その44 デッドヒートスクランブル

 「ヒサトラさん左!」

 「させるか!!」

 「むう……! こいつはまさかベヒーモスか、なぜこんなところに!」

 「カッコいいですわね」


 言ってる場合か!?

 黒紫とも言うべき毛を持った巨大な生き物がトラックと並走してくる。85kmまで踏んだがそれでも追いつけるとはとんでもねえ奴だぜ……!

 だが、俺も走り屋として培った腕がある、簡単に体当たりはさせねえ!

 

 「ちょいさ!!」

 「避けた! 凄いですヒサトラさん!」

 

 体当たりを仕掛けてもいいんだが、ソリッド様達の乗る左側はリスクがでかい。なので回避しているわけなんだけど、こいつは王都までついて来そうな気がするのでどこかで振り切るか倒すべきだと考えている。

 ……なら、スピードを緩めて右側へ誘導するか。


 俺はブレーキを踏んで減速し、勢い余った黒い生き物、ベヒーモスが前へ先行する。

 瞬間、俺はまたアクセルを一気にふかしてヤツの左側へつけた。


 「よし、ここからが本番だぜ」

 「ヒサトラさん、もう少ししたら森が見えてきます!」

 「オッケー……なら仕掛けるとするぜ!」

 「グルルルルル……!」


 立派な二本の角がかっけえな。男の子なら憧れる魔物だ。

 俺はハンドルをぎゅっときってベヒーモスに一撃を叩きつけてやる。どうん、という重い音と共にお互い弾かれたように左右に分かれると、ベヒーモスがギラリとした目を向けてきた。

 すると今度は向こうから体当たりを仕掛けてくる!


 「どっせい!!」

 「グルルル!!」

 「きゃあ!?」

 「うお!?」


 車体が大きく揺れてサリアとソリッド様が驚いた声を上げたが、車体はやはり倒れそうになく、へこんだりもしていなかった。そして威力は同じくらい。


 「……これは勝てる」

 「そうなのですか?」


 全然怖がっていないリーザ様がちょっとすげえなと思いつつ、俺はダメージが同じくらいならトラックには体力切れが無いのでこちらが有利だということを説明。

 だが体当たりだけでは倒しきれないと思うので俺はベヒーモスの方へ急カーブをきる。


 「ひゃあ!? ぶ、ぶつかる!」

 「心配すんな! でりゃぁぁぁ!」

 「グォ!?」


 俺が正面をぶつけると思ったか、ベヒーモスのやつはサッと横っ飛びに回避する。だが、その直後ヤツの眼前に振り回されたコンテナが現れてクリーンヒット。

 さしものヤツも頭にコンテナを食らったら怯むか。


 どうやってもトラックが倒れないならとジャックナイフ現象を使ってみたというわけ。騎士も載っているから重さはそれなりにあるしクラっとするくらいはダメージを与えられたと思う。

 そのままアクセルをふかして再び足を止めたベヒーモスの右につけると、窓を開けてバットで威嚇する。


 「まだやるか? こいつに乗っている間は俺も強くなれるらしい、次は体当たりをしながら叩いてやるぞ」

 「グルゥ……」


 俺を睨みつけてくるベヒーモス。だが俺もメンチを切るのを止めない。これは目を逸らした方の負けという男の意地でもある。しばらく膠着状態が続いていると――


 「わん!」

 「あ、ダメよわんちゃん!」

 「おう!? お前出て来るな、食われるぞ」

 「わんわん♪」


 なんか喜んでんな……? どうしたんだと思っていると、


 <おお! 息子よ、無事だったか! 今、助けてやるからな!>

 「しゃ、喋った!?」

 <わん! わおん>

 <な、なに? この人間についていく、だと?>

 <おふ!>

 

 俺の驚きには目もくれず子犬と喋っている。というか親子!?


 「じゃあこのわんちゃん……ベヒーモスの子供なんですか!?」

 <わんわん!>

 <むう……そんなにか? いや、しかし我と互角にやり合えるし……。おい、人間>

 「ん? 俺か? というか喋れたんなら先に言えよ」

 <子を連れ去ろうとした相手には相応の態度になろう? それよりもコヒーモスが世話になったようだ、礼を言う>

 「いや、そんなことはねえが……」


 よく分からんがお座り状態で頭を下げられたのでこっちも返しておく。するとベヒーモスはとんでもないことを口にした。


 <どうやら息子はお前達が気に入ったようだ。飯も美味かったと言っていてな、このまま連れて行ってもらえるだろうか?>

 「そりゃ構わねえが……いいのか? 息子なんだろ?」

 <うむ。もちろん我もついていくぞ>

 「はあ!? いや、それなら連れて帰ってくれよ!」


 いくらなんでもそれはまずいだろう。元々、捨て犬ならということであれば飼うという話だったので、親が居るならお引き取り願いたい。


 <くぉーん……>

 「そ、そんな顔をしてもダメだ! ほら、戻れよコヒーモス、でいいのか?」

 <きゅーん! きゅーん!>

 <嫌がっているな……>

 「子供だからコヒーモス……興味深いですね」


 サリアがどうでもいいことに感心していると、隣で固唾をのんで見守っていたソリッド様が口を開いた。


 「ふむ、ベヒーモス殿は意思疎通が取れる。だが、我等に危害を加えないとは限らん、というのがネックになると思う。ヒサトラはそこを懸念しているのだよ。失礼、私はこの国の王、ソリッドという」

 <人間の王か。ふむ、確かに魔物である我は少し目に余る、と。なら契約を結んではどうだ? ヒサトラ、我と獣魔契約をしようではないかコヒーモスはそっちの女がすればちょうどいい>

 「……それはいいが、メリットとデメリットを聞かねえと判断できねえぞ?」


 俺がそういうと、ベヒーモスは尤もだと説明を始める。 

 

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