第12話 依頼完了
自分でも呆れるぐらい馬鹿な俺は、「5分で依頼を二つ終わらせる」という制約を自分に課してしまった。エルマさんにカッコつけていたさっきの俺を、一発ぶん殴ってやりたい・・・。
俺は「ヴォルフライト」を使用し、上空50m付近を猛スピードで滑空している。ただ、「ヴォルフライト」の効果なのか、空気抵抗をほとんど受けていない。まるで、俺を囲むように見えないシールドが展開しているようだ。魔法とは、何と都合が良いのか。
紹介所から金属製の廃墟までは思いのほか近く、全速力で飛行したため、1分もかからず目的地に到着した。眼下には、光沢のある白色に染まった廃墟 ―日本の軍艦島における廃墟に近い― が見え、鉄鋼でできている感じだった。俺は素早く降下し、廃墟前にポツンと俯いて座っている人物に話しかけた。
「あの、すみません。日雇いの依頼を受けて来た者なんですが・・・。」
「ん?・・・あぁ・・・・・おぉ!!ずっと待ってたよ!!今日中に解体しないといけないんだが、誰も引き受けてくれなくてな・・・。ありがとう、助かったぜ!」
口周りに濃い髭を生やした中年の依頼主は、もう完全に諦めていたのだろう。最初は何を言われたのがよく分かっていない感じだったが、すぐにニカッと笑って答えた。
「自分は、ユリウスと言います。」
「俺は、ニールス・グラッドだ。この辺りで不動産を経営している。」
へぇ、不動産経営者なのか。結構、お金持ってそうだな。それに家名があるってことは貴族か。・・・って、そんなことよりも・・・
「早速ですが、この廃墟を解体すればいいんですよね?」
俺は、眼前に建つ光沢ある廃墟を指差した。なかなか頑丈そうだ。
「まぁ、そうなんだが・・・。」
「どうかしましたか?」
ニールスは急に歯切れが悪くなった。何か問題でもあるのだろうか。こっちとしては、とっとと解体して、次の依頼に行きたいのだが・・・。
「この廃墟に使われている金属は、『極鋼』と呼ばれるもので、非常に軽いが、強度が尋常じゃないんだ。並大抵の物理攻撃や魔法ではビクともしない。」
・・・おいおい、マジか。何でそんな金属でつくるんだよ。
「何でそんな金属を使ったのか、不思議そうだな。実は、もともとここは、今は亡き私の父が管理する監獄要塞だったんだ。ただ、内部の老朽化が進んで解体することになってな。極鋼以外の箇所は全て解体し終わったんだが・・・。」
「極鋼でつくられた建物を解体する専用の方法は、何かあるんですか?」
「一応、あるにはあるんだが・・・。」
「じゃあ、その方法を教えてください。」
・・・やばい、時間がない!ニールス、早くしろ!早く言うんだ!!
「それが・・・。土属性の上級魔法『アールデルーイン』で壊すしか・・・。」
「了解です、『アールデルーイン』!!」
「えっ!?」
俺はニールスの言葉を最後まで聞かず、すぐに魔法を唱えた。こっちは時間がないんだ、時間が!!
魔法名を言うや否や、廃墟の地面が大きく縦と横に揺れた。そして、激しい揺れとともに、極鋼製の廃墟が、いとも簡単に崩壊した。まるで、巨大地震が廃墟のみを急襲し、跡形もなく崩れ落ちた感じだ。
ニールスは腰を抜かし、口を大きく開けたまま固まっていた。
「解体はこんな感じでいいですか?」
「え・・・あ、あぁ。十分すぎるぐらいです・・・。まさか、この街に上級魔法が使える人物がいるなんて・・・。『ウィザード』とはいかなくても、ユリウスさんは、相当の魔力量をお持ちのようですね・・・。」
驚愕の表情のままニールスは答えた。まだ、あまり何が起きたか分からないという目をしている。それに、口調も丁寧語になってるし。だが、そんなことはいい。俺に残された時間は2分もないのだ。
・・・クソ、あんな約束誰がしたんだよ!!・・・はい、俺ですね!!!バカです~!!
「じゃあ、ここにサインをお願いします。」
「あ、あぁ。」
「では、自分はこれで失礼します。」
サインを確認した後、俺はニールスに一礼し、すぐに「ヴォルフライト」で飛び立った。
・・・やばい、やばいぃーーーーー!!!急げぇーーーー!!!!!
俺は全身全霊で「ヴォルフライト」を使い、スピードMAXで東広場に向かった。東広場には廃墟から40秒ぐらいで到着したと思う。・・・うん、時速900㎞やん。やっぱり人外だな。
しかし、ジェット機レベルの速度で移動したことに驚く暇など俺にはない。到着早々、俺は東広場の巨大な銅像前で茫然と立ち尽くす青年に話しかけた。
「あの、すみません。日雇いの依頼を受けて来た者なんですが・・・」
「えっ?あぁ・・・・・おぉ!ずっと待ってたよ!!今日中に解体しないといけないんだけど、誰も引き受けてくれなくて・・・。ありがとう、助かった!」
ニールスとほとんど同じ反応で、少し笑いそうになった。
「自分は、ユリウスと言います。」
「僕はヘデオン。ウェグザムの東町役場に勤務していて、施設の管理などを担当しているんだ。」
やはり、文系出身でいかにも真面目そうな20代後半ぐらいのこの好青年 ―ヘデオン― が依頼主のようだ。
「早速ですが、この銅像を移動させればいいんですよね?」
「あぁ、そうだよ。この、城郭都市レミントンが誇る偉人ガディエルの銅像を1㎞先のあそこまで運んでほしんだ。ただ、かなり大きい銅像だから、あまりにも重くて・・・。業者に頼むと結構お金がかかるから、できれば日雇いの人にお願いしようかなって・・・。」
確かに、目の前の銅像は3mぐらいの大きさだった。1㎞も運ぶとなると、かなりの労力がかかるだろう。だが、思ったよりも簡単な依頼だ。これなら余裕で間に合う。
「了解です。では、すぐに動かしますね。ヴォルフライト!」
俺は銅像に手を置き、その状態で「ヴォルフライト」を詠唱した。すると、俺と一緒に銅像はスゥーと浮遊し、空中で停止した。
・・・オッケー、予想通り!!
森林の中で「ヴォルフライト」を使ったとき、俺自身に魔法がかけられた感覚があった。そこで、自分が何かの物体に触れた状態で「ヴォルフライト」を使用すれば、自分ごとその物体も浮かせることができるのではと考えたのだ。
「えっ・・・ど、銅像が・・・浮いている・・・?人以外の浮遊には、膨大な魔力が必要なんじゃ・・・。」
キョトンとするヘデオンを無視し、俺は難なく銅像を1㎞移動させた。
「これで銅像の移動は終わりですね。」
「えっ・・・あ、あぁ。確かに。まさかこんなに早く終わるとは・・・。あなたは一体・・・」
未だに状況が理解できていないのか、ヘデオンは心ここにあらずという感じだった。しかし、そんなことはどうでもいい。
「ここにサインをお願いします。」
「へっ?・・・あっ、ああ。」
「では、自分はこれで失礼します。」
先程と同様に、サインを確認したあと、俺はすぐに飛び立った。ヘデオンは放心状態だったが。
全速力で滑空し、20秒ぐらいで東広場から紹介所に到着した。今回の件で、「ヴォルフライト」にだいぶ慣れたので、ある意味、俺としては良い練習になった。「ヴォルフライト」は、浮遊魔法だが、俺にとっては最高の移動魔法だな。
俺はスタっと地上に降り立ち、そのまま紹介所の木製扉を開けた。
「あっ、ユリウスさん!」
すぐに俺に気づいたエルマさんが駆け足で近づいてきた。ちなみに、出発前の号泣のせいか、エルマさんの目は少し赤く腫れていた。
「本当にお早い帰りですね!」
「何とか頑張りました。これ、サインをもらった依頼書です。」
俺はサイン欄を確認しながら、2枚の依頼書をエルマさんに手渡した。
「はい、ありがとうございます。・・・確かに、依頼達成のサインがありますね。これで正式に依頼完了です。でも、すごいですね!本当に5分で、依頼を二つとも達成してしまうなんて!しかも、高難易度のものを!」
エルマさんの笑顔がめちゃくちゃ眩しい。さっきまで涙を流していた人とは思えないほどだ。いや~、頑張って良かった。
「ま、まぁ、俺にかかれば、こんなの超余裕ですよ。」
・・・本当はめっちゃくちゃ焦ってましたが!!!!!というか、絶対に無理だと思ってましたが!!!!!
何とか俺は、エルマさんの前で体裁を保つことができた。そして、二度と変にカッコつけるのはやめようと誓った。
「では、依頼完了の報酬をお持ちします。少々お待ちください。」
朗らかな表情を浮かべたまま、エルマさんは、日雇いの報酬を取りに、役所の奥へと消えていった。数分後、大きな麻袋を両手で抱えたエルマさんが戻ってきた。
「お待たせしました。こちらが今回の二つの依頼の合計報酬となります。」
そう言うと、エルマさんは受付台に麻袋をドンッと置いた。見た目からして、思った以上に稼げたっぽい。
「おぉ、ありがとうございます。」
俺は心の中で、某世紀末のザコキャラのように「ヒャッハー!!!」と叫びながら、麻袋の中をおもむろに開けた。袋の中には、金色のコインが3枚と銀色のコインが十数枚入っていた。
・・・おそらく、金貨と銀貨だろう。パッと見た感じだが、日本円に直すと、5万~6万ぐらいってところか。
初仕事にしては、なかなかの稼ぎだろう。それに、これぐらいあれば、今日1日の食事代や宿代は余裕で賄えるはすだ。
「では、自分はこれで失礼します。また、お金に困ったら来ますので、仕事の紹介をお願いします。」
「はい、分かりました。本日は、本当にお疲れ様でした。また、いつでもいらしてください。」
俺はエルマさんに深くお辞儀し、紹介所をあとにした。
さてと、何とか軍資金は手に入れたぞ。あとは、食事と宿泊するところだな。俺は右手で麻袋を持ち、食事する場所と泊まる場所をぶらぶら探した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます