車窓

 遥か彼方の空遠く、きらめく星を仰ぐ時、僕は何を想うだろうか。

 確かオリオンはサソリから逃げているんだっけ。ポラリスはこぐま座のしっぽ。ベガとデネブとアルタイルは、大きな三角形を作ってるらしい。

 まだ見たことのない星空を、僕は心ゆくまで空想した。生まれてからずうっと地下の世界にいた僕にとって、星空はまぶたの裏で見るものだった。

 カタンコトンと静かに揺れる寝台列車。地下トンネルに等間隔に並べられたカンテラが、真っ暗な車窓の端から現れては消えていく。僕は窓辺に寄りかかりながら、小刻みに揺れるガラス窓に顔を近づけた。

 旅立つ時に兄がプレゼントしてくれた携帯ラジオからは、「夜想レディオ」の物語が流れている。まだまだ夜は始まったばかりだ。

 目が冴えていた僕は、本でも読もうかと思いリュックサックを手繰り寄せた。旅の荷物を詰め込みすぎて、リュックサックのお腹はパンパンにふくれていた。

 次の瞬間、列車は地下九十五キロの旅を終えた。トンネルの壁に反響していた車輪の音が消える。カンテラで照らしたみたいに、淡い光が空から降り注いでいた。僕は車窓に飛びつく。生まれて初めて、僕は壁のない世界にいた。

 これが、星空。

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