第25話 必殺のルーティーン
わたしは、校長先生にスマホの使い方を教えている
「ちょっと、コースを下見していい?」
「あぁ。もうしばらくかかりそうだから、その方がいいと思う」
わたしは、
フィールドは、教室の二つ分くらい。この施設では一番小さい施設らしい。プレハブづくりで、ベニヤの板で作った敷居がそこかしこにあって、コンクリートで立てた公園の公衆トイレくらいの大きさの小屋が中央にたっている。
そして、百三十センチ十センチくらい? のところに、不自然に穴があいてある。ここ穴からモデルガンを出して、打つのかな?
とにかく、狭い道がたくさん作られてあって、サバイバルゲームをするために、専用につくられたんだなって感じ。
そしてこの障害物の散らばり具合が、ドローンの練習にもうってつけに思えた。動画で見たドローンレースの大会も、こんな会場で試合をしていたし。
わたしは、わりと念入りにフィールドの下見を済ませると、みんながいる場所にもどった。
「お、撮れてる、
校長先生は、フィールドを下見しているわたしをずっと撮影していたらしい。
わたしは、
「……
「なになに? これ校長先生が撮ったの?」
ふたりでおしゃべりしていた。アリアちゃんと、
「ふーん、
「いやー? それほどでも?」
「車椅子の少女の、どこかはかなげな感じがすっごくいい!」
目をまん丸に光らせて、ニヨニヨと口のはしっこを上げながら続けた。
「
ちょ!
そんな
「そうだな……そうする」
え? どういうこと⁇
わたしは、耳まで赤くなるのがわかる。そして
(
よ、余計なお世話よ!
で、でも、ちょっと、いや、かなりうれしかった。ひょっとしたら、わたしの想いは、完全な一方通行でもないのかもしれない……。
わたしは、
「じゃあ、とりあえず、フィールド一周してみる」
わたしは、ノートパソコンの画面を観た。ドローンは、ゆっくりとしたスピードで飛んでいる。そしてスマホをかまえた
ドローンは、わたしの上空を通過すると、ノートパソコンの前でホバリングする。わたしとアリアちゃんがノートパソコンにうつった。初めてVRゴーグルをつけた時も思ったけど、自分が映るのってへんな感じだ。スマホの自撮りとは随分と雰囲気が違う。そして、わたしと一緒に映っているアリアちゃんを見て、アリアちゃんはやっぱりカワイイなって思った。
今日のアリアちゃんは、私服だ。そしてその私服がカワイさに拍車をかけている。水色のフリルいっぱいのふわふわのワンピース。いわゆるロリータ服。しかも甘ロリだ。着る人を本当に選ぶ服。わたしじゃあ、絶対に似合わない。うらやましい……。
「じゃあ、次は、速度上げてみるから!」
そう言うと、
「しまった!」
VRゴーグルをつけた
「きゃああ!」
アリアちゃんが思わず目を閉じる。
ドローンが障害物にぶつかったのだ。ノートパソコンは、地面と天井を激しく交互に移して、そして最後に地面を移して動かなくなった。
「うーん、やっぱり速度をあげると曲がりきれないか……」
「つぎ。どっちがやる?」
と、訪ねてきた。
「……ぼくは、さいごで……」
アリアちゃんが消え去りそうな声でつぶやく。
「じゃあ、わたしがやるね」
「了解。プロポの操作モードを変えるよ。校長先生、スマホちょっと貸して」
そう言うと、
わたしは、
わたしは「ふううううう」とゆっくり息をはくと、けっこう動く右手で、親指しか動かない左手をつかんだ。そして、胸の高さまで持っていくと、つかんだ左手を手放す。
力なく落下する左手の親指が、心臓に「トン!」と突き刺さる。そして左手の親指にありったけの力をこめて、「くいっ」って上にあげる。左手がほんの少しだけ上を向く。
わたしの体の中に、わたしの左親指が埋め込まれていく感覚。わたしはこれで、このルーティーンで道具と一体となる。このルーティーンで四メートルも飛んだんだ。このルーティーンは、必殺のルーティーンなんだ。
「
そう言うと、
「じゃあ、始めるね!」
わたしは思いっきり、左の親指前に倒した。
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