第23話
「はぁ……はぁ……待たせてすまない。す、座ってくれ。茶を……あ……メイドが居ないから……」
凄い汗なんだけど?
ってか、わたくし達が引越してからたった2日で顔色悪くない? ちゃんと食べてる?
「あの、お茶はわたくしが淹れてもよろしいですか?」
「そ、そうか! お願いしても良いだろうか?!」
「ええ。食糧などは残しておいた筈ですが顔色が悪いですね。まさか、食事を摂っておられないのですか?」
「いや、見兼ねた騎士達が作ってくれている」
「美味しくはないですけどね」
鏡がボソリと言う。やっぱり不機嫌よね? 鏡の精ってお腹空くのかしら? 今まではなにも食べさせてないけど、もしかして空腹だったとか?
「じゃあ、何か作るわ。鏡も食べる?」
「食う。俺も手伝うから、姿を変えて良いか?」
「良いわよ」
そう言うと、鏡は男の姿になった。あ、姿を変えるってそういう事か。ま、良いか。
「なっ……! ななななな! 鏡殿は男性なのかっ?!」
なんか凄い驚いてるんだけど。まぁ、目の前で性転換したら驚くわよね。にしても、驚き過ぎじゃない? 鏡が人間じゃない事は知ってたんだし、魔法だって珍しいけどない訳じゃない。国王なんだから、魔法くらい見た事あるわよね?
「あ? 性別なんてどっちでも良いだろ。俺は彼女が作った鏡の精だ。それ以上でも、以下でもねーよ」
鏡はますます不機嫌になってる。これは、急いで食事を作らないと……!
「騎士達の分もわたくしが作りますわ。陛下はお仕事をなさっていて下さいませ」
「そーそ。さ、俺達は食事を作ろうぜ」
「ま、待て!! 仕事は終わっている! 私も手伝う!!!」
「料理のやり方も知らない国王陛下はお呼びじゃねーよ。大人しく待ってろ」
「鏡殿、今までとずいぶん態度が違うな」
「こっちが本来の俺だ。俺が言う事を聞くのは彼女だけ。いくら国王陛下でも国民でもねー俺を従わせる事は出来ねぇ。人間ですらねぇんだから、不法侵入で捕まえる事もできねぇ。ま、女王様を捕まえるってんなら別だけどな。俺は彼女の付属品だから」
「え、やっぱり陛下はわたくしを捕まえたいくらい恨んでるの?!」
「そんな事はない! 貴女を……カタリーナを捕まえたりしない。恨んでもいない。感謝してるし、悪かったと思ってる。で、出来るなら……これからも私と夫婦でいて欲しい!」
は? なんで?
別れるって……言ってたわよね?
「必ず別れるって言ったのはテメェだろ。いい加減、俺のご主人様を解放してくれよ。ご主人様は白雪姫の母親でいられたらそれで良いんだ。テメェは要らねぇんだよ」
低い……恐ろしい声で鏡が凄む。
鏡の目は赤く染まり、身体からは見た事のない昏い炎が纏わりついている。わたくしは怖くはないけど、他の人は物凄い恐怖だと思う。実際、護衛の騎士達は全員気を失ってる。だけど、国王はわたくしと鏡に再び土下座をした。
「私が悪かった! この2年の私の失態は、一生背負わないといけない私の罪だ! 心から謝罪する! だが、このまま私と別れてしまってはカタリーナも色々困るだろう! 私と別れない方がマルガレータと共に過ごし易い筈だ! 頼む! 私にチャンスをくれ!」
「要らねーだろこんなヤツ! 白雪姫だって嫌ってるんだからよ!」
鏡が暴走してる。まずいわ。このままだと……国王に……夫に危害を加えてしまう。そうなったら、鏡は……。
「鏡! 駄目!」
今にも襲い掛かりそうな鏡を抱きしめて、暴走する魔力を吸う。元はわたくしが作った鏡の魔力……わたくしなら、暴走を抑えられる。
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