第11話 お金が足りないときは借金ですわ
翌日、わたくしたちは連れだって朝食をとりました。
「昨日はごめんなさいですぅ……」
「お互い疲れていましたし、不可抗力ですわ」
「……」
「……」
視線が合うと若干の気まずさを感じてしまいます。ただお酒に酔って
「きょ、今日はいいお天気ですわね」
「は、はいですぅ」
「……」
「……」
「お時間が来ましたら、ギルドに換金しにまいりましょう」
「は、はいですぅ」
朝食の豆のスープをいただきながら、行き場のない気恥しさをごまかすために、お皿に視点を落とします。
酸味の効いた柔らかい豆と、塩気のある鶏肉のお味がおいしいのですが、意識がそちらに向きません。やましい行為はしておりませんのに、不思議ですわ。
もう、仕方ありません。
気分をおちつかせるためには、外からの力を取り入れればいいだけです。すなわち迎え酒ですわ。
「葡萄酒を一杯お願いいたします」
「アテンノルンさま、朝からお酒を飲むのですぅ!?」
「一杯だけでしたら、飲んだうちに入りませんの」
「そうだったのですか!? 知らなかったですぅ、だったら私も飲みますぅ」
店員さんに呆れた目で見られつつ、わたくしたちは葡萄酒をボトル一杯ずついただきました。浮ついた気分が落ち着いて平常に戻ります。
「それではギルドに向かいましょう」
「はいですぅ!」
ギルドに入る前に周囲を確認します。昨日、絡んできた冒険者のかたがたはいらっしゃいません。ほっとして扉を開けて中も確認──敵の姿は見えません。
「何をしているのですぅ?」
「わたくしをよく思っていない冒険者のかたがいらっしゃいまして、念のために警戒していますの」
「私が旅をする理由と同じですねぇ。嫌な人から離れて、新鮮な空気を吸うために冒険をしているのですぅ」
「まあ」
わたくしはメルクルディさまをはじめて面白いと感じました。
わたくしの動機とは正反対ですが、理不尽を享受して耐えるよりも逃走を選ぶ精神は立派です。
わたくしは面子を重視する貴族社会の末席ですので、お父様さま曰く「舐められたら殺す」の精神を教育されてきました。
ですので昨日絡んできた冒険者のかたがたも、謝りに来るまで、もしくはわたくしに頭が上がらないと風評がたつまで、追いつめなければなりません。
ですがメルクルディさまが実践なされていらっしゃる、面倒ごとが起こったら新しい街に行くメソッドも、わたくしとは相いれませんが、理解できます。
精神性をどこに置くかの違いですわ。
「いらっしゃいませんわ。換金しにまいりましょう」
「はいですぅ」
買取カウンターでは昨日お会いしたかたが、わたくしをみてニッと笑われました。
「いらっしゃい。今日も何か売ってくれるのかい?」
「ええ。再び
「ありがてぇ! まだまだ足りなかったんだよ。どんくらいあるんだ?」
「これだけですぅ」
メルクルディさま麻袋の口を開けて、納品台のプレートに大量の花びらをお乗せになりました。広いプレートの上に花びらの小山ができました。
「あんたらずいぶん狩ったんだな……」
「はいですぅ」
「それと、こちらの買取もお願いいたします」
わたくしは腰のかばんから
「こりゃあおまえソウルクリスタルじゃないか! 久しぶりに見たぜ! 運のいい野郎だな!」
ギルドがざわりと騒めいて、いくつもの視線を背中に感じました。
「買取してくださいまして?」
「もちろんだぜ。相場の紙は──畜生ひさしぶりすぎて、どこにやったんだか覚えてねえ。ギルマスに聞くから、しばらく待ってくれ」
「もちろんですの」
職員さまが席を離れました。
わたくしとメルクルディさまは並んで椅子に座って待ちます。
(やはり騒がれましたわ)
(はいですぅ。3つも出さないでよかったですぅ)
(残りの2つは黙っておきましょう)
(わかりましたぁ)
ひそひそ声と話すメルクルディさまの吐息が、皮膚にかかってくすぐったいです。
「待たせたな」
30台後半と思わしき中年のかたが奥からやってまいりました。
程よく筋肉のついた身体に、短く切りそろえた短髪、鼻筋が通っており、たいそう男前でいらっしゃいます。
「ソウルクリスタルを手に入れたんだって? 運がいいな」
「ええ」
職員さまと同じ言葉をおっしゃっております。やはり珍しいのですね。
「念のために聞くが、盗品じゃないよな」
「もちろんですわ」
「規約だからな、勘弁してくれ」
たとえ盗品でも「はい」と答えるかたはいらっしゃらないと存じます。
嘘か真か判断できるのでしたら、話は別ですが。
「それじゃどこで手に入れたか教えてくれ」
「抉顔窟の迷宮の一階で
「そうか。鑑定のスクロールを今ここで読むから、立ち会ってくれ」
ギルドマスターさまは小さな巻物を広げると、魔法言語を読み上げました。ソウルクリスタルが輝き、中空に文字が浮かびます。
「確かに本物だ。手間をかけたな」
「恐れ入ります」
「それで買取金額なんだが、金貨4800枚だな」
「そんなにですぅ!?」
「それだけですの?」
メルクルディさまお喜びになり、わたくしは別の意味で驚きました。
「不満か?」
「一般的には金貨5000枚はくだらないと聞き及んでおりますが、相場が暴落する何かがありまして?」
「ああ、間違ってねえよ。だがここの法律で、高額品には取引税で2割をとるから、相場の6000に8がけで4800だ」
「あうう……」
メルクルディさまが視線をさ迷わせております。
算術を習っていらっしゃらないかたは珍しくありません。ですので、そっと耳打ちいたしました。
「1/5が税金で取られますの」
「あうう……」
「そういうこった。んで、どうする?」
「買い取ってくださいませ。ここでお見せしてしまった後、よその街まで安全に運ぶ自信がありませんもの」
「悪いな。カネはあんたのギルドカードに振り込めばいいのか?」
「ソウルクリスタルと魔物のドロップ品の総額を、わたくしとメルクルディさまで等分して、お振込みくださいませ」
「はいよ」
「それと最終的なわたくしの残高から、魔術師のヴィッラッゾさまに金貨1000枚をお振込みください。三人組の冒険者のかたですわ」
「やつと同じ名前の冒険者は他にいないぜ。──昨日、若手を12人も施療院送りにしやがった。今はもう別の町にいっちまったよ。それで何のカネだ? 脅されているのか?」
ギルドマスターさまの視線がわずかに細まります。みなさま犯罪行為だと疑っておいでですが、あのかたたちのご評判はどうなっているのかしら?
「いいえ借金の返済ですわ」
「おまえよ、口止めされているならここで全部話せ。悪いようにはしないぜ」
「本当ですの。以前、困っているときにヴィッラッゾさまのパーティが手を貸してくださいましたの。そのお礼ですわ」
「ほーう。前から知り合いだったのなら、おまえを助けたのも納得がいくな。まあいいだろう。振り込んどいてやる」
「お願いいたしますわ」
「あの……」
メルクルディさまが袖を引いております。
返さなくていいお金だと伝えたいのでしょうが、後々のつながりを考えますと、ここでお金を渡しておいて、お味方につけておくのが得策と存じます。
それにわたくしのお願い通り、敵を倒してくださったのですから、正当な報酬ですわ。
「他に何かあるか?」
「いえなにも。メルクルディさまはおありでして?」
「あうう、ないですぅ」
「よし、それじゃあとは職員に引き継ぐ。珍しいアイテムを入れてくれてありがとよ。俺のギルド評判もあがるぜ」
「どういたしまして」
「ですぅ」
ギルドマスターさまはそういうと、パーテーションで隠された建物の奥に消えてゆきました。
(1000枚も使ってよかったのですぅ?)
(ええ。将来のための投資ですわ。メルクルディさまと同じです)
(なるほどですぅ)
ひそひそ話をしておりますと、ギルド職員さまが戻ってまいりました。明細を確認して同意します。わたくしに金貨1440枚、メルクルディさまに2439枚がギルドカードに振り込まれました。
「あんたのギルドカードを担当した受付嬢が呼んでたぜ。依頼があるから、帰り際に寄ってくれってよ」
「承りました。メルクルディさま、パーティを組んでくださってありがとう存じます。まことに助かりましたわ」
「こちらこそですぅ……あの、あの……」
「どうなさいまして?」
「この先も一緒にパーティを組んでください!」
メルクルディさまが切羽詰まった表情でわたくしを見ました。
真剣な目つきで、ローブの裾を両手で握りしめて、わたくしをまっすぐな視線で見られております。
嬉しい申し出ですが、受けていいのでしょうか。
「ありがたいお話ですが、わたくしと一緒でよろしいですの? 他に優先なされる事情がおありでしたら──」
「ないですぅ! よろしくお願いします、ですぅ!」
メルクルディさまの表情は、
瞳に赤い魔石が燃えているような、獲物の命までも目標にした所有欲と独占欲のみなぎった瞳です。
「え、ええ。これからお願いいたしますわ」
「やったぁ!」
手、手が痛いですわ!
強くお握りにならないでくださいませ! お放しくださいませ! 骨が砕けますわ! 骨が砕けますわ!
「よかったなぁお嬢ちゃん」
買い取りカウンターの職員さまが、他人事の感想をおっしゃっております。
ここに居続けてもご迷惑ですし、依頼/請負カウンターに移動いたしましょう。
お世話になった受付嬢さまが、わたくしたちを見つけると手招きして椅子にうながします。
「や。ソウルクリスタルを拾ったんだって? おめでと」
「ありがとう存じます」
「急で悪いけど、依頼をひとつ受けてほしい。っとその前にあんたたち二人でパーティを組んでいるんだよね?」
「ええ」
「はいですぅ。ギルドカードにも書かれてますよぉ」
「へぇ……『即席パーティ』って、もうすこしマシな名前を付けなよ」
「そうですわね」
ダンジョンでは気にしておりませんでしたが、他のかたに名前を呼ばれると。のんびりしたお名前に聞こえますわね。
今度新しいパーティ名を相談いたしましょう。
「さっそく話に入るけど、ここから馬車で1日の距離にある村が、邪悪な
「無料奉仕ですの?」
「村なんだ」
「村?」
「村ですぅ?」
「そう。村が報酬。要するに村を管理していた騎士がいなくなったから、代わりに管理する人間を募集してるんだ」
「それは……お金のかかるお話ですわね」
「そうなのですぅ?」
「おっ、わかってるじゃん」
受付嬢さまがにっこりと微笑まれました。
このかたの魅力に気づいているのはわたくしくらいですわ。
「どうなるか教えてください」
「ええ。まずは
ですので次の収穫の時期が来るまで、村人さまの衣食住を負担いたしますの。そしておそらく軍役を納めるタイプの税金を領主──名代さまにお支払いいたしますが、軍馬や装備ともども自腹です。軌道に乗ればお金が儲かりますが、おそらく村は治安のよくない地域ではありませんこと?」
「詳しいじゃないか。あの村は盗賊や魔物の襲撃、それと伝染病の蔓延で、ここ3年で5回は管理者が変わっているよ。村人まで壊滅したのは今回が初めてだけどね」
「呪われた土地ですぅ!」
「土地を鎮める神様を祭ったほうがいいのかもしれませんわ。いかがですメルクルディさま。暗黒神殿の荘園をお作りになっては? グラスに投資するより儲かるかもしれませんわ」
「村の経営なんて私にはわかりません……」
メルクルディさまはお困りになっていらっしゃいますが、村をひとつ確保しておくのはいいアイデアかもしれません。
わたくしのお金の使い道は、お屋敷を攻撃したチクロさまとそのご家族を失脚させるために使われるべきです。
ここで活動資金源を手に入れられれば一歩目標に近づけます。
多少無茶でもやってみる価値はありますわ。
「
「あんたはたちは「赤灼岩の通路」で狩りできるパーティだ。並みの冒険者よりは強い」
「相手が並みでいらっしゃらなかった場合はどうなりまして?」
「そのときは逃げるしかないね」
「そうですわね。メルクルディさま、お受けいたしましょう」
「やるのですかぁ?」
「困っている村人さまたちを捨て置けません。悪の
「アテンノルンさまの気高い心が素敵ですぅ! でも私は村の経営はしないですよ?」
「……それは成功してから、もう一度相談いたしましょう」
「わかったですぅ」
「受けてくれんだ。あんたたちが断ったら替わりがいなかったんだ、よかった」
「依頼の期限はありまして?」
「できるだけはやくとしか言われてないけど、名代の言葉を翻訳するなら今年中に、かな」
「承りましたわ」
「がんばりますぅ!」
依頼を受けるサインをした後、わたくしたちは装備の調達に向かいました。
わたくしはドレスのかわりの装備、メルクルディさまはローブの下に着こんだ帷子の修理です。
鍛冶屋通りには統一感のある煉瓦の建物が並んでおりました。メルクルディさまのつてを頼ってお店に入りました。
「いらっしゃい」
『ランディの殲滅防具店』と大仰な店名が書かれたお店に入りますと、せまい店内にみっしりと鎧兜が並んでおります。
様々な素材を組み合わせて作られた鎧は、金属製に革製、帷子、複合材、小札、色も黒、茶色、灰色、めだつところでは赤と白のツートンカラーなど、実用性と装飾性に2分されております。
金属と皮革の匂いがしそうなものですが、ほとんど無臭です。カウンターの柱に吊り下げられたにおい袋が、消臭しているのかもしれません。
わたくしは店内を軽く眺めたあと、それとなく迷っている雰囲気を出しました。
「買うのか?」
店主さまがお声をかけてくださいました。こういう場合は、熟練のかたにアドヴァイスをいただきつつ、お話を進めるのがいいですわ。
「ええ、じつは──」
店主さんに要望を伝えます。
動きを阻害されないボディラインにフィットする立体裁断の革鎧、足を守るための装甲ロングブーツ、軽めの兜──邪魔にならない重量で視界と聴覚の広さを重視した形状──、そのほかには金属を縫い込んだインナーなど、予算をお伝えしつつ、できるだけ希望を述べました。
「そのカネじゃオーダーメイドは無理だが、既存品を手直しすればなんとか値段内で収まる」
「まあ、よかったですわ」
「それで付与は?」
「付与?」
「魔法効果だ。何かつけるんだろ」
「……メルクルディさま。実用的なものを教えていただいてよろしくて?」
「そうですねぇ」
メルクルディさまと店主さまは、
……実を申しますと、あまり理解しておりません。学園でお勉強したときもそうですが、一度に大量の情報をいただくと、頭が理解を拒んでしまいます。
かろうじて覚えられた部分を要約しますと、魔石の種類による組み合わせで身体能力の向上や、熱や冷気からの保護能力、魔法効果の減少、あるいはその逆、めずらしいものになると攻撃を自動で察知して保護障壁を展開する、だそうです。
わたくしが理解しようとしまいと、説明は進んでゆきましたので、聞き流してしまいましたわ。使って覚えてゆけばいいのです。
メルクルディさまのお勧めに従い、鎧には反応速度、骨の高密度、力の上昇、ブーツには隠密強化、兜には聞き耳です。
ただ、
「そんなに使って平気なのですかぁ? 稼いだお金よりオーバーしてますぅ」
「些細な問題ですの。良い装備があればよりたくさんお金を稼げると存じます。もしかして冒険者のかたは意外と貯蓄されているのでしょうか?」
「人によりますぅ。私は暗黒神殿に仕送りしてますから、そんなに持ってないですぅ」
「まあ、信仰に殉じていらっしゃるのね」
「はいですぅ」
そういうお考えもありますのね。わたくしには援助したいほど友好を結んだかたがおりませんので、思考の
「それでは、よろしくお願いいたします」
「ああ、まかせな」
店主さまに頭を下げて店を後にします。ソウルクリスタルを売ったお金がすべてなくなり、それでも足がでましたので、ローンを組んでいただきました。
防具一式で金貨6000枚。一般的な庶民のご家庭が10年は暮らせるお値段ですわね。
わたくしは前金で1000枚を支払い、残りの5000枚は半年間の分割払いにしていただきました。
安全のためとは言え、今のわたくしには大きな出費ですわ。
そのあとは服飾店で下着を買いました。丈夫で肌荒れしない絹素材は、着心地がよくて負担が軽いです。
雨避けと屋外で眠るための
特殊な油を塗っているので濡れにくく、体温を保ってくれます。
これから野宿する機会も増えるでしょうし、必要な投資です。防刃効果もあってお得ですわ。こちらは金貨500枚。全てローンです。
最後に武器屋に寄ります。
メルクルディさまが自分用の武器をお選びになっているあいだに、わたくしも店内を見回します。
槍や剣の鋭さは、先端恐怖症的なおぞけを感じます。逆にフレイルのトゲつき鉄球はどこかコミカルな印象がありますわね。わたくしに扱えるとは思えませんが……。
こちらも店主さまにお話をお聞きしましょう。
「ゾンビやグールを相手にするとき、初心者でも使いやすい武器をお教えくださいませ」
「あんたの得意な武器はなんだ」
40代くらいの無精ひげを生やしたおじさまが、わたくしを訝しげに見ながらそうおっしゃいました。
剣の授業は受けましたが得意ではありませんし、今つかっている武器でいいでしょう。
「クロスボウと短剣ですわ」
「それだったら聖別された矢じりを使えば、普通の矢よりも打撃を与えられる。短剣には聖水でもかけろ」
「わたくしの短剣はすでに
「見てせてみろ」
わたくしが取り出した短剣をご覧になった武器屋さまは、一枚のスクロールをお読みになりました。小さな羊皮紙の切れ端が中空で分解され、見えなくなりました。すぐに短剣をお返しになります。
「こりゃ貫通と耐久が高いレベルでかかってるな。だが、聖水と反発はしない」
「まあ、便利だとは存じておりましたが、そのような
「何で知らねえんだよ」
「おじいさまにいただいたものですから、鑑定をしておりませんの」
「おまえな……めったにねえものだから、大事に使え」
「ええ」
わたくしがお話をしているあいだに、メルクルディさまは頭が鳥のくちばしに似たハンマーをお選びになりました。
アンデッドに対する鈍足効果と、霊体にも通じる魔法効果があるそうです。聖水をかけなくてもそのまま殴り倒せるのだとか。
「
「えへへ、不浄なアンデッドをぜーんいん倒しちゃいます!」
メルクルディさまが悪魔を叩き潰す聖者の石像の決めポーズをとられたので、わたくしは拍手いたしました。
かっこいいですわ! かっこいいですわ!
お父様が邪教徒のアジトをせん滅なさっときは、燃える建物を背景に配下の騎士たちと並んでいる絵画をかかせておりましたが、その絵を思い出しましたの。
みなさま笑顔で並んで素敵な絵でした。
鑑定のスクロールがないと不便だと教えていただきましたので、魔法屋さんで100枚つづりの本を1つ買いました。
魔物が装備をドロップする場合や、ダンジョンの中にある宝箱の中身を鑑定するのに必要だとお教えくださいました。
「魔物が装備を直接落としますの?」
「はいですぅ、使っている武器が残ったり、ぜんぜん別のものが生成されたりするですぅ」
「素材を落とすだけではありませんのね」
「魔物によるですぅ」
ダンジョンによってドロップアイテムが変わるのでしょうが、鍛冶屋さんが存続しているのをみるに、市場のバランスを破壊するほどドロップしないと存じます。
あるいは質が低すぎて使い物にならない、もしくは素材としての用途しかないのでしょう。
「貴重な装備を手に入れてみたいですわ」
「一緒に探しに行きましょう!」
「ええ」
魔術師さまのお店では、ランプに魔力を充填していただき、替えの魔石もいくつか購入しました。商品を選んでいるとき、店主さまに汚れたお水を飲める魔道具をおすすめされました。
なんでも光の魔石で作られたストローで、汚水があいだを通るときに、水が浄化されて飲めるようになるのだとか。お値段は金貨100枚。踏みつけても割れない程度に丈夫だそうです。
わたくしは買ってもいいと考えたのですが、メルクルディさまに止められました。
魔力が満タンの状態でどれだけ使用できるかお聞きしてくださいましたが、コップ20杯が限度でした。そしてメルクルディさまのお言葉「お鍋で沸騰させればいいだけですぅ」がわたくしの購買意欲をゼロに低下させました。
先輩冒険者さまは頼りになりますわ。
5日後。
わたくしたちはひとりの同伴者を伴って、占領された村に向かっておりました。レンタルした馬にはわたくしとメルクルディさまが相乗りです。
馬の隣には灰黒狐が並走して、先頭には徒歩の獣人がおります。
「このまま、まっすぐだ」
先頭に立って案内しているのは獣人のライゼ。
緑色のショートヘアに、褐色肌に黒い髪、そして頭から白い兎の垂れ耳をはやした獣人です。彼女は村の生き残りで道案内です。
ギルドの職員さまが出発に際して用意してくださいました。
「道案内を付けてくださるなんて、期待されておりますわ」
「絶対に成功させましょうね!」
「到着するまでに、獣人からお話を聞いておきましょうか。あなた、村について詳しく話しなさい」
「……わかった」
獣人は静かにうなずきました。
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