第6話 妹1

「マリアンヌのようにはなるな」


 それが両親の口癖でした。

 私はいつもそれに頷きました。そして心の中で嫌悪しました。

 私は姉を愛していたのです。


 優しい人でした。

 臆病で、強く出れなくて、いつも誰かの後ろに隠れて、1人で悲しんでいて。

 なのに、私には憎しみの篭った笑顔を見せる。

 子供なのに、そんな姿が私の心を打ちました。

 嫌われていても構わなかったのです。ただ私は愛する姉を守ろうときめました。


 姉は、母の子ではありませんでした。

 姉はそれを知らなかったけれど、私はこっそり知ってしまったのです。姉はだから母に嫌われていたのです。

 父が姉に冷たくするのは、母に嫌われないためです。そのためなら、娘のことなど蹴りつけることもできる邪悪な人だったのです。

 いつもいつも冷たくて、暴力を振るう。

 けれど時々、母が姉に優しくすることがありました。

 私はそれが恐ろしかった。


 なぜなら姉に優しくする時はいつも、恐ろしい策略があるからです。

 誕生日のプレゼント。そう言って渡されたケーキを私は奪うように食べました。

 体が重くなり、吐き気はひどく、熱もでて、起きていることおも苦痛でした。

 

 毒が入っていたのです。


 姉が見舞いに来てくれました。うれしかった。私は気丈に振る舞いました。

 母が姉に毒をもったことを気づかれたくなかった。

 これ以上悲しんでほしくなかった。

 でもそれは姉の私への憎しみを高めるだけ。

 それでも私は、同じことを繰り返しました。

 姉を守るためです。

 私は頻繁に身体を壊すようになりました。毒のせいでしょう。それでも私は姉を守りました。

 もはや使命でした。

 他にできることも何もなかったのです。

 私はそのためだけに生きていたのです。


 そんな私を邪魔する存在がいました。

 王太子です。

 最初、王太子が姉を選んでくれたことを私は心から喜びました。

 これで、姉は恐ろしい地獄のような公爵家から解放されると。しかしそれは間違いでした。

 ある伯爵が言いました。

 王太子は狂人であると。


 私は半信半疑で王太子に近づきました。

 そしてすぐに気づきました。

 目が笑っていない。私を見る目のなんと恐ろしいこと。殺人鬼のような目でした。

 姉のどこが気に入ったのかと訊ねると、清楚で優しいところと言いました。

 私には「大人しく従いそうで、愚鈍そうなところ」そう言っているように聞こえました。

 

 姉に恨まれるのは覚悟の上で、私は王太子を誘惑しました。

 王太子が私に夢中になるのはすぐでした。

 そして姉が私を恨むのもすぐでした。


 

 王太子は私を叩きました。ひどく楽しそうに。

 なんでこんなに恐ろしい人なのか、私にはわかりません。

 彼は手ひどく私を扱いました。けれど私はそれでもよかった。姉を守れたから。

 もはやこれも狂気だと気づきながら、わたしは姉を守ったことに満足していました。


 姉から手紙が届いた時。私は恐ろしかった。

 姉があの伯爵と恋人になっていることも、その伯爵の言葉を全て鵜呑みにしていることも、王太子を失脚しようとしていることも。

 私は恐ろしかった。

 私はもうだめだと思いました。

 きっと何をいっても姉は聞いてくれないでしょう。でも私は姉を救いたくて、正直に手紙を書きました。

 わかってほしかった。

 無事でいてほしかった。

 笑っていてほしかった。


 でも無理でした。



 


 

 

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