08 勇者パーティの断罪

 イングラム国王陛下に駆け寄るリースさんは大声を出した俺の方に顔を向ける。


「……? なによマイオス。そんなに大声を出しちゃって」

「えっと、リースさんってまさか……聖アランテル城のお嬢様だったりする?」

「そうだけど…………あっ! そうだ、言ってなかったわね、ごめんなさい。隠すつもりはなかったんだけど……こうでもしないと外に出してくれないのよ。あの城は」

「……通りであの方の面影があると思ったのです。あの方の子孫だったのですね」


 エクスが何かボソボソ話していたが、すぐにイングラム国王陛下は話し出す。


「活気があるのは良い事だ。だが……愛娘を守りたいお父さんの気持ちを汲んでくれるとありがたいのだ。リースティアは非常に活発的な女性だった母親に似たのか、物心がついた時から冒険に憧れてな。隙を見ては城から抜け出していたのだ」

「ふん、いいじゃない細かい事は。こうしてここに生きているんだから!」

「もう少しで死んでしまうところであったばかりであろう! ……この娘は、まったく」


 口ケンカを繰り広げるイングラム国王陛下とリースさんを見ていると、リースさんはお城でも相変わらずのようだ。

 イングラム国王陛下はリースさんから俺達のいる広場に視線を向けて呟く。


「……それはそうと、この度の事態が起きた原因は何なのだ? ダンジョンから魔物が出てくるのはただ事ではない事だが」


 すると、数多くの冒険者が勇者パーティの面々を羽交い絞めにしてイングラム国王陛下の前に連れ出してくる。


「は、放せっ! 私達はこの王都の使命勇者だぞ!」

「放しなさい! どこ触っているのよ!」

「ぐぐ……不覚」


 ゲボルドさんは力が強いのか、他の二人と比べて倍以上の冒険者によって羽交い絞めにされている。


「イングラム国王陛下! こいつらです。こいつらがダンジョンの入り口を斬りつけ、魔物を封じ込めていた結界を破壊したんです!」

「お前達が……まさか、そんな……」


 イングラム 国王陛下も自身が指名した勇者が起こした事に信じられないといった表情を浮かべる。


「国王陛下! 誤解です! 私はダンジョンの入り口を斬りつけていません! そこにいる銀髪の娘がやった事です!」


 アバランスは俺の隣にいるエクスを指差しそう叫ぶが、冒険者の罵声が鳴り響く。


「嘘を付け! 俺達は見たんだ! お前がダンジョンの入り口を思いっきり剣で斬りつけた場面を!」

「そうだぜ! 国王陛下の前で嘘をつくとは勇者に選ばれて調子にのっているんじゃないのか!」

「まったくだ! いつもすまし顔で俺達を見下しやがって、責任を取ってもらうからな!!」


 多くの冒険者は責任追及から、次第に日頃の私怨たっぷりな罵声を勇者パーティにぶつけていく。


「……うわぁ」


 俺も思わず言葉が漏れるほど、酷い有様だ。

 多くの罵声を浴びながらアバランスは更に国王陛下に向かって叫ぶ。


「国王陛下! 信じてください! 全てあそこにいるマイオス達が俺達を陥れた事なんです!」


 アバランスはそう言うと、俺達の方を指差す。

 すると、イングラム国王陛下は俺の名に反応する。


「……マイオス……まさか、お主はロイダースの息子なのではないか?」


 イングラム国王陛下の口から親父の名が出るとは思わなかった。


「えっ! ……えぇ、そうですが、それよりもイングラム国王陛下! 聞いてください! 私達がアバランス達にされた事を――」


 それから俺は勇者パーティに勧誘され、国王陛下の愛娘と俺をダンジョン深部で置き去りにして殺そうとしてきた事を全てぶちまける。


「――そして、エクスの転移魔法で地上まで戻ってくることができたんです!」


 俺の証言を聞き、イングラム国王陛下は驚きの表情を浮かべながら傍にいたリースさんに尋ねる。


「……リースティア……マイオスが話す事は本当なのか?」

「えぇ! 全て事実よ! あいつら、私をダンジョン深部に囮として取り残して地上に帰還魔法で帰ったのよ! ほんと、許せないわ」


 愛娘の証言もあり、全てを理解したイングラム国王陛下はアバランス達に冷酷な視線を向ける。


「……わかった。全て私の失態だ。愚かにもお前達のような愚か者をこの国の使命勇者にしてしまった事を! 今、この時よりお前達は勇者でもなんでもない! 勇者である資格をイングラム・アランテルがはく奪する!!」


 知らなかったとは言え、国のお嬢様を殺そうとしたアバランス達には同情してしまう。

 多くの住人や冒険者の前で、アバランス含める勇者パーティの面々は……勇者でもなんでもない、ただの冒険者パーティに成り下がったのだ。




 羽交い絞めされていたアバランス達は羽交い絞めを解除され、その場に崩れる。


「そんな……なぜ、こんなことに。……国王陛下! どうか、挽回できる機会を私達に頂けないでしょうか!」


 すぐに周りにいた冒険者達の罵声が鳴り始めるが、国王陛下が声を上げる。


「静まるのだ! ……いいだろうアバランス、お前達に一度だけ機会を与えてやる」


 イングラム国王陛下は周りを見渡した後、話始める。


「お前の過ちで王都を混乱のどん底に陥れてしまった。……だからこそ、少しでも活気を取り戻す為に近々この王都サントリアで催し物として御前試合を開こうと考えている。お前達もそれに参加して優勝することができたら、お前達の望みを一つだけ私が願いを叶えてやろうではないか」


 イングラム国王陛下はアバランス達に最後の機会を与える。

 優しすぎるだろうと思いつつも、周りの冒険者達も騒ぎ始める。


「国王陛下! 恐れながら質問させて頂きます! それはもし他の参加者が優勝した場合でも、一つだけ願いを叶えてくれるのでしょうか!」

「その通りだ、冒険者諸君も是非、優勝を狙って励むのだ!」


 すると、今度は冒険者達の歓声が鳴り響く。


「「「おおぉぉぉぉ!」」」


 冒険者が喜ぶ中、イングラム国王陛下は俺達に視線を向けてくる。


「マイオス達も是非参加してくれないかな?」

「え……俺達も、ですか?」


 油断していた俺はつい聞き返してしまう。


「うむ。ロイダースのセガレの成長もこの目で見たいからの」

「……わかりました! 参加させてもらいます」


 さすがに国王陛下のお願いを断る事はできずに快諾する。


「……それならお父様! 私もマイオスと一緒にその御前試合を参加するわ! いいでしょ?」

「う……うむ。わかった。リースティアの好きにすると良い」


 こうして、俺達はイングラム国王陛下が開催する催し物の御前試合に出場する事となった。

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