第20話

「すまなかった」


えー……会った途端に土下座?


騎士団長を訪ねて夜が遅くなったから眠いんだけど、だらしない姿を白雪に見せる訳にいかない。眠気を我慢して働いていたら、本当に国王が訪ねて来た。


白雪に会わせる前に念のためわたくしが対応する事にしたの。みんなは会う必要はないって言うけど、国王よ?! さすがにそれはダメでしょ?!


相変わらず甘いと鏡には笑われたけど、わたくしのせいで親子仲が悪くなるなんて嫌だもの。


だから、わたくしがひとりで出迎えた。


そしたらいきなり土下座したのだ。


「コレ、頭でも踏んでみたらどうだ?」


姿を消した鏡が本当に頭を踏もうとする。


「だ、駄目よ!」


思わず、声を出して鏡を止める。


「……やはり、駄目か。許しては……貰えないか……」


「あ、いやそうじゃなくて……」


ああもう! ややこしいわっ!

混乱していたら、鏡が急に女の姿になった。


「貴女は……マルガレータの家庭教師の……」


「鏡です。わたくしは女王様の作った鏡の精。人間ではありませんわ。先ほどまでは姿を消していたのですけど、国王陛下と女王様は夫婦ですもの。姿をお見せしても良いかと思いまして」


「鏡! 何やってるのよ! 人間じゃないから白雪の家庭教師をやめろなんて言われたらどうするのよ!」


「こんな時でも白雪姫様が優先ですか。さすが女王様です。ご安心下さいませ。国王陛下はそんな事を言うほど愚か者ではないでしょう」


「……その通りだ。貴女は姉のように人を操るような非道な魔法は使わないと聞いた。騎士団長や、マルガレータの信頼を得ている事からも鏡殿がきちんとした方である事は分かる。今の現状は全て私が逃げた結果だ。魔女だからと貴女を……カタリーナを捕らえようとした事も、今までの無礼も、全て謝罪したい。騎士団長は私についていけないと辞めてしまった。彼のおかげで、ようやく目が覚めたよ」


初めてわたくしの名を呼んだわ。驚いていたら、鏡が不機嫌そうに夫を責め始めた。


「騎士団長は長年仕えてくれてたのに、追加の給金を渡さなかったそうですわね」


「……しまった……確かにその通りだ……! しかし、何故そんな事を知っているんだ」


「わたくしは、なんでも知っている魔法の鏡ですので。ご安心下さいませ。女王様が昨夜騎士団長にお会いして宝石や金貨を与えておりましたわ」


「そんな事まで……白雪の事も任せきりになっていたし……私はなんて……情け無い男なんだ……」


そう言って、泣き出してしまった。


「また泣くだけですか? 女王様、こんな男放っておきましょうよ」


「待って! 色々聞きたい事があるわ。まず、姉の魔法って……何よ?」


「姉も貴女と同じ魔女だったんだ」


「じゃ、じゃあ……あの料理長への変な命令は魔法で操られていたって事?」


「……おそらくは……そうだと思う……」


え、じゃあこの人悪くないの?

散々罵っちゃったけど、冤罪?!


「女王様、人を操る魔法は長持ちしません。ご存知ですよね?」


「え、ええそうね。それにとっても難しいわ。わたくしは使えないもの」


「国王陛下の姉君は幽閉されましたし、もう人と会う事はありませんから大丈夫ですわよ。女王様はお優しいですから、人を傷つける可能性のある魔法はお使いになりません。国王陛下は、確かに姉上に魔法で操られていました。ですが、操られたのは1回だけです。それから2年、彼はなにもしなかったのです」


「鏡殿の仰る通りだ……私が……愚かだった……」


「でも、きっかけは魔法だったんでしょう? なら……陛下は悪くないんじゃ……」


「甘いですね。悪いに決まってますよ。白雪姫様が病で亡くなったと仮定しましょう」


「え、白雪、病気なの?!」


「仮定だって言ってんだろ。話を聞け」


鏡が取り繕う事も忘れてツッコむ。


「ごめんなさい、白雪の事になると冷静な判断力を失ってしまうの」


「女王様は白雪姫様を溺愛しておられますから仕方ないでしょう。ですが、女王様は万が一白雪姫様が亡くなったとしても、お仕事を放り出したりなさらないでしょう?」


「そりゃそうよ。そんな事したら、白雪があの世で心配するじゃない」


「……うっ……その通りだ……」


あ、あれ?

めちゃくちゃ落ち込んでるんだけど……なんで……あ、あああ……!


「ご、ごめんなさ……」


謝罪しようとしたら鏡から口を塞がれた。


「謝んなくて良い。陛下、マルガレータ様は陛下を簡単に許しませんよ。大体、女王様とは絶対に離婚するのではなかったのですか? 王が約束を違えるなどあってはなりませんよね? この城の主はマルガレータ様です。陛下は出入り禁止だと伺っておりますわ。本日のところはお引き取り下さい」


そう言って、鏡は夫を追い出してしまった。

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