第10話 和解
その夜のこと、いつも通りに夕食を済ますとディアナはベルマの部屋に足を運ぶ。
彼はいつも通りの夕食の時間になってもこちらに来る事はなかった。
そんな彼のことをディアナは心配する。
自分がもうすぐ慣れ親しんだこの場所から出ていくという事実よりも今日ベルマが夕食にこなかったという事のほうが今の彼女にとっては問題だったのだ。
静かに廊下を進みベルマの部屋の前で立ち止まる。
ノックをして部屋に入ろうと試みるがノックの手は板に当たる直前で止まる。
自分がなにを話したいのかがわからなかった。ノックをしたとして、伝えたい言葉がないのであればずっとそこで立ち尽くすこととなってしまう。それではベルマも困ってしまうだろう。
そう思うと目の前の扉がとても厚く思えてくる。
しかし、何もせずにここにいることも違う気がしてディアナは扉を叩いた。
「ベルマさん、夕食……。あるんですけど食べますか?」
他にもっと話さなければならないこともあったのだろうが一番自然な会話を選ぶことにした。
返事はなかった。いないのかと思い扉を開け確認したがベルマの姿はそこにあった。
灯りもつけずに椅子に座りちいさな箱を眺めている。
寂しさを纏った姿に「大丈夫ですか?」という言葉が反射的に浮かんだが口にする前にベルマがディアナに気づいた。
「ああ……。ディアナか、どうかしたのか?」
「あ、えっと夕食の時間になってもベルマさんが来なかったので呼びに来たんですけど」
ベルマは外に目を向け月を確認するとため息をついた。その仕草はまるで、夜になったことに今やっと気づいたかのようにも見える。
「それは、すまなかった。後でいただくから先にみんなで食べててくれるかな?」
「あ、いえメイが駄々をこねまして、先にいただきました。」
「そうか。」
「はい。」
会話はここで途切れる。
普段は起きることもない気まずい雰囲気が漂う、ディアナは居心地が悪そうに目を逸らした。
「あの、では私はこれで……。食べた後に食器を洗い場のほうに移してもらえると助かります。」
場の雰囲気に耐えられなくなり「それでは」とその場を後にしようと扉を開ける。
「すまない。」
背中にそんな言葉が投げかけられ、ディアナは部屋から出ることができなかった。
それは、彼女自身にも彼と話したいことがあったからだ。
「いえ、謝られるほどのことでも……。」
それでも口火を切る気にはなれなかった。
自分でも話したいことはわからない。ここを離れることに不安はあり、そのことで話をしたいのかとも思うがそれで何かが変わるわけでもないだろう。
「そういう意味じゃない!」
普段では考えられないくらいに怒気を孕んだ声だった。
その剣幕にディアナは驚かされたが、ベルマ自身も驚いたようだった。
「すまない。」「いえ……。」
ベルマは言い淀んだが「少し、話をしないか?」と言った。
それはディアナにとって願ってもないことで自然に「はい。」と言うことができた。
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