第42話 大罪人
俺は、宮殿の中にあるドロテオ国王の執務室で正座している。この部屋には、ドロテオ国王以外にも、宰相マリアーノとオズヴァルド財務卿、そして半端ないオーラを纏いながら、俺をギロッと睨みつけているナターシャがいる。
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一応、特別任務が完了したため、俺たちは宮殿に戻ることにした。次に、この宮殿にナターシャが来る日を知りたかったため、宰相マリアーノかオズヴァルド財務卿を探していると、最高応接室からマリアーノとナターシャが出てくるのが見えた。2人とも、何やら真剣な表情だったため、国家レベルの重大な話だったのだろう。それに、ナターシャはキングヴァネスにある、どこかのギルドに向かったはずだ。この場にいること自体が、その緊急性を物語っている。
「なんじゃ、小僧、もう終わったのか?」
「これは、ユリウス殿。」
ナターシャは俺に一早く気づき、声をかけてきた。次いで、マリアーノも俺に会釈をした。
「はい、まぁ、一応は、任務を終えたと、思います・・・。」
「歯切れが悪いのぅ。何かあったのか?」
俺は先程のフィオナとレティシアの発言が気になり、ナターシャと目を合わせることができない。だが、事の顛末を話さなければ、正式に特別任務が完遂したとは言えない。
・・・よし、覚悟を決めろ、俺!大丈夫、何とかなる!
「実は・・・・・・。」
その後、閻魔種とともに「ダンジョン」を崩壊させたことを簡潔に伝えた。すると、宰相マリアーノはすぐに危険を察知したのだろう、「私はこれで!」と言い、全速力で遥か彼方へ逃走していった。そして、俺は・・・。
「小僧、ちょっと来い。」
「は、はい。」
俺よりも身長が遥かに低い幼女に、首根っこをグッと掴まれ、最高応接室へと連行された。その後、激昂したナターシャに3時間以上も説教をくらい、この世界に来て初めて「地獄」というものを見た・・・。生前でも、ここまで怒られたことはなかったのに・・・。
・・・俺、今日、死ぬのかな。
ギルドマスターだけあって、もうその迫力はえげつなかったです・・・。閻魔種が、可愛い可愛い子犬のように思えました・・・。
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そして、ナターシャの恐怖の説教をくらい半泣きになった後、この執務室に連行されたというわけだ。
「今さっき、ナターシャ様からお話は伺いましたが・・・。ユリウス殿、『ダンジョン』を破壊したというのは本当か?」
オズヴァルドがナターシャをチラッと見ながら、俺に聞いた。
「・・・はい、事実です。誠に申し訳ございません。」
「そ、そうですか・・・。」
オズヴァルドは若干引いており、国王や宰相も「マジかよ、コイツ!」という目で俺を見ている。
・・・だ、だって、知らなかったんだもん!!
ナターシャから「ダンジョン」のことについては、耳にタコができるほど聞かされた。もちろん、「ダンジョン」が「人魔戦争時代」に魔族側がつくった要塞ということぐらいは分かっている。だが、この「ダンジョン」は「人魔戦争時代」の貴重な資料・情報が眠っているそうだ。「人魔戦争時代」は未だ謎が多い時代であり、その解明に「ダンジョン」は必要不可欠な存在というわけだ。そのため、「ダンジョン」は発見され次第、どこの国にも属さず、その大陸の「ギルド本局」が管轄し、要塞内部の調査・閻魔種の討伐などを行っているらしい。
つまり、俺は生前で言うところの「世界遺産」や「国宝」に当たる貴重な遺跡を木っ端微塵に破壊したということになる。
・・・うん、これはめちゃくちゃヤバいことをしましたね。
「小僧、知らなかったとは言え、貴様、大罪じゃぞ?分かっているんじゃろうな?」
「もちろんです・・・。」
説教の際、ナターシャは俺が「本当に知らなかった」ということを信じてくれた。だが、それだとしても、やはり「ギルド本局」が管轄している貴重な遺跡を跡形もなく破壊してしまったのだ。ギルドマスターであるナターシャが許してくれるはずがない。ここは甘んじで、刑罰を受け入れよう。でも、死刑だけは嫌だな・・・。
「・・・・・・ナターシャ様。」
「なんじゃ?」
ここで、国王ドロテオが重い口を開いた。
「どうして、ユリウス殿をここにお連れしたのですか?」
・・・ん?どういうこと?
「『ギルド本局』が管轄する『ダンジョン』を破壊したという罪は、『ダンジョン』のある国家ではなく『ギルド本局』、詳しく言えば、3大陸それぞれのギルドマスターの3人の名のもとに、裁かれることになっています。彼を、私たちの前に連れてくる必要はないと思うのですが・・・。」
・・・「歴戦の猛者」って感じのゴツイ国王が、幼女に敬語使ってる・・・。すげぇ光景だな・・・。
国王の言っていることは、確かに正しい。なぜ、ナターシャはわざわざ、執務室に俺を連行したのだろうか。俺の予想としては、「コイツは要注意人物なので、今後二度とこの国に入れるな。」っていうことを、国王に伝えるためだと思うな・・・。
「さすがは、ドロテオじゃな。本来であれば、小僧をここに連れてくる必要はないんじゃが・・・。色々と面倒なことになっておってのぅ・・・。」
ナターシャは宰相マリアーノの方を一瞥した。すると、マリアーノは静かに頷き、丁寧に説明し始めた。
「実は、ユリウス殿が捕縛しました『パメラ』という女を、本日近衛騎士団の者が尋問していた際、急死したそうなのです。」
「毒でも飲んだのか?」
「いえ、厳格な身体検査を行い、口内に何もないことを確認しておりました。」
「それはおかしいな・・・。」
ドロテオとオズヴァルドが首を傾げた。確かに、それは奇妙な話だ。
「急いで、ナターシャ様に連絡を取り、ナターシャ様自らが『パメラ』の遺体を検死してくださいました。すると・・・」
「死因は、心臓突然死じゃ。心臓の機能が『強制的に』全て停止しておったわ。」
マリアーノの言葉を、検死したナターシャ自らが繋いだ。というか、ナターシャは検死ができるのか。
「『強制的』ということは、つまり魔法でしょうか?」
「いや、心臓の機能のみを停止させる魔法なんぞ、300年生きていて聞いたことがない。」
「ということは・・・」
「十中八九、スキルじゃろうな。それも、ゴッドスキルと思うのぅ。」
俺もナターシャと同じ結論だ。相手の心臓をピンポイントで狙って魔法を撃ったとしても、身体と心臓を貫通することになる。身体に一切傷がない状態で、心臓の機能を停めるとなると、スキルしかあり得ないだろう。
「それは厄介ですな・・・。」
国王ドロテオは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「尋問では、何か情報を引き出せたのか?」
さすが、オズヴァルド。俺もそこが気になった。
「尋問をしていた近衛騎士団員によると、『パメラ』はこの宮殿内に『黒南風』の幹部クラスが潜り込んでいるとの情報を吐いたそうです。しかし、それが誰かを聞き出そうとした際、急死したようで・・・。」
俺の拷問魔法で、人格を変えていたのが功を奏したのか、意外と素直に重要な情報を吐いたらしい。まぁ、「黒南風」が潜伏している可能性は、ナターシャの勘で予想していたため、あまり大きな収穫とは言えないが・・・。
「バカな!『黒南風』が宮殿にいるだと!?それは、虚偽の自白ではないのか!?」
「私も陛下と同様のことを考え、ナターシャ様に相談したのですが・・・。」
「実は、儂もそんな気がしていてのぅ。儂からすれば、これで確実になったと言える。」
「そ、そんな・・・。」
「ナターシャ様がそうおっしゃるのであれば、間違いないでしょう・・・。」
ドロテオとオズヴァルドは、驚愕の表情を浮かべるとともに、大きなショックを受けていた。まぁ、仕方ないだろう。身近なところに、『黒南風』の幹部クラスの人間がいると分かったのだ。人間不信になってもおかしくないレベルだろう。
「ナターシャ様、その『黒南風』のスパイに心当たりはないのでしょうか?」
「さすがの儂でも、そこまではなかなか見抜けないのぅ。怪しい奴はいるのじゃが・・・。だが、安心せい。ここにいる全員は、『黒南風』ではない。儂の勘がそう言っておる。」
ナターシャの得意げな表情に俺は苦笑いしかできなかったが、ドロテオたちはとても安堵した様子だ。それほど、ナターシャの言動には信憑性があるのだろう。さすがは、生ける伝説。言葉の重みが違う。
・・・というか、怪しい奴まである程度、見つけているのか。すげぇな。
「私とナターシャ様は、この国家を揺るがすような大きな問題をどう扱うのか悩んでいたのです。」
確かに、国王の超お膝元に『黒南風』が潜入しているなんてことが公になったら、国家の威信は一気に落ちるだろう。
「儂としても、ギルドマスターという立場上、国家内の問題に介入することはできん。だが、知っていて放置しておくのも、後味が悪くてのぅ。」
ナターシャはやはり、情に深い人だ。激怒したら、めちゃくちゃ怖いけど・・・。
「マリアーノとの話し合いでは終着点が見えなかったのじゃが・・・。」
ナターシャは俺を一瞥し、ニヤッと不敵な笑みを浮かべた。さすが、フィオナの師匠。もうこの後の展開は、目に見えてますよ・・・。
「ちょうどいいところに、大罪を犯した、この小僧がやってきてのぅ。ドロテオよ、儂と取引せんか?」
幼女に似つかわしくない、悪代官のように笑うナターシャに、俺は天を仰いだ・・・。
・・・ちくしょー!「ダンジョン」なんて破壊するんじゃなかった・・・!
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