第18話 フィオナとの再会
ウェグザムの「同時多発火災事件」から数日が経った。昨日の14時頃には、城郭都市レミントンの知事が都庁で記者会見を行い、火災原因や被害状況などについて説明した。ただ、この世界にテレビが存在しないため、記者や都庁まで足を運んだ人以外は、翌日のプロメシア連邦国の各社新聞でその内容を把握するしかない。ちなみに、プロメシア連邦国が今俺がいる国で、この国を構成している州の一つがリヴァディーア州だ。
俺は、モルガンさんから読み終わった新聞をお借りし、知事の会見内容に目を通した。知事は、全焼14棟・半焼2棟にも関わらず、死者・怪我人とも0人と公表し、まさに「ウェグザムの奇跡」だと表現したそうだ。火災原因については、複数人による火属性魔法の同時多発攻撃が最も濃厚らしい。まぁ、故意でなければ、10棟以上が同時に炎上するなんて、絶対にあり得ないだろう。早く犯行グループが捕まることを祈るばかりだ。
モルガンさんに新聞を返したあと、俺はいつも通り、「州立日雇い紹介所」に向かった。所持金を増やすため、火災事件の翌日から俺は毎日、あの紹介所に通っている。高難度の仕事は色々と面倒くさいので、今は難易度が低い仕事を1日に複数こなしている感じだ。現在の手持ちは、銅貨2枚、銀貨5枚、金貨5枚なので、まぁまぁ稼いでいる方だと思う。
普段通り、エルマさんにいくつか仕事を見繕ってもらっていると、突然、背後から肩を強くポンポンと叩かれた。パッと振り返ると、そこには黒髪で水色の瞳をした、懐かしい美少女が立っていた。
「ユリウス、ひ・さ・し・ぶ・り!!」
「おぉ、フィオナ!!」
フィオナと別行動してから、もう3週間以上が経っている。そのため、俺とフィオナは互いに笑顔で久しぶりの再会をよろこん・・・・・・うん、違うよね。フィオナの目、全然笑ってないもん。チベットスナギツネみたいじゃん。
「『おぉ、フィオナ!』じゃないでしょ!!!」
「グハッ・・・。」
フィオナの華麗な右ストレートは、俺の腹に遠慮なくめり込んだ。あまりの痛さに、俺はその場に倒れ込んだ。
・・・えっ、「身体強化」されてるはずだよね!?何、フィオナって、武〇色使えんの!?冥王にでも、教えてもらったの!?
悶絶している俺を、ヤンキー座りのフィオナが冷たい目で見下ろす。
「私、ノグザムにしばらく滞在するからって、言ったよね?」
「あ、は、はい。」
「ステータスカードのお礼、忘れないでって、言ったよね?」
「あ、は、はい。」
・・・ちょっ、誰ですか!フィオナさんを、勝手にレディース総長にしたの!めっちゃ怖いんですけど!!
フィオナの容赦ない詰め寄りに、俺は完全にタジタジだった。異世界に来て初めて味わう恐怖が、まさかこんな状況とは・・・。
「じゃあ、ずっとウェグザムで何しているのかな?ノグザムには来ないのかな?そんなに遠くないと思うんだけど?ねぇ?」
「あ、あはははは・・・」
・・・うん、これ絶対ブチギレてるやつや。チベットスナギツネのような両目の奥に、「怒」って文字が見えるもん。
「ヘラヘラしてないで、ノグザムに来なさいよーーー!!!!!!」
「す、すみませーん!!!!!!!!」
フィオナに胸倉を掴まれた俺は、紹介所内に響き渡る声で謝罪した。
・・・うぅ、めちゃくちゃ恥ずかしいんですが・・・。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は今、紹介所2階のロビーで正座している、いやさせられている。そして、目の前には、俺らを心配そうに見つめるエルマさんと、鬼の形相で仁王立ちするフィオナが俺を見下ろしている。
「それで、何か言い訳は?」
「別に、フィオナのことを忘れていたわけでは、決してないんだけど・・・。」
「だけど?」
「・・・てへぺろ♥」
フィオナの強烈な右インステップキックが、俺の左横腹にクリーンヒットした。
「アァッ!!!!!・・・・・い、痛すぎる・・・。」
・・・えっ、だから本当に身体強化されてる!?あぁ、めちゃくちゃ痛い・・・。もう死ぬかも・・・。
「はぁ、もういい・・・。ユリウスに期待した私が馬鹿だった・・・。それに、今日ここに来た目的は、この話をするためじゃないし。」
フィオナは、完全に呆れている感じだ。いや、本当に忘れていたわけではない。ただ、色々と今後の方針を考えたり、お金を稼いだりしていると、いつの間にか、頭の片隅に追いやられていただけで・・・。はい、必ず「ステータスカードを見つけてくれたこと」と「レミントンまでの案内」のお礼はします。
「来た目的?」
横腹を抑える俺の問いかけに、フィオナはスゥっと息を吐き、真剣な眼差しで俺を見つめた。そして、フィオナの口から衝撃の言葉が出てきた。
「単刀直入に聞くけど、例の『ウェグザムの奇跡』を起こしたのは、ユリウスでしょ?」
「・・・はにゃ?」
・・・ちょ、ちょっと待てよ。俺の『インビジブルザラーム』は、完璧だったはずだ。誰にも認識されていない状態で使ったし。それに、知事の記者会見でも、『ウェグザムの奇跡』は、複数の「ウィザード」が協力して起こしたことになっている。つまり、本来であれば、フィオナの推理は荒唐無稽なものだ。もしかしたら、鎌をかけているのかもしれない。
「ちょっと何言ってるか分かんない。」
「誤魔化そうとしても、無駄だから。」
「いや、誤魔化すも何も、全く身に覚えがないんですけど・・・。それに、知事も複数の『ウィザード』が起こしたって、言ってたんだろ?」
「確かに、新聞にはそう書いてあったわ。でも私は、単独で誰かがやったことだと思っているの。」
「へ、へぇ~。で、その根拠は?」
「国家の最高戦力とも称される『ウィザード』が運よく、複数でウェグザムに集合しているなんて、到底考えられないからよ。」
「そ、そうか?そんなことも、あると思うけどな・・・。」
俺は、フィオナの理詰めに何とか対応しようとする。・・・ん?エルマさんがめちゃくちゃ驚いている顔をしているんだが、なぜだ?
「ふ~ん、まだシラを切るのね。」
「べ、別に、とぼけているわけじゃ・・・。」
「次に、新聞記事にもあった目撃証言とかから、今回の使用された魔法は、超級魔法『レイジングブーラスク』と上級魔法『エクセレンテクラーレ』と思う。」
フィオナは俺の言葉を遮って話し始めた。・・・すげぇ、完全に的中している。名探偵もビックリだな。
「な、なるほど、なるほど。」
「それで、魔力消費量から考えると、あれ程の広範囲にわたって超級魔法や上級魔法を放つ場合、『ウィザード』が最低でも、3人必要になる。でも、『ウィザード』が3人もウェグザムに来るなんて、あり得ない。」
「ま、まぁ、よっぽどの事情でない限り、あり得ないわな。」
・・・知らんけど。
「『ウィザード』が3人も集まらないといけない余程の事情なんて、このウェグザムにあるわけないでしょ。それに、もしそうだったら、世界的なニュースになっていると思うんだけど?」
「で、ですよね・・・。」
・・・知らんけど。
「そうなると、たった1人であの『奇跡』を起こした人物がいるってことになるの。でも、それは非現実的すぎて、その可能性を考える方が馬鹿げているでしょうね。だから、レミントンの知事も、より現実的な方を選んで、複数のウィザードによる協働って発表したと思う。・・・でも、私には1人だけ心当たりがあるの。」
そう言うと、フィオナはニヤッと不敵な笑みを浮かべた。美人な顔によく似合う(?)悪い表情だ。
「ねぇ、ユリウス。私はユリウスなら、できると思うんだけど?」
「フィ、フィオナさん、ご冗談を・・・。俺がそんなこと、できるわけがないでしょ・・・。」
「エルマ、どう?ユリウスが『ウェグザムの奇跡』を起こした人で間違いないでしょ?」
「そうですね・・・。話しているとき、完全に嘘だと出てましたから。ただ、ユリウスさんが、あのような偉業を成し遂げるとは、思いもしませんでしたけど・・・。」
・・・ん~?ちょっと待って~?思考が~追いつかないんですけど~?
「えっ、ちょ、な、フィ、フィオナとエルマさんって、し、知り合いなの?というか、エルマさんって、人の嘘とか見抜けるの?」
「当然でしょ?エルマを知ってたから、ユリウスに日雇い専用の紹介所があるって、教えたんじゃない。というか、動揺しすぎ。」
「そうですね、フィオナが1年程前にウェグザムに訪れたときからの付き合いです。」
・・・なるほど。なんか仲良さげな雰囲気が滲み出てたのは、そういうことだったのか。いいなぁ、俺も早くこの世界で友達が欲しい・・・。
「エルマ、ユリウスに自分のスキル教えてなかったの?」
「確かに、すっかり忘れていました・・・。ユリウスさん、すみません。伝えるのが遅くなりましたが、私のスキルはエクリプススキル【虚偽看破】です。相手が嘘をついているのかどうかが、見破れるスキルなんです。」
・・・oh , my god!Shoot!
「だから、ユリウスさんが『誤魔化すも何も、全く身に覚えがないんですけど』とおっしゃった瞬間に、ユリウスさんが、嘘をついているのが分かりました。その後の発言も、嘘が混ざっていました・・・。」
「どう?私の誘導尋問、上手かったでしょ?」
・・・コイツ、マジで良い性格してるわ!!
「俺は、何を喋っても、詰んでいたというわけか・・・。」
目立たないよう、「インビジブルザラーム」まで使って頑張ったのに・・・。こんなにあっさりとバレてしまうとは・・・。俺は、なんと惨めなんだ。次からは、黙秘権を行使しまくろう。この世界に、黙秘権があるのか全然分からないけど・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます