第8話 秘密の扉





 あの少女のことは忘れようと決めた翌日。

 朝食に牛乳とブルーベリー入りのコーンフレーク、ミニトマトを食べ終えた涼典は、靴を履いて玄関でどこかへ連れて行ってくれるという祖父を待っていたのだが、家の中に戻って来てくれと言われたので靴を脱いで廊下を歩いた。

 台所も居間も自分が寝泊まりしている部屋も祖父母の部屋も通り過ぎて奥へ奥へと向かいながら、祖父の声を辿ると廊下の突き当り、曇り硝子と竹格子の扉の前で立っている祖父を発見した。

 

「じいちゃん。手伝い?何か運ぶの?」


 その扉の向こうは物置部屋だと考えた涼典がそう言えば、祖父はこれは秘密の扉なんだと言った。


「秘密の扉?」

「そう。とある素敵な場所に繋がる秘密の扉だ」

「………ほう」

「信じていないな、涼典」

「信じたいなーって子ども心と、信じられないっておとな心がせめぎ合ってる」

「難しい言葉を知っているなあ」


 すごいすごいと頭を撫でられた涼典はふふんと鼻の穴を大きくした。


「で、どこに通じてるの?」


 褒められていい気になった涼典は祖父の話を聞くことにした。


「んん。それは見てのお楽しみ。と言いたいところだが。涼典はもう見ちゃってるもんなあ」

「え?」

「まあ、そもそも見てないとこの秘密の扉は出現しないんだけどな」

「んん?」

「大丈夫、大丈夫。じいちゃんも一緒に行くから。柚樹ゆきにも持って行くって約束したし。ミニトマト」

「誰?」

「涼典がこれから毎日会いに行く女の子だ」

「え?」


 毎日会いに行かなくちゃいけないのか。

 せっかく自由な夏休みなのに勝手にスケジュールを決められるのは嫌だと言ったが、祖父にとりあえずもう一回会ってから決めてみてくれないかと言われたので、しぶしぶ了承して、扉の向こうへと入って行くと。

 段ボールが綺麗に置かれた物置場から景色は一変して。

 昨日必死で登った巨大杉の樹冠の枝の上、ラベンダー畑が広がるそこにいつの間にか立っていた。

 










(2022.7.16)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る