エピソードFINAL『白金愛梨と万屋太陽』

【第93話】白金愛梨と万屋太陽①


 【読心能力】者は、白金愛梨の他にも過去に四名存在していたと記録が残っている。

 かの『日本超能力研究室』の資料室に、その四名の【読心能力】者の記録が保管されている。


 かつて太陽達は、閉ざされた愛梨の心を開くべく、その記録に目を通した。

 千草の【透明化】と忍の【瞬間移動】を使用した、所謂不法侵入というやつだ。

 結果、その不法侵入は成功し、彼ら彼女らは歴代の【読心能力】を持つ者達の末路を知った。


 四名の内――


 一名は銃殺されていた。

 【読心能力】を、悪い事に使っていたからだ。それ故に、『日本超能力研究室』当時のエージェントに、激闘の末敗北し、銃殺されたのだ。

 この例が、】者の記録である事が、皮肉と言わざるを得ない。


 というのも……残りの三名は――



 自殺――なのだから。


 それも三人共、二十歳になる前に全員自殺し、死亡している。

 善良な心を持っていたそうだ……。

 だからこそ――耐えられなかったのだ。


 他人の心を読んでしまう罪悪感に……。

 人の闇を知ってしまう絶望感に……。

 そんな強力で凶悪な力に頼り切ってしまう、自分自身に……。


 悪人程、長生きをしてしまう強大な力……それこそが――【読心能力】なのである。


 強大な力というものは……超有能である代償として、能力者本人の身体や精神を摩耗させてしまう。

 強力な薬には、相応の副作用があるように……。


 【超能力】にもまた……副作用があるのだ。



 さて――――


 話を本題に戻そう。


 愛梨は正に今――その『副作用』と向き合っている。

 向き合い、立ち向かった結果……敗北し……心が打ちのめされている。

 だから別れる事を提案した……という運びである。


 【読心能力】者の弱点として――『自己決定能力の損失』というものが上げられる。


 なまじ他人の心を読んでしまう為、行動がそれに引っ張られがち、という事だ。

 常に答えを見ながら問題集を解くようなものだ。


 だからこそ――いざという時――即ち、今回のような、に、

 数々の【読心能力】者達が、その葛藤に苦しんで来た。

 そして今――目の前の小さな少女が……その葛藤と、向かい合っている。


 太陽は、その事に気付いている。

 よって――彼はこう返答した。


「嫌だ!」


 そう……別れの言葉を――否定した。


「絶対に嫌だ! オレは――お前とは絶対に別れない! 絶対にだ!」


 これは……太陽の決意の言葉……。心からの言葉だった。

 だが――――


「……そう言ってくれるのは……凄く嬉しい……心から、そう思ってくれているのは、知ってるよ……。太陽は……そういう人だもんね……。だって私は……貴方の、そういう所を……好きになった、んだから……」


 愛梨の心へは――届かない。

 涙ながらに彼女は言う。


「でもね……? 今は、そう言ってくれる……けど……いつか…………いつか必ず……貴方は……私に失望する日が来る……。だって私……駄目だもん……。だから私は……その前に、綺麗な関係のままで……お別れ、したいの……」

「そんな事ねぇよ!! ありえない!! オレはお前に失望したりなんて、絶対にしない!! 絶対に、だ!!」

「……ねぇ……太陽くん……」

「太陽くん、なんて、よそよそしい呼び方すんじゃねぇよ!! 気安く呼び捨てで呼べよ!!」

「太陽……知ってる……? 人の心ってさ……変わるんだよ……? どれだけ優しかった人も……お父さんも、お母さんも……変わっちゃったの……人には必ず、心に陰と陽があって……それは幾らでも引っ繰り返る……例え、強い意志を持つ人でも……それは同じ、という事を……私は知ってる……知り過ぎる程、知ってるし……知りたくない程……知ってしまっている……だから――」

「だからオレも! いつか心が変わって――お前に失望するって言いてぇのか!? ふざけんな!! にも言ったよな!? オレはオレしかいねぇんだよ!! 今までお前がどんな人と出会って来たのかは知らねぇけど!! 今迄のお前の人生の登場人物と一緒にすんな!! お前にとってのオレは――――オレしか、いねぇだろうが!!」

「そう……私にとっての、太陽くんは……太陽くんしかいないよ……」

「だったら――」

「だからこそ……私は……貴方との関係を、大事なものとしていたいの……」

「…………は?」

「かけがえのない……楽しかった思い出として……心に、残しておきたいの……汚れず……思い出したくなくなる前に……」

「意味分かんねぇよ!! 意味分かんねぇ!! だったらこれからも楽しい思い出を作っていけば良いだけの話だろうが!! 汚れないように……手を取り合っていけば良いだけの話だろうが!!」

「無理だよ……」

「無理じゃねぇよ!! お前が勝手に決めんな!! オレならそれが出来る!! やってみせるから!! だから――そんな寂しい事……言うんじゃねぇよ!!」


 太陽の目からも……熱いものが、込み上げてくる。

 しかし――――


「ありがとう……そう言ってくれて……嬉しいよ……。でも……無理なのよ……私はその事を……知っているから……」


 やはり愛梨には――届かない。


「愛梨っ!!」

「幸せになってね……? 太陽くん……『良い人は……幸せにならなきゃ、いけない……』んでしょ……? 幸せになってね……太陽くん……」

「っ!!」


 ここで、愛梨がスマートフォンを口元に当て「お願いします」と言った。

 どうやら通話中だったようで、通話相手から返答がくる。

 『本当に、良いのか?』と。

 愛梨は即答する。

 涙を流しながら……悲しそうに……。


「はい…………」

『……了解した……』


 次の瞬間――――


 太陽の周りを……桃色の、煙のような気体が包み込んだ。


「っ!! ごほっごほっ……! おいっ! これは一体……!!」

「『催眠弾』よ……人一人を狙い撃ちにして眠らせる。『研究室』の、捕獲用の武器……」

「……な、何で……お前が、そんなものを……」

「私じゃないわ……」

「……っ!」


 意識が途切れそうになりながら……太陽は、近くの民家の屋根の上に立っている、女性の影を目撃した。


「猫……田……さん……?」

「猫田さんも……犬飼さんも……私が、『研究室』の研究に協力すると言ったら……コレに協力してくれたわ……。渋々だけどね……」

「お前……! 何を……!」

「本当に……楽しい高校生生活だったわ……。私みたいな屑には……勿体ない程の……ね……」

「愛……梨…………」

「幸せな時間をありがとう……」

「行く……な……」


 そこで……太陽の意識は途切れた……。

 最後に、この言葉だけが……聞こえて来た……。



「さよなら……太陽……ありがとね……」


 こうして……万屋太陽と白金愛梨の恋物語は――


 終わったのだった。










 否――


 まだ……終わらない。


 この二人のやり取りを……影から見ていた人物が二人。


「……万屋の誕生日に、体調を崩して学校を休むだなんて、おかしいと思ってた。やっぱり……そういう事だったのね……」

「……どうする? 宇宙」

「どうするもこうするも……決まってるわ。愛梨は間違っている……が間違った道に進もうとしているなら――――



 止めるのが――――親友の役目よ!!」



「……だな。かつてあの二人が、拙者達にしてくれた恩を……返す事にしようか!」


 星空宇宙と土門忍。

 先ずはこの二人が立ち上がる。

 スマートフォンを取り出し、情報を――――残りの元ヒーロー達に一斉送信した。


 その後、忍が【瞬間移動】にて倒れた太陽の回収へ向かう。


「諦めるなよ……拙者達が、絶対に……お前と白金を、もう一度結んでみせるから……。だから諦めるなよ! 太陽!」


 忍が昏倒している太陽を担ぎながら、そう言ったのであった。

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