41話 命に関わる予言
次の日の朝は、妙にすっきりと目が覚めた。
多分眠れないだろうと思っていたけれど、意外と図太い自分に驚いた。カーテンを開いて朝日を導く。久しぶりにテレビも付けずに静かな朝食を取った。
食べ終わった皿をシンクに放り込み、シャワーを浴びてからこれまた久しぶりに部屋の掃除をし、すっきりした部屋で大好きな劇団のDVDを二本見たらすぐに昼になった。
『最後の食事は何がいいだろう。今まで食べたことのないものにするか、それとも今まで食べた中で一番美味かったものにするか』
DVDの中で僕の一番好きな役者さんが言うセリフだ。この作品を見る度に考えてみるけれど、答えはいつも違っていた。
母さんの弁当が食べたかったな、そんなことを思いながら初めて食べる味のカップラーメンを昼食にし、
「……ご馳走様でした」
生まれて初めて食後のカップラーメンに手を合わせた。
「王城寺学院前、王城寺学院前でございます。本日は列車遅れましたことをお詫び申しあげます」
土曜日の午後の電車は余震の影響で十五分ほど遅れたにも関わらず、少し不安になるほど空いていた。
僕一人の車両から僕一人のホームへ降り立ち、僕一人で改札を抜けて僕一人で坂を上る。
この坂を上るのはこれで何度目になるだろう。入試で初めて大学を訪れた時は、試験に受かるかどうかより、仮に受かったとしてこの坂を毎日上り下りできるのかという方が不安だったが、今となれば慣れたものだ。
三叉路でしつこいほど左右を確認した。
昨日、ポルシェにひかれかけた忌まわしの三叉路は、一年前に初めて
不思議なものだ。
つい昨日死にかけた記憶より、一年前に交わした何でもない挨拶の方が鮮明に覚えているのだから。
ちょうどこのマンホールの上に多喜さんは立っていた。デニムのシャツを着ていた。少し上擦った声だった。もう一つの太陽のような笑顔だった。
声も姿も笑顔も、残像を描けるほど鮮明に覚えている。
『おーはよー』
あの時は、憧れの先輩に初めて声をかけてもらった嬉しさと驚きで、ミニカーの不自然さなど意識の端にも上らなかった。スポットライトを浴びたかのようにキラキラと髪の毛を輝かせる多喜さんは、木漏れ日の妖精のように見えた。
『おーはよー』
あの日が始まりだった。
あれから何度、多喜さんのポルシェの襲撃を受けたことだろう。
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