エピローグ




 *** エピローグ ***


 夜の砂浜を肩を寄せあって歩いている二人。

 漆黒の海を渡ってきた満月の金色の光が照らしたのは、幸せそうな笑顔の恋人たちだ。


「月が、綺麗ですね」美羽が微笑みながら言うと、「なんだそりゃ、取ってつけたような変な言葉だな」と裕星が笑った。


「裕くん、知らないの? この言葉の意味」




「はあ? なんだよ、何かの暗号か?」


 うふふと笑って美羽が答えた。

「夏目漱石さんよ! 返事は『死んでもいい』らしいわよ」


 裕星は狐につままれたような顔でまだぽかんとしている。


「もういい、 分からなくても!  私はいつも裕くんのことが大好きだから」



「美羽……。なら、俺はこう返すよ。『海が綺麗だね』って」




 美羽はパッと頬を赤らめた。「裕くん、本当は言葉の意味を知ってるんじゃ……」最後まで言い終わらないうちに、裕星が美羽の唇を塞いで、美羽の言葉は裕星に呑み込まれてしまった。





 真夜中の浜辺、明るい月明かりの下には、寄り添う幸せそうな2人の1つの影だけがあった。









 *** 後日談 ***


 翌朝早く、日の出新聞の元記者、川田が、昨夜逮捕された白鳥芸能事務所しらとりげいのうじむしょの赤羽と元赤羽事務所もとあかばねじむしょのマネージャで現在はプロデューサーをしている牧田の犯罪の一部始終を詳しく書いた記事を日の出新聞の一面に出した。


 一方、週刊女の春は、以前容疑者の事務所を憶測で書いたガセ記事などまるでなかったかのように、何食わぬ顔で新刊で真犯人を後出し記事にしたが、まだ記憶にも新しい前出の容疑者に関する記事との矛盾に気付かない読者など誰もいなかった。


 どうやら、連日のように以前の記事の訂正を求める抗議のメールや、ラ・メールブルーファンからの苦情の電話に追われているようだ。








 運命のツインレイ シリーズPart3『独身貴族探偵編』終



 追記


 夏目漱石のこの名訳は有名で、既にご存知の方も多いかと思いますが、私も学生の頃、授業で習ったことは、夏目漱石が英語教師をしていた時、『I Love You』を、日本人なら「月が綺麗ですね」と訳す方がいい。と言ったということ。

 また、ロシア文学で二葉亭四迷は、『yours』の「あなたに委ねます」の意味を、「死んでもいいわ」と和訳したということでした。

 この「月が綺麗ですね」と「死んでもいいわ」はセットで言われることが多かったそうです。

 やはり名文学者は訳の表現も文学的でロマンティックなんですね!


 ちなみに裕星が言った『海が綺麗ですね』は「あなたに溺れています」という意味だそうです。


 

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