冤罪?
「さて……
「「「「「…………………………」」」」」
今、私の目の前にはリンケ子爵をはじめ、人身売買や禁止薬物の取引及び乱用に関わった者全員が拘束されてうなだれている。
「ふふ……
ニタア、と口の端を吊り上げて
こ、このような表情をすることもできるのだな……だが、これはこれでいいかもしれん……。
なお、あらかじめイエニーが用意していた証拠の品以外にも、屋敷内や人身売買の組織のアジト、関係者の家などを捜索したら、出るわ出るわ、とても王都まで持ち帰ることすら難しいほどの量だった。
一体、どれだけ悪事を働いていたのだ……。
まあ、リンケ子爵以下一族郎党は極刑の上取り潰し、関与していた者共もよくて十年以上の強制労働が関の山といったところだろう。
「ではグスタフ、この者達を王都まで護送して帰るとしよう。それと……」
私は今回の事後処理についてすり合わせを行う。
まず、マインリヒの街の統治については、今回の事件に関与していなかった近隣の貴族に臨時に行わせることにした。
また、囚われていた者達や既に売り払われてしまった者についても、帳簿から全て調査して取り戻す。
ただし、売り払われた先において幸せに暮らしているのであれば、強制はせずにリンケ子爵の財産の一部から補償金を充てる。
後は……今回の事件で明らかになった、禁止薬物の不正取引を行っている組織の存在。
人身売買の組織を含め、どこまでこの国の根は深いのだ……。
「ディー様……」
見ると、いつの間にかリズが心配そうに私の顔を
「リズ、大丈夫だ。ただ……これからせねばならないことが山積だと考えてな」
そう言うと、私は不器用ながらもリズに微笑んで見せる。
私もこの一年半で成長したようで、ぎこちないながらも意識して笑えるようになった。
時々、リズやハンナにからかわれることもあるが。
「ディー様、少しずつ前に進みましょう」
「うむ、そうだな」
だが、その前に……私は、力を手に入れなければな。
皆を幸せにするための、確かな力を。
◇
「兄上、リンケ子爵を
リンケ子爵を捕らえ、人身売買の組織を壊滅させてから一週間経ち、王宮に帰るなりオスカーが絡んできた。
だが、いつもの軽薄な笑顔ではなく怒りの表情を見せているところを見ると、リンケ子爵の捕縛はオスカーにとっても都合が悪いようだな。
「ああ、私は視察先であるマインリヒの街で、リンケ子爵を捕らえた。人身売買や禁止薬物の取引に関与していたからな」
「それが冤罪だというのです! 兄上は、善悪の区別もつかないのですか!」
私の言葉に、オスカーは声を荒げた。
だが……コイツは何を言っているのだ? これだけの証拠が揃っているのに、何故冤罪などと宣うことができるのだ? 理解に苦しむ。
「……オスカーよ、言いたいことはそれだけか?」
「それだけって……兄上は何も分かっていない! あのリンケ子爵が、この王国にどれだけ利益をもたらしているのかを!」
まるで理解できないとばかりに、オスカーがかぶりを振る。
さすがにここまで来ると、何かあるのではないかと勘繰ってしまうな……。
「ふふ……ディー様、オスカー殿下は混乱しているご様子。そっとしておいてあげるのが一番かと」
「ふむ、そうだな」
クスリ、と微笑むリズの言葉に、私は頷く。
そんな私達の仲睦まじい姿が気に入らないのか、オスカーは忌々しげに私を睨みつけた。
「いずれにせよ、リンケ子爵の今後については法務大臣と国王陛下が決める。私は、すべきことをしたまでだ。それでもなお気に入らぬなら、貴様が国王陛下と法務大臣に直接訴えるのだな」
私はリズの手を取り、オスカーの隣を通り過ぎて立ち去ろうとした。
その時……私の視界に、口の端を持ち上げるオスカーの表情が入った。
そして、オスカーの姿が見えなくなる位置まで来ると。
「……リズ、見たか?」
「はい……オスカー殿下は、確かに笑っておりました」
「ああ。となると、今回のリンケ子爵の件について、オスカーもオスカーで何か仕込んでいるのかもしれんな」
一番考えられるのは、リンケ子爵が実は無実の罪であって、それを誤って捕縛した私を糾弾する、というものだが……まあ、あれだけ証拠が揃っている中、さすがに無理があるだろう。
となると……。
「……リズ」
私は彼女の耳元に顔を寄せ、そっと耳打ちする。
「……私もその可能性が高いように思います」
「全く……だが、ならば
「ふふ……面白いことになりそうです」
私とリズは、微笑みながら頷き合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます