11 堕落した元勇者
――冒険者ギルドの一角 アバランス視点――
王都での魔物騒動が落ち着いたある日、私達は冒険者ギルドの一角で話し合っていた。
「……くそっ! どうすればいいんだ」
私はどうしても収まらない苛立ちを二人にぶつける。
周りにいた冒険者から多くの注目を浴びて重い空気が辺りに漂う。
「そんなに荒れなくてもいいじゃない。いずれこうなると思っていたわ」
「……そうだ。愚かだったな、アバランス」
二人も黙認する中、今の地位まで乗り上がる為に今まで数多くの夢見がちな冒険者を利用してきた。
ダンジョンの無理な攻略を進めてはピンチになる度に冒険者を囮にしてきた結果、今のランクまで成り上がってきたのだ。
「私が悪かったとでも言いたいのか? お前達も止めずにやっていただろう!?」
「それは……そうだけど、初めは成り行きで始めた事で……何度も繰り返したのは貴方よアバランス」
「我の力もあのような使い方をされてはな……」
二人は私に呆れた視線を向けてくる。
「うるさい! 私がこのパーティのリーダーだぞ! 方針は私が決める!」
私達三人は駆け出しの頃から共にパーティを組んでいた為、長い付き合いになる。
「はぁ……もっとダンジョンをちゃんと攻略しておけばよかったものね」
深いため息を吐くシャワティ。
「だが、そうでもしないとあのダンジョンの深部へは進めなかったではないか!」
実際、成果を出す為に冒険者を囮として帰還魔法を使ってダンジョン攻略を行うようにしてからは、次々とダンジョン攻略を優位に進める事が出来るようになった。
私達は完全に囮作戦の味を占めていたのだ。
「……あの生意気な神官が国のお嬢様だったとは……くそっ! それになぜ、ダンジョン深部の魔物軍団に囲まれたあの状況から地上に戻ってこれたのだ!」
あのひょろひょろの眼鏡男にそんな力があったとでも言うのか?
初めは神官を囮にした後で、眼鏡男を後々囮に使おうと思って近づいていたが……偉大な聖剣エクスカリバーを持っている事がわかり聖剣奪還の作戦を思いついた事が運の尽きだった。
(……私としたことが、欲に目が眩んでしまったか)
持ち帰ったあの聖剣も急に動き出してダンジョンの入り口を斬りつけて結界を壊してしまうし、それを忌々しい眼鏡男が国王にバラして私達の権威を地に落とされた。
「あの眼鏡男……このままでは私の気が収まらない。御前試合で必ずあの眼鏡男に仕返しをしなくては」
「そうは言うけどアバランス。貴方……武器はどうするのよ。この前の魔物退治の時は、怯えた冒険者が落とした武器を使っていたじゃない」
シャワティから話を振られて、本題を思い出す。
「……そうだったな。話がそれてしまったが、話を戻そう」
そもそも私の武器を調達しようとしても、私達に剣を売ってくれる店はなかった。
私の武器を壊した鍛冶ギルドに向かってみても――
『もうここは閉店準備中だ。すまないが、他を当たってくれ』
――といったように閉店していた始末だ。
「残っているところで私達に武器を提供してくれる場所は……一つしかない」
「……まさか、アバランス。妙な事を考えてはいないだろうな?」
ゲボルドか何かを感じ取ったのか反応する。
「お前が思っている通りだ。闇市場へ繰り出すぞ」
「しょ、正気なのアバランス! あそこにはヤバいモノしか扱っていないって聞くわよ」
「黙れ! 今は剣さえ手に入れば何でもいいのだ。もう決めたからな。嫌なら私一人で行く」
そう吐き捨てて私はその場から立ち去る。
「もう、どうなっても知らないからね、アバランス!」
「……ふん、頭の固いやつだ」
二人な小言を言いながら私についてきた。
冒険者ギルドの集会場を出た私達は王都サントリアの裏側と称される闇市場へと足を向けた。
薄暗い道にはありとあらゆる店があり、その中の武器を扱っている寂れた店内に入ると、あらゆる禍々しい武器が揃えられていた。
「おやおや……これは珍しいお客さんだ。”元”勇者さんがここに何用かな?」
陰湿そうな容姿で漆黒の眼鏡をかけた店主が話しかけてくる。
元勇者である事を強調してくるが、グッと堪えて要件を伝える。
「剣が欲しい。何か良いモノはないか?」
「剣をお探しかな? ここに来たって事は、お前さんは相当な状況なようだ。……更に元勇者さんを
そう店主が呟くと、店の奥から漆黒の鞘に入った黒い剣を取り出してくる。
「さぁ、これだ。これは対象を死に追いやる効果を持つ呪いの剣・デスソードだ。今のお前さんにピッタリだと思うがね」
私は店主から漆黒の鞘に入った剣を受け取る。
「これが……この剣が相手を必ず死に追いやるというか?」
「あぁ、相手をこの剣で一太刀浴びせたら相手は必ず死ぬ。軽傷でも傷口から呪いがすぐに体に回るだろうよ」
不敵な笑みを浮かべる店主の言葉を聞き、私は自然と笑みが零れる。
「ふふ……なるほど。良いじゃないか」
「……待って、アバランス! こんなヤバい剣なんて手にするもんじゃないよ!」
「……そうだ。他の店を当たろう」
二人が何か言っている、私の耳にはもう入ってこなかった。
「店主、これに決めた。頂こうじゃないか」
「ふっふっふ……まいど、ありがとうございます」
私は店主から漆黒の鞘に入った漆黒のデスソードを購入し、腰に固定する。
「ふふ、これが新しい私の剣となるのか」
「あぁ……買っちゃった……どうなるのよ」
「……わからぬ」
何故か二人が動揺しているが、私はこの剣の切れ味を試したい衝動に駆られる。
「……さて、試し斬りをするとしよう」
それから闇市場から戻り、王都に戻った後歩いていると一人の冒険者が絡んでくる。
「おやおやぁ、もう誰からも期待されていない元勇者様がこんなところで何をしてるんだ?」
「丁度よかった。君にしよう――」
私はそう呟くと、その冒険者の胸倉を掴み裏路地へと連れ込む。
「なっ何しやがる!」
――ドゴォンッ!
私は
「痛ってぇな! 急になんだよ!」
「手に入れたこの剣の試し斬りをしたいと思っていたんだ。……お前、この剣の試し台になれ」
――シャキンッ!
私はそう言うと、腰に固定した漆黒の剣を取り出す。
「ま、まかさお前――」
――ズバッ!
男が何かを言い終える前に私は何の
すぐに男の口を手で押さえ、断末魔を出す事を封じる。
「……私に盾突いた報いだ」
「――っ! ――っ!!!!」
私の傷つけた男の傷から漆黒の靄が吹き出し、見る見る顔が真っ青になっていく。
……そしてすぐさま絶命した。
「ほぅ……本当に切り傷を付けただけで即死するではないか! この剣、使えるぞ! ……二人とも、後処理は頼んだ」
私は喜びつつ、二人に死んだ男の処理を任せる事にした。
「はぁ……わかったわ――大気に満ちる空気よ、凍て尽くせ、永久に光なき氷に閉ざされんことを――”アブソリュート・ゼロ”」
――ピキィィンッ!
シャワティが呪文を唱えて氷魔法を発動すると、絶命した冒険者は一瞬で氷に包まれる。
「うおぉりゃぁ!!」
――パリィィン!!!
続けてゲボルドが凍った氷に物凄い勢いで殴りつける。
固まった氷は冒険者諸共砕け散り、男の肉片は跡形もなく四散した。
私は二人がサクッと男を処理し終えたのを横目に、裏路地から表通りに歩きながら呟く。
「……さ、これでいいだろう。今から御前試合が楽しみだよ、マイオス君。……私が君の息の根を、必ず止めてあげるよ」
自然と笑みが零れる顔を押さえながら、私達は御前試合に備えて準備を整えるのだった。
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