第26話 【神奪】と決着
女神作成の「説明書」には、転生者の中でも「勇者」に選ばれた人物には、女神が特例としてゴッドの上の「アルカナ」というレベルのスキルを与えると書かれていた。つまり、俺はこの世界の最上位スキルを所有していると言える。
・・・いや、俺の場合は、女神によるハラスメントなんですが。
いよいよ、俺は覚悟を決め、無言で黒龍化したザハールの眼前に立った。
「どうした、命乞いか!!ガハハハッ!!ようやく圧倒的な実力差が、その貧相な脳みそにも分かったみたいだな!!」
ザハールは、俺が助命を嘆願するつもりだと勘違いしている。
「そうだな。今ここで土下座し、俺の奴隷になると誓うのであれば、腕一本を噛み千切るだけで許してやろう!!ウィザードの奴隷なんて、かなり貴重だからな!!俺が飼い殺しにしてやる!!」
すっかり勝った気でいる、ご機嫌のザハールを見て、俺は改めて死ぬ覚悟を決めた。
「お前の奴隷になるぐらいなら、ここで死んだ方がマシだよ。」
「ハッ、せっかくチャンスをくれてやったのに、本当に頭の悪い奴だ。もういい、さっさと俺の前から消え失せろ、このゴミ野郎が。」
俺の言葉に、ザハールは興ざめといった感じで、「ヘイロンフィアト」を放つ準備態勢に入った。だが、俺は諦めていない。死ぬ覚悟はしたが、この勝負が決着したとは、微塵も思っていないのだ。
・・・全ては、未知数のアルカナスキル【神奪】に賭ける。
【神奪】を使うための動作は全く分からないが、何となく俺は右手をザハールの前に突き出した。頭で考えたというよりも、俺の体が勝手にそう動いた感じだ。
「何だ、その手は?」
「お前を倒せるかもしれない、俺のとっておきだよ。」
「おいおい、ここに来て、ハッタリか?」
俺は大きく深呼吸した。そして、あらゆる期待を込め、アルカナスキル【神奪】の使用に踏み切った。
・・・頼むぞ、女神!一応は、神だろ!
俺はスキルを使う直前に、あの恨めしいアホ女神の顔を思い浮かべた。なんだかんだ言っても、彼女は神様である。スローライフとはかけ離れた人生を送らせるために、このスキルを与えたのだから、きっと、この状況を好転させるぐらいの能力はあるはずだ。
「アルカナスキル【神奪】!!」
俺がアホ女神から授かったスキル名を唱えた瞬間、レジェンドスキル【浄暗龍化】を使ったときと同様に、ドラゴン化したザハールの全身が一気に、漆黒の霧で包まれた。
「な、なんだと・・・・・・。」
黒い濃霧が晴れると、そこには黒龍から人間の姿に戻ったザハールが、驚愕の表情で立っていた。だが、ザハールの変身解除以上に驚くことが俺にはある。
「えっ・・・・・・魔力量が・・・・・・回復している?」
アルカナスキル【神奪】を使用したと同時に、俺の魔力量が一気に回復した気がした。急いでステータスカードを確認すると、案の定、魔力量がかなり回復していた。
「ま、まさか・・・。」
ザハールのレジェンドスキル【浄暗龍化】の効果が切れたこと、俺の魔力量が回復&増加したこと。これら二つの状況から考えられる仮説は・・・。
・・・よし、試してみるか。
「貴様!!!!!一体、何をした!!!!!」
「な、何が起きたんだ・・・。」
黒龍化が解かれたザハールは、俺への怒りで顔を真っ赤にしている。一方、ザハールの部下のファルターは、目の前の状況を理解できず、混乱しているようだ。
「おい、ザハール。」
「あぁ?」
「ファイアーボール。」
俺は仮説を検証するために、威力をかなり弱くした火属性の初級魔法「ファイアーボール」を、ザハールに向けてぶっ放した。俺の予想が正しければ、恐らくザハールは・・・。
「ハッ、今更何を・・・なっ・・ク、クソが!!!!!!!」
案の定、ザハールは俺の「ファイアーボール」を当たるギリギリで避けた。ザハールは、レジェンドスキル【閻魔障壁】を所有している。超級魔法以下の魔法攻撃を無効化するスキルの持ち主が、初級魔法をわざわざ回避するなど、まずあり得ない。では、どうしてザハールは、威力をめちゃくちゃ抑えた俺の魔法攻撃を、敢えて避ける動きをしたのか。
・・・やっぱり、俺の仮説が正しかったな。
「あれ、どうしたんだ?お得意のレジェンドスキル【閻魔障壁】は、使わないのか?」
「貴様ぁ~!!!!!!!!!」
俺の煽り文句を聞いたザハールは、全身を真っ赤にしつつ、頭に血管をいくつも浮かび上がらせた。
「スキルを使えないようにしたのは、貴様だろうが!!!!!!」
ザハールの言葉で、俺の仮説の正しさが完全に証明された。アホ女神から与えられた、アルカナスキル【神奪】。スキルの内容がここに来てついに判明した。そのスキルの効果は・・・・・・。
「どうだ?魔力を全部奪われた気分は?」
そう、対象の魔力を全て奪い、俺自身の魔力に取り込むこと。これがアルカナスキル【神奪】の恐ろしいスキル内容だ。
原則、魔法は個人に宿った魔力を媒介に使用するものである。したがって、魔力が枯渇すれば魔法は使えなくなる。一方、スキルは魔力を媒介にしていない。つまり、魔力がほとんど残っていないからといって、スキルが使えなくなるわけではないのだ。ただし、一つだけ例外がある。それは、魔力がゼロになった場合だ。もし、魔力が尽きてゼロになると、魔法だけでなく、スキルも同時に使用できなくなる。
したがって、ザハールのレジェンドスキル【浄暗龍化】の効果が突然切れたことや、レジェンドスキル【閻魔障壁】が使えないことは、魔力が枯渇したために生じた状態だと考えられる。逆に俺は、ザハールの魔力を奪い取ったので、自分自身の魔力量が回復したのだろう。ちなみに、魔力が一度ゼロになると、自然回復能力の働きが著しく低下する。魔力回復系アイテムを使用しない限り、全回復するのには、個人差はあるが、最低でも5日かかるそうだ。
「相手の魔力の一部を奪うスキルの存在は知っていたが、相手の全魔力を奪取するスキルなど、聞いたことがないぞ!!!!!」
「さぁ?それは、お前の知識不足じゃないのか?」
・・・アホ女神にもらったチートスキルとは、口が裂けても言えない。
「これで形勢逆転だな。というわけで、さっさとケリをつけようぜ。」
レジェンドスキル【浄暗龍化】がもし解除できていなかったら、恐らくザハールに殺されていただろう。悔しいが、あのアホ女神には感謝しないといけない。
「このクソガキが!!!!!おい、ファルター!!!!!俺が逃げる時間を稼げ!!!!!」
「はっ!!」
勝てないと悟ったザハールは、部下のファルターを犠牲に、このアジトから逃走しようと動き出した。当然、俺はその逃亡を阻止できる。なんなら、2人を同時に倒すことさえできる。だが、最後の美味しいところは、この世界で生を受け、「モノ」としてずっと苦しんできた彼女に、譲るべきだろう。
「ザハールは頼んだぞ!俺は、このファルターって奴を倒すから!」
「インビジブルザラーム」で見えなくなっているフィオナに、大きい声でメッセージを伝え、俺は眼前のファルターを打倒することに集中した。
「ザハール様が勝てない貴様に、この俺が勝てるとは思えないが、ザハール様がお逃げになる時間は、何としても確保させてもら・・・」
「あっ、そういうのいいから、アルカナスキル【神奪】。」
「えっ・・・。」
俺はファルターの長台詞を最後まで聞く前に、アルカナスキル【神奪】を使った。短い言葉ならともかく、ザコキャラの長ったらしい決意の言葉を聞くほど、俺は優しくない。ファルターは「コイツマジかよ、空気読めよ。」という顔でガン見してくるが、知ったこっちゃない。
「もう実質的に、決着はついてるからな。お前はさっさと痺れてくれ。『エタンセルパラリシス』。」
「グァッ!」
麻痺魔法をくらったファルターは呆気なく、その場に倒れ込んだ。また、アルカナスキル【神奪】のおかげで、魔法量も少し回復した感じだ。
「さてと、あっちの方は片付いたかな?」
アジトの出入口付近に目をやると、フィオナの怒りの水属性魔法と強烈な連続パンチが直撃したのか、全身びしょ濡れで、何匹もの蜂に刺されたかのように顔面が腫れたまま、白目を剥いて失神しているザハールがいた。
・・・うわぁー、フィオナさん、容赦ないっすね。
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