その46 美味いものを一緒につまめば仲良くなれる
王都へ凱旋(?)したわけだが、これがまあ騒ぎになった。
トラックのコンテナに鎮座しているのがベヒーモスだと分かった途端、ギルドから冒険者が飛び出し、騎士は総動員。人々は興味津々で野次馬となっていた。
……一般人の方が慌ててねえな!?
という感じで一時現場は騒然となったものの、町全体に通達が回り、『ああ、あの家の』といったいつもトラブルを起こすご近所さんのような扱いになってしまったが事態は沈静化した。
「ここが俺達の家だ」
<世話になる>
<わぉーん♪>
「大きいですし、倉庫の隣におうちを建ててもらいましょう!」
「だな、それまでトラックのコンテナで寝泊まりしてくれるか?」
<承知した>
のそのそとコンテナに乗り込み丸くなるなったので俺とサリア、そしてコヒーモスは家の中へ入っていく。
仕事はもう少しかかりそうだし、パソコンとか使えないか試す――
そう考えたところで、
<おおい!? 我は外か!?>
「うるさっ!? お前は家に入れないだろ、そこは我慢してくれ」
<ここでボーっと寝ていろと……>
「契約しちゃいましたしねえ」
なんか話をしながらくつろぐみたいなのを想像していたらしいが、人間は家で暮らすものなのだ。コヒーモスを置いて行こうとしたが息子は父より新しい家がお好みのようだ。
「まあこいつが大きくなったら家に入れなくなると思うしそれまでは我慢してくれ。というか大きさを変えられないのか?」
<むう、やったことはないが……できるか?>
そこから頑張ったが父ベヒーモスは小さくなることはできなかった。
一応、そういう魔法を使うことができるらしいが今まで使ったことが無いのでやり方は模索する必要があるのだとか。
<親父殿はできていた。教えてもらえばよかったな……>
<わん!>
コヒーモスは前足を上げて『どんまい!』といった感じで鳴くと、がっくりと項垂れた最強種。本当に強いのか?
それはともかく、ここまでしょげられるとは、と、俺はサリアは困り顔で笑い、腕を組んで考える。
なんとかならないか? トラックで寝泊まりしてもいいがそれだとずっと外に居ないといけない。
「あ」
そこで俺はポンと手を打って、なんとかできる方法を思いついた。
アレを使えばいいかと、倉庫へ行く。
「どうしたんですかー?」
「いや、庭も広いし寝るとき以外はこいつでいいかもってな」
そう言いながら取り出したのはテントなどキャンプ道具一式で、二人用テントに火をつけつ焚火台、フライパンなどなど、初心者が揃えたんだろうなという感じのでかいダンボールから色々と出す。
「そっち持ってくれ」
「はーい! あ、立派なテントですね」
「向こうの世界じゃ趣味としてやる人間も多いからなあ」
俺の言葉にサリアがこっちだと冒険者が目当ての魔物を狩るためじっと待つためにキャンプをするから趣味なんてとんでもないと笑っていた。確かにバードウォッチングなどで何日か固定する人もいるな。
程なくして庭が簡単なキャンプ場と化し、日が暮れてきたのでテントにぶら下げたカンテラを点灯させると、まあまあ雰囲気が出た。
<ほう、いいではないか。火を囲んで過ごすのも>
「テントで寝転がって話せるし、これならお前も文句ねえだろ」
<ふふ、いいやつだなお前は、わざわざ我のためにこのような用意をしてくれるとは>
<きゅーん♪>
「なんかお前を見てると母ちゃんを思い出すんだよ。息子の俺に必死になって働いてな。さて、それじゃ飯にするか! サリア、刺身とフライを作るから冷凍庫から魚を頼む」
「うん、楽しみ!」
駆け足で敬語でないサリアが家の中へ向かってくれた。
ちなみにソリッド様も魚を買っていて、冷蔵したまま運んだのだが、コックが鮮度がいいと驚いていて、定期的に魚を運んで欲しいと言い、ソリッド様はそれがいいと手を叩いて喜んでいた。
なんでも魚はなかなか扱えないからコックは練習、ソリッド様は魚料理を食えるというのがでかいようだ。
仕事なので報酬もあるし、俺にとっても悪い話ではない。
焚火から城の方へ目を向けて肩を竦める。きっと今頃リーザ様と魚料理でも食っているに違いない。
そんな俺達はマグロの刺身、マグロカツ、アジフライにキスの天ぷらなどの魚料理を次々に作っていく。
犬と同じなら刺身とかはまずいかと思ったが、魔物ゆえになにを食べても問題ないとのことだ。
<マグロカツ……!! これは癖になるな>
「ちょっとで悪いけどな」
<大丈夫だ。契約したから基本はお前の魔力が資本になるから食事は少量で味わえるのだ! 息子よ、いい人間と知り合ったな>
<わんわん!!>
コヒーモスは尻尾をぶんぶん振りながらサリアの手からアジフライを口にしてキレイに尻尾だけを残す。
俺の魔力が資本、か。ほぼ無尽蔵にあるからもしかしてそれに釣られたか……?
<もっとマグロをくれ>
「こっちは高えんだよ!? 刺身……うめぇ……米が進むぜ……」
「私はスズキというお魚が好きですね」
「通だなサリア……」
水っぽい印象もあるスズキは刺身ではなくフライパンでムニエルにした。
バターと白身魚のバランスは女性にいいのかもしれないな。
<美味い……美味いぞ……!>
<きゅふーん♪>
そんな二匹との二人の夜は更けていく。
気づけば近隣住民が集まり、酒盛りへと変化していくのはなかなか面白かった。
そして、それから10日後。
いよいよ、運送業が再開する時がやってきた。
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