主役の二人

「皆の者、我が息子、ディートリヒのためによくぞ集まってくれた」


 ホールの中央に立つ国王陛下の声が、ホール内に響き渡る。

 貴族達は陛下と、その後ろに控える私とマルグリットに注目していた。


「この度、良き日にディートリヒとフリーデンライヒ卿の大切な令嬢であるマルグリットが、めでたく婚約となった。今日は大いに祝い、大いに楽しんでくれ」


 その言葉を合図に、私とマルグリットを祝うパーティーが始まった。


「国王陛下、ディートリヒ殿下、それにマルグリット嬢、婚約おめでとうございます」

「うむ、ありがとう」

「「ありがとうございます」」


 次から次へと貴族達が祝賀の挨拶にやって来ては、私とマルグリットは丁寧にお礼を返す。

 マルグリットも、ホールに入る前の緊張は抜けたのか、今は柔らかい表情を浮かべていた。


「マルグリット、大丈夫か?」

「はい。ディートリヒ様が隣にいらっしゃいますし、それに、私があまり貴族の方々のお相手をしなくてもよいよう、あなた様が率先してお相手いただいておりますから……」

「なんだ、気づいていたのか……」


 まあ、不器用ではあるがいつも私のことを気遣ってくれていたマルグリットなら、それも当然か。


 すると。


「ディートリヒ殿下、婚約おめでとうございます」

「ウフフ、今日は大切な跡取り・・・息子のために、ありがとうございます」


 やって来たコレンゲル侯爵を見て、第一王妃が嬉しそうに感謝の言葉を告げる。

 だが……既に自分の手を離れてしまっているにもかかわらず、それに気づかない我が母親に、私は思わずこめかみを押さえた。


「今日は、どうぞ楽しんでいってください」

「はい、では失礼します」


 コレンゲル侯爵は一礼し、そのままホールを出て行ってしまった。

 おそらく、第二王子派が集うサロンへと向かったのだろう。ご苦労なことだ。


 その後、ようやく貴族達の挨拶がひと段落したところで、ホールに音楽が流れ始めた。


「マルグリット、では行こうか」

「あ……は、はい……」


 私はマルグリットの手を取り、ホールの中央へと一緒に向かうのだが……彼女は緊張し、その表情が強ばっている。


 中央に立ち、私達は向かい合う。


「ひゃ!? ディ、ディートリヒひゃま!?」

「マルグリット、そのように怖い顔をしなくてもいい。それよりも、私は君と一緒に踊る時を、心待ちにしていたんだ。だから君は、ただ私だけを見てほしい」


 彼女のその赤子のように柔らかい頬を軽くつまみ、少しおどけながらそう告げた。

 はは……こんな彼女も、なんと愛らしいことか。


「も、もう……このような場所で、さすがにおふざけが過ぎますよ……?」


 彼女は口を尖らせそう言うが、緊張も解けたようで頬が緩んでいた。

 もちろん、私がお願いしたとおり、彼女の琥珀色の瞳は私を捉えて離さない。


「さあ、踊ろう」

「はい!」


 私とマルグリットは全員が見守る中、二人だけのダンスを披露する。


「はは! マルグリット、見事だな!」

「ディートリヒ様こそ!」


 前の人生で何度も踊ったのだ。私には彼女の息遣いも、ステップも、視線も、全てが手に取るように分かる。

 それらの全てがこの私に合わせようとする、そんな彼女の心遣いも。


 そして。


 ――パチパチパチパチパチ……!


 ホール中に、拍手と喝采が巻き起こった。


「ディートリヒ殿下! 見事なダンスでした!」

「マルグリット様! なんて素敵なのかしら!」


 私達のダンスに見惚れたのか、多くの子息令嬢が私達に注目していた。

 貴族達も、私達に温かい眼差しを送ってくれていた。


 はは……私は“冷害王子”と呼ばれていたはずなのだがな……。


「ふふ……ディートリヒ様、やはりあなた様の笑顔は世界一素敵です」

「む……私は、君といるとどうしても自然と顔が綻んでしまうようだ」

「ふあ!? も、もう……」


 うむ、やはりマルグリットのその声は何回聞いても可愛いな。


 皆に見送られながら、マルグリットの手を取りホールの中央から離れると。


 ――パチ、パチ……。


「兄上、マルグリット、お見事なダンスでした」

「……オスカー」


 大仰に拍手をしながら、オスカーが爽やかな笑顔で出迎える。

 その後ろに二人の子息を従えながら。


 この者達は確か、クレンゲル侯爵の次男、“オットー”とラインマイヤー伯爵の長男、“ブルーノ”だったか。

 前の人生では、形式上は私の従者をしておったと記憶していたのだがな。


「やあ、今度は僕もマルグリットとダンスをしたいのですが?」

「しつこいぞ。それについては、先程も断ったはずだ」


 私はこれ以上取り合わないとばかりに、手をヒラヒラさせてオスカーを追い払う仕草を見せた。


 だが。


「マルグリット……この僕と、どうか踊ってくださいませんか?」


 そんな私の言葉を無視し、オスカーはマルグリットに手を差し出す。


「……御冗談を。私のダンスはディートリヒ様と踊るためにあるんですの。申し訳ありませんが、オスカー殿下では少々不釣り合いですわ?」

「っ!?」

「無礼な!」


 仮面を貼り付けたかのような表情でマルグリットがそう言い放つと、オスカーは息を飲み、ブルーノが声を荒げた。


「貴様、聞き捨てならんな。私の・・婚約者であるマルグリットに対し、無礼だと?」

「う……」


 そう言って私がすごんでみせると、ブルーノはおののく。


「そもそも、私とマルグリットのためのパーティーで、弟である貴様が兄の私を無視して彼女にダンスを申し込むなど、それこそ無礼極まりない話だ。貴様も第二王子なら、マナーからやり直せ」


 私はあえて大声でそう言い放ち、マルグリットの手を取ってオスカー達の隣を通り過ぎようとして。


「では、ごきげんよう」


 マルグリットはクルリ、と振り返り、口の端を持ち上げてそう告げた。


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