとレッドスライム達が立ちはだかって抑えてくれていた。


 「くそ……なんだこいつら!? スライムのくせにイキりやがって……行こうぜ」

 <!>


 冒険者風の男が渋々その場を立ち去ろうとしたが、最後の言葉にプロフィアが反応し、赤い身体をさらに赤くして飛び跳ね、男の前に回り込んだ。


 「お、なんだ? やるっての……ぐほ!?」

 <!!>

 「おお、熊殺しのガイアが一撃で!? あのレッドスライム強いぞ!」

 <~♪>

 「く、こ、こいつめ……!」

 「止めとけ、こいつはウチの者だが挑発したてめぇが悪い。そいつを抜いたらこいつが黙ってねえぞ」


 プロフィアにやられた男が立ち上がって剣を抜こうとしたので俺はその手を抑え、左手の親指をコンテナの上に向ける。そこにはいつも通り巨大なベヒーモスがあくびをしていた。


 「う……」

 「戦ったことはねえからわからんがこいつは相当強いはずだ。ナンパで無駄なケガをしたくねえだろ」

 「チッ、分かったよ。悪かったな」

 <!>


 分かればいいといった感じでぐにゅっと体を伸ばして頷くようなしぐさをする。

 それを見た男は『随分と賢いやつだ』と肩を竦めて去っていった。

 ……やっぱ賢いのか? 


 そんなレッドスライム達がやんややんやと讃えているのを尻目に今日の仕事を終え、王都に帰った……のだが、こいつらを巡って事件が起きるとは思わなかった。


 いつものように夕食の準備を整えていると、少々やつれたソリッド様と騎士達が食材と酒を持ってやってきた。

 

 「よう、ヒサトラ君……」

 「めちゃくちゃ疲れてますね、大丈夫なんですか?」

 「うむ、心地よい疲労というヤツだから問題ない。ゴルフ場を建設しているところの近くにある町でもらった肉だ、炭火で一杯やらないか?」

 「ああ、いいですね。薄くして焼肉にしますか」

 「ほう、それはいいな」


 と、ソリッド様が微笑み、七輪で炭火焼きを始める。

 サリアに切り分けてもらい、待つ間に一杯飲めと言われて口をつける俺。明日は休みなので少しくらいは問題ないと騎士達に混ざり他愛無い話をしながら飲んでいた。

 レッドスライムが増えたことについては特に気にしても居ないようで、ベヒーモスとシルバードラゴンより大物が来ない限り驚かないと肩を叩かれた。解せん。


 <!>

 <♪>


 すると足元でレッドスライム達が体をにゅっと伸ばして酒を所望してきた。


 「……かければいいのか? なあ、スライムに酒って大丈夫か知ってる人いるか?」

 「どうっすかね? そんなことをした人間は聞いたことねえっすからねえ」

 「まあ、そうだな。まあ同じ液体だし変なことにはならないか?」


 実験だとばかりにグラスの酒をかけてやり、他の騎士達も面白そうだとかけてやる。

 各スライム達が嬉しそうに体を震わせた後、それは起きた。


 <~♪>

 <!!??>


 各々、リアクションが違う。

 上機嫌に飛び跳ねるプロフィアはいいとして、他の個体はガタガタと震えたり蕩けて伸びたりとさまざまである。


 「へえ、スライムも同じような感じじゃないんだなあ。……あ!?」


 俺が適当な感想を述べていると、プロフィアは赤い身体がさらに赤くなる。これは怒ったときと同じなのでいい。問題は他だ。


 「青色になった……」

 「こっちは緑色だぞ!? 変な液体が漏れてる!?」

 「こいつは見事なピンク色だぞ」

 「黄色のヤツもいる……!?」

 

 なんと基本色が赤から別の色に変わってしまった。

 慌てて水をぶっかけるが、結局色は戻らず。

 

 <!!>

 <♪>


 お互いを認識して体をぶるぶる震わせているのは笑っているのだろうか?

 震え方が尋常じゃない。

 というかなにかに似ているような――


 「あら、随分カラフルになったわね? この武器の箱に書いてあった色みたい」

 「そ、それだ……!!」

 「きゃ!?」


 そう、スライム達の色は戦隊ものの基本カラーになってしまったのだ……!!

 え、大丈夫なのか本当に……?

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