第40話 特別任務はまだ続く
レティシアの「インビジブルザラーム」も解除し、俺たちは伸び切っている「黒南風」の女を尋問することにした。まぁ、閻魔種の一件は間違いなく、コイツが絡んでいるのだろう。
「はっ、私が情報を吐くわけないじゃない。このまま、捕まるぐらいなら、舌を噛み切って・・・」
「それは困る。『ヴァサニスティリオ』。」
「「えっ!?」」
俺は、ザハールが潜伏していたアジトへの入り口を吐かせる時に使った拷問魔法を遠慮なく詠唱した。
「あ゛ぁ゛ーーー!!!!!!!!!」
この前と同じく、俺は10秒ぐらいで一旦止めた。
「どうだ?吐く気になったか?」
「はぁ、はぁ・・・。あなた、なぜ『禁忌魔法』を・・・」
「『ヴァサニスティリオ』。」
「あ゛ぁ゛ーーーーーーー!!!!!!!!!」
・・・はぁ、さっさと喋ってくれた方が楽になるのに。
俺の所業を隣で見ていたレティシアとフィオナは、ガチで引いていた。うん、まぁ俺も使いたくはないんだけどね。だが、特別任務をクリアして無罪放免になるには仕方のない犠牲なのだ。分かってくれ。
10秒の拷問魔法を3回ぐらい使ったところで、「黒南風」の女は全部素直に話してくれた。
「黒南風」の女の名前は、パメラというらしい。「黒南風」の最高幹部の1人であるニコラスの部下で、レジェンドスキル【使役従魔】を有しており、閻魔種以下の魔獣を自由に手懐けられるそうだ。そのスキルを使って、大森林アルゲンティムに閻魔種を何十匹も放ち、大森林を「黒南風」ないしニコラスの占領地域にする計画を実行している途中とのこと。
「閻魔種は『ダンジョン』にしか存在しない魔獣だろ?なぜ、ここにいるんだ?」
「はい、それは、ニコラス様のゴッドスキル【虚空】の力によって、1つの『ダンジョン』を大森林アルゲンティムに運んだからです。」
「どういうことだ?」
拷問魔法で人格を変えてしまったのだろう、先程からパメラの口調がおかしくなっているが、気にしないでおく。パメラによれば、ニコラスがもっているゴッドスキル【虚空】は、任意の対象を亜空間に入れ、任意の場所に出すことができるものらしい。【虚空】には重量・大きさなどの制限はなく、生き物でさえも亜空間に閉じ込めることができるそうだ。収納魔法「エノルムストレージ」は使用者の魔力量によって収納できる限界も変わり、生物はそもそも収納することができない。つまり、ニコラスのゴッドスキル【虚空】は収納魔法の超上位互換と言うべきものだろう。
・・・さすがは、「黒南風」の最高幹部。明らかにスキルの能力が段違いだ。
そして、その【虚空】を使用し、1つの「ダンジョン」ごとこの大森林アルゲンティムに移動させたというわけだ。「ダンジョン」は、「説明書」によると地下何十㎞にもわたる巨大な迷宮らしい。それを丸ごと動かすとは、何とも大胆不敵な計画である。
「その『ダンジョン』はどこにあるんだ?」
「それは・・・」
これで、特別任務は一応終わりだろう。ただ、パメラは、今回の事件の貴重な証人であり、「黒南風」の一員でもあるので、任務完了の報告とともに、ナターシャに引き渡すことにした。麻痺魔法「エタンセルパラリシス」をかけたパメラを引き連れ、俺たちは一度宮殿に戻った。ちょうど、ナターシャがキングヴァネスのギルドに向かう直前であり、ギリギリでパメラを渡すことができた。その際、パメラから聞いた様々な事情を簡潔に報告すると、
「特別任務は、閻魔種の異常発生の調査及び『解決』じゃ。ということで、大森林アルゲンティムの『ダンジョン』に蔓延る閻魔種どもを駆逐してくれ。頼んだぞ、小僧。」
えげつないオーラを放ちながら、満面の笑みでそう言われた俺には、「はい」か「イエス」の選択肢しかなかった。
・・・ちくしょー!!これで自由になれると思ったのに!!さっさと終わらせてやるぜ!!
というわけで、俺たちは、パメラから聞き出した「ダンジョン」が隠されてある場所に急いで向かうことにした。
「ねぇ、ユリウス。」
「何だ?」
フィオナが怪訝そうに聞いてきた。まぁ、だいたい察しはつく。
「ユリウスって、何属性使えるの?それに、『禁忌魔法』すら使えるなんて・・・。魔力量も6万じゃないんでしょ?」
予想通りの質問だ。もう、隠し通すのも限界なのかもしれない。フィオナにはこの世界に来てから、色々と助けてもらっている。信用がどうとか思っていたが、本音のところはフィオナに拒絶されたくないのだろう。だが、ここまで一緒に過ごしてみて分かった。フィオナなら、きっと受け入れてくれると。
「そうだな・・・。この特別任務が終わったら、全て打ち明けるよ。」
「・・・そう、分かった。でも、どうしても言いたくないことは言わなくていいから。」
フィオナは嬉しそうに微笑んだ。フィオナからしても、俺に信用されてないのか、不安だったのかもしれない。もう少し、早く決断していれば良かったのだろうか。
「あの!!良い雰囲気なところ、すみません、ちょっと良いですか?」
レティシアがムスッとした顔で、俺とフィオナの間に割り込んできた。除け者にしたつもりはないんだが、会話に入れなかったのが、嫌だったのだろう。次からは気をつけるか。
「べ、別に、い、良い雰囲気ってわけじゃ・・・。」
「あぁ、そうですか。では、私がここに入っても構いませんね、ええ、そうですね。」
「ちょっと!」
不機嫌な口調で、レティシアが俺とフィオナの間に入り、俺の方にだけ少し寄ってきた。フィオナとレティシアがなぜか啀み合っているが、そんなことはどうでもいい。
・・・美少女同士のコミュニケーションをこんな間近で見られるとは・・・。控えめに言って最高だ。
俺が二人の様子を目の保養にしていると、レティシアがフィオナのブレスレットを指差した。
「フィオナさん、それは何ですか?さっきの『レジーナ・レオン』を倒したとき、そこからとても大きな魔力の流れを感じたのですが?」
「あぁ、これはユリウスがくれたブレスレットなの。」
「えっ!?」
レティシアは、なぜか俺を鋭い眼光で一瞥した。
・・・なんで、睨まれたんだろ。
「私たち『モノ』はどうしても、魔力量が平均よりも少ないでしょ?だから、思うような戦い方ができなくて・・・。でも、このブレスレットには、ユリウスの魔力の一部が付与されているから。」
「え゛っ!?」
・・・レティシアさん、目が怖いっす。
「実は、これを着けている時は『ウィザード』になれるの。だから、超級魔法が使えて、閻魔種を倒すことができたってわけ。まぁ、ユリウスの魔力の質が高いから、究極魔法に近い威力だったけどね・・・。あれはビックリしたわ。」
「え゛ぇ゛~?」
・・・やめて、そんな恐ろしい目で見ないで!!美少女の顔に似合わないから!!
「そのブレスレットだけど、また貸してくれないか?」
「えっ、何で!?今度こそ、壊す気!?」
「何でだよ!」
フィオナが大事そうにブレスレットを手で覆った。
・・・あれ?俺って、そんなに信用ないの?打ち明けるのやめようかな・・・。
「さっきの戦いを見てて、付与する魔力量が少なかったなって、思ったんだよ。」
「えっ、そんなことはないと思うけど・・・。」
「いや、俺の勘だけど、フィオナはもっとすごいレベルに到達しそうな気がする。そんな魔力量じゃ、弱すぎる!!」
「えぇ・・・。今でも十分強いと思うんだけど・・・。」
フィオナには、俺の熱い思いがあまり伝わっていないようだが、問題ない。何故だがよく分からないが、フィオナにはまだ秘められている力がある気がする。それには、きっと膨大な魔力量が重要になるはずだ。
「ち、ちなみに、次はどれくらいの魔力量を付与するつもりなの?10ま」
「ん~、200万ぐらい?」
「・・・ごめん、うまく聞き取れなかったから、もう1度・・・」
「200万ぐらい」
「・・・・・・本当にごめん、ユリウス。もう1度。」
「だから、200万ぐらい」
フィオナとレティシアは、しばらくの間、静かにその場に硬直していた。
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