第4話 カップルイベント
綾が秘密というか気持ちを打ち明けてくれた以上、俺も話さないとな。
「実は、バイトっていうのは投資のことなんだ」
「投資?」
「うん、あの火事があってから独学で始めたんだけどね。かなり上手くいった。だから、お金のことは気にしなくていい。これから綾におこづかいもあげる」
「そうなんだ。お兄ちゃんって凄いんだ」
なんだか尊敬の眼差しを向けられて、俺は照れる。
てっきり、なにそれと思われるかと想定していたけど、綾は理解を示してくれた。
「凄いっていうか、運が良かったんだよ。宝くじの一等が当たったようなものさ」
「それって十分凄いよ。それに、運も実力の内って言うでしょ」
「そうなのかなぁ」
「そうだよ~。自信もっていいと思う」
話しながらショッピングモール内を進むと、ゲームセンター付近に近づいた。
「綾、ゲーセン寄ってく? ちょっと時間あるし」
「いいの?」
「もちろんだよ。クレーンゲームとか好きか」
「うん。わたし、得意なんだよ」
綾は、女友達とよく遊びに行っているようだった。へぇ、綾の友達かぁ。見たことないな、どんな子なんだろう。
ちょっと興味が沸きつつも、ゲームセンター内へ入っていく。
今日はカップルが多いように思えた。
「……」
「お兄ちゃん、なんか恋人同士みたいな人が多いね」
周辺の状況を見て綾は、顔を赤くする。
俺もなんか居心地悪いな。
けど、俺と綾もそういう風に見えているのかな。
そして俺は気づいた。
今日、このゲーセンでは“カップルイベント”を開催中だということに。そうか、それでカップルが多かったのか。
どうやら、カップルで来るとメダルゲームコーナーでメダルが格安で3000枚買えるらしい。それとクレーンゲームの場合、プレイ無料チケットが貰える特典もあるのだとか。
なるほど、と納得しているとスタッフのお姉さんに話しかけられてしまった。
「そこのカップルさん、クレーンゲームでしたら無料で遊べますよ!」
「え、あの……俺たちはその……」
どうしよう。
俺と綾は、別にそういう関係では……。
兄妹のはずなんだけど、けれど、なんだろう。
「……」
綾の訴えかけるような視線が向けられて、俺は“恋人ではありません”と言い辛かった。
……まあいいか。
義理の妹なんだ。付き合うとか結婚だって合法だし、俺もそういう関係を望んでいないわけではない。むしろ、恋人という関係になれるなら……それは望ましい状況だ。
だから俺は思い切って言ったんだ。
「ええ、カップルです」
「ですよね! とてもお似合いですよ。彼女さん、有名アイドルの方ですか? お人形さんみたいでとても可愛いですねっ」
お姉さんから見ても綾は、そういう風に見えるらしい。女性でもそう思うんだ。なんて思っていると綾は顔を真っ赤にして
スタッフのお姉さんから褒められて照れてるのか、それとも俺がカップルと認めたせいかな。
「あ、ありがとうございます」
そう綾が頭を下げてお礼を述べていた。
なぜそんなに感謝を?
「では、お好きな台をお選びください~。三回分の無料プレイをプレゼントいたしますので」
そういうことか。
「綾、好きなのを選べ」
「え、わたしが選んでもいいの?」
「いいぞ。さあ、俺に奇跡を見せてくれ」
「うん、燃えてきた。一発で取ってみせるよ!」
やる気が出たのか、綾はメラメラ燃えていた。
おぉ、こんな元気なのは珍しい。
綾はクレーンゲームの
「これですね。では、三回分を入れさせていただきます」
お姉さんがカギでカチャカチャやって三回分のプレイ回数を入れてくれた。これでタダでプレイできるのか。ラッキーだな。
それにしても“サメのぬいぐるみ“か。
かなり巨大。
抱き枕になるレベルのサイズ感だぞ。
「デカいな。これ取れるの?」
「たぶん。でも、がんばるからね、お兄ちゃん」
やる気十分の綾は、さっそくレバーを慎重に操作していく。どうやら、このクレーンゲームは三十秒までは操作可能なタイプらしい。
あとは位置をしっかり定めてボタンを押し、三本の爪で人形を掴む。景品を取り出し口へ落とせばゲットとなるようだ。
しかし、そう簡単には掴めないし、落ちないだろうな。
なんせあの巨大なぬいぐるみだからな。難しそうだ。
そんな綾は、手慣れた手つきでゆっくりとアームを進め、狙いを定めていた。なんて繊細な操作。すげぇ……プロかよ。
ついにボタンを押してアームを降ろす。
果たして宣言通りに一発ゲットなるか!?
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