追放魔王のコンティニュー!「コスプレの聖地で隠居していたら勇者に命を狙われるようになって困ってます」

朱々

むかしむかしのプロローグ



◆むかしむかしのプロローグ



 ぽんっと、と頭に王冠がのっかった。父や、兄たちから順繰りに飛んできたんだ。


 それはつまり、ボクが魔王に即位したことを意味している。


 末っ子であるボクが王になるなんて、ほんとうだったらありえない。お父さんやお兄ちゃんたちがまとめていなくなったのなら話は別なんだけど、でもどうやらそういうことみたいだった。


 クローゼットに隠れていても耳に届いていた闘いの音が止んだ。代わりに勇者たちの勝ちどきの雄叫びが城をふるわせている。


 クローゼットの扉が開けられると、ボクは首根っこを掴まれて連れて行かれた。


 玉座の間だった。


「こいつで最後か。なるほど、レームドフの子とは言え、たしかに何の力もないようだ」


 聖剣を手にした女の勇者が言った。あたりは勇者の仲間でいっぱいだった。ボクは恐れおののいて、冷たい石の床に倒れたお父さんたちに駆け寄ることもかなわなかった。


 勇者たちは口元をゆがめ、ボクのことなど忘れたみたいに仲間と笑い、また思い出したようにボクを見下ろす。


「こいつにはなにもできない」

「ただの雑魚」

「恐るるに足らない小さな存在だ」


 魔の王族に恐怖などないぞと教わってきたのに、ボクの皮の下はコワイという気持ちでいっぱいだった。自慢のしっぽもくたりとなって持ち上がらない。


「せんえつながら申し上げますと……」


 聞き覚えのある声だ。

 勇者たちの中から姿を現したのは、お父さんの側近のゴートマだった。ボクは小さな光を見た気がしたけれど、ゴートマは勇者に深く頭を下げたのだ。


「この幼き、弱き王を追放すれば、世界は永久に平和になるかと」


 ゴートマに、彼の細く尖った指を突きつけられ、ボクは息を呑んだ。


 なんで、この人が勇者たちとなかよくしてるんだろう――――。


「ふむ、魔王の座を他の者に移すより、弱き王を他所へやった方が良い……という訳か」


「ええ、おっしゃる通りでございます。その手筈も、ワタクシが整えておきました。勇者様、聖剣をこちらへ」


 弱き王、か。まったくその通りだ。


「キルコ・デ・ラ・ジィータク・シュタイン。この世界から去れ」


 ボクはただ勇者がかざした聖剣の輝きから目をそらすことしかできない。


 弱くて、なんにもできない、魔王さま。

 

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