第76話違った形
「父上、範信になんという言い方をしたのですか?」
無愛想ながらも若干食い気味で範忠は問う。
「詮無きことよ。」
「父上、はぐらかされるな。実際範信に勘当を言い渡したのでしょう。」
「・・・。」
話は筒抜けだった、いや、そもそもこうなることを悟っていたかのような口振りだ。
「私のことが気に食わないのならそれはそれで構いません。しかし、範信やその下の彼らだけは大事になさってください。」
「知ったような口を聞くわい。」
ただただ凍てつき融解が見る影もない。互い同士がそれぞれいがみ合う訳では無い。どこかで綻んだ継ぎ接ぎが剥がれてしまったのだろうか。その日の熱田は全てにおいて真逆のような空気と静寂を振りまいていた。
ーーー
カン!カン!カンッ!
「くっ。少しは手加減しろよ!この戦闘狂!」
「ふははははは!『ウリ坊』如きに朱若殿は劣ると!」
「野郎・・・。」
(完全に引きづってやがるじゃねぇかあああぁぁ!)
久々の晴れ晴れとした乾いた冬空の下朱若は無慈悲な制裁を被っていた。
季邦の目は半ば正気とは言えないものである。
(これもそれも前のおちょくりが原因なのは否めないッ!)
しかし同時に朱若は何故かとも思った。
なぜならこういう面倒事の報いはいつもと言っていいほど朱若にしかしわ寄せがこない。
「お前の、イノシシ武者の癖に精神年齢が幼いから、『ウリ坊』なんだよッ!」
「ふははははははははは!!!朱若殿ォッ!少し眠りましょう!」
「あ、やべ・・・、言っちまった。」
半ば嬉々として狂った季邦の太刀筋には主人への恨みがこれでもかと詰まっていた。残念ながらそんな木刀は既にすぐそこだ。
「クソォッ!こんな状況認めてたまるかぁぁぁ!!!」
バキィィィィッ・・・・・!
「うぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?!?!?」
ーーーー
「痛てて・・・、クソォ、本気で振りやがったなぁ〜ッ!季邦の奴ッ!」
耳元で全力で叫ばれるような不快感ある頭痛を伴いながら朱若の意識は寝床で回帰した。
「あ〜、頭がガンガンを越えてドカンドカンする・・・。」
感覚器官がこれでもかと歓声を上げる中、朱若には気がかりが残る。
(結局は範信と会えなかったな。)
翁の勘当宣言以降、範信は忽然と熱田で見なくなってしまった。
(範忠伯父もいつもと変わらず無愛想だし・・・)
それでも時間は無情に進む。朱若とて予定として決まっているのを強行してここに居座る訳にもいかない。
「あ〜あ、上総の時みたく納得出来ねぇな。」
図らずの朱若はこの関東で様々な家族の形を見てきた。
(千葉や鎌倉党、足利、新田はすごいいい感じだった。なんかみんなで支え合ってるっていうか、理想って感じだった。上総とか、秩父党とかは反面気持ちよくなかったな・・・。一人でも自身の利益しか見えてないやつが全てを蝕んでいた。)
朱若にとって今の源氏は内側、つまり父やその子達の関係性は前者のような理想と言ってもおかしくはない。
たが、外側はどうだ?
現状父は祖父や自身の兄弟と争い、史実でも朱若達兄弟は結局全員が円満とは言えない最期を迎える。
(俺しかいねぇんだよな。)
無論、打ち明けたことは別にしても実際に動いて変えられる可能性は朱若にしかない。確かな根拠は無いが、自身の経歴の不確実性が一番動きやすいからだ。
(そういえば、姉さんは元気かな。)
ふと唯一彼の決意を知る人の姉が浮かぶ。
彼女こそ親身になってくれてるとはいえ彼女自信にも限界は存在する。坊門姫にも確実な史実が存在するが故に意識してもことが史実のように転ぶ可能性は間違いなく高い。
「はぁ、どうすればいいんだよ。結局、俺自身にも限界なのかなぁ。だとしたらすごい俺って・・・」
(無力だ・・・。)
ーーーー
そして次の朝。
朱若達はいよいよ出発の日を迎えた。
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