第9話『片腕の■■■』
「え……っ」
片腕が取れた感覚は、初めてだった。
「なに……コレッ⁉」
血が止まらない。
不格好なダンスを踊りながら、俺はすざっと後退した。
「痛かろう、辛かろう。その痛覚こそ――我らの生まれし刻みよッ!」
「なに言ってんだ、お前……」
痛みは集中して、拡散する。
全身から力が抜けていくのを感じ取れた。
「ちく……しょう」
そうして俺は、天を仰いだ。
「はは……ッ。クハハハハ! こうして死んでしまえば、お前もただのガキに過ぎないもんだな……これまでの狼藉、たっぷりと償ってもらうぞ……」
ふと、上を見る。
あぁ、なんてつまらない人生だったんだろう。
レンマとの約束も果たせずに、こうして息絶えるだけなのだろうか。
ふと、その頭上に。
人影を感じた。
***
「うらあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
圧倒的な叫び声と共に、俺は――松島エイジは、投下していた。
「あれは……チぃ、ダグマはやられたか……」
「そうだ。あの、ダグマとかいうクソガキは、俺の手で処刑してやった」
「そうかそうか……じゃあ、お前を殺すのはついに僕となったわけだな」
「殺せるのか……ガキ一人殺せねぇお前が」
そうして俺は、突進していった。
短く切り揃えた髪がゆらりと揺れている。
「これは罰だ……! 俺と、お前のなッ!」
「罰だと……? そんな云われ、僕には存在しない。僕は赦されて、ここに存在しているんだ」
殴られた部分だけ霧に変化させながら、レイは反撃を伺おうと後ろに回ってきた。
「遅いッ!」
それを、俺は察知する。
簡単な話だ。ただそうなる可能性を考えていればいいのだから。
「死ねぇ!」
「お前が――!」
そうして、撃ち合う。
魂と、魂が。
「ありのままを知りたい……人間の高みを、僕はっ!」
「そんな事実に、一体何の意味があるってんだ」
「なに……⁉」
レイは、後退する。
今か今かと、殴る準備をしながら。
「高みだぁ? そんなの、ただの位置に過ぎないだろう。大切なのは、そこから何が見えるかだ。おいお前。お前には何が見えている。その先に何を見据えている。その戦いに何の意味がある」
「それはな――」
「「未来だ」ろう?」
言おうとしたことが分かったので、俺たちは合わせて言った。
「お前は未来を見ている。屍を器に盛った、ある絶望的な未来を。そして、それをお前はよしとしているわけだ。これじゃあ間に合わない。これじゃあ、真をつかめない。そうしてお前は、空虚な言い訳を手に入れたわけだ。祝福しよう」
「……⁉ 黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
その言葉と共に、勢いよく殴りかかってくる。
(今度は殺す……確実に、着実に。その腐った脳みそとうるせぇ口を縫い付けて、一生戯言を抜かせないようにしてやる……!)
そうして、彼は――冷静さを失っていた。
「だから、お前は弱いんだ」
その隙を見逃すほど――俺は、甘くなかった。
心臓に手を入れる。
一見すると、まぁ、なんともできなさそうに絶望的なのだが。
その方法は簡単だ。
霧状化したレイの肉体を、ただただ貫通して心臓の位置に来るように、拳を置いておくだけ。
それが、法術。
それが、逆転。
これこそが、人間がギフティアに勝てる方法の一つ。
「な……に……」
急速に実体化したレイの心臓に、俺は掴みをかける。
「お前たちも俺達も、生きる上では心臓が重要となる。それがこうも丸見えじゃあ、俺は殺すしかないだろう?」
「あぁ……そうか。俺は、負けたのか。お前に」
「そうだ。敗北したんだ。結構苦労したんだぜ? お前の心臓を露出させるなんて」
「なんだ、そう言う事なのか……そうなのか……」
心底残念そうな声を上げながら、霧は大気へと変換されていった。
To Be Continued……
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