ザ・ビースト//合流

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 ──ザ・ビースト//合流



 東雲と“月光”の少女がサンドストーム・タクティカルの哨戒部隊と交戦。


 口径105ミリ電磁加速砲と口径7.62ミリ同軸機銃、そして口径12.7ミリガトリングガンを備えた無人の偵察戦闘車RCVが東雲を狙い、それに援護されて軍用四輪駆動車から生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが降車する。


「“月光”。まずは装甲車から叩く。俺が敵を引き付けるからやっちまってくれ1」


「分かったのじゃ。決して死ぬな、主様」


「当り前だぜ」


 “月光”の少女と東雲がそう言葉を交わし、サンドストーム・タクティカルの偵察戦闘車に向けて突撃する。


 偵察戦闘車が重武装である理由は装甲技術の向上とアーマードスーツなどの新兵器の出現によって脅威弩の高い対装甲戦闘の機会が増大したからだ。


 だが、あくまで偵察のための戦闘装甲車両AFVであり、対戦車戦闘も考慮するという程度。そもそもこの主砲では第六世代の主力戦車の撃破は不可能だ。


 そうであっても生身である東雲にとっては恐ろしい脅威である。


「そらそら! 撃ってこいよ、戦車もどき!」


 東雲が敵を挑発しながら偵察戦闘車の狙いを引き付けた。


 偵察戦闘車の主砲が東雲を狙って砲撃を行う。東雲が“月光”でそれを迎撃しながら距離を維持しつつ、自分を狙わせる。偵察戦闘車に搭載されたセンサーが捉えられるのは東雲だけであり、“月光”の少女はノーマークだ。


「よそ見してると痛い目に遭うぞ!」


 東雲を狙う偵察戦闘車の砲塔を“月光”の少女から背後から襲撃。砲塔に“月光”の刃を突き立て、制御系を破壊すると同時に自動装填装置が装填中だった砲弾が暴発。砲塔が吹き飛び、車体から炎が上がった。


「よし! 撃破だ! 残りは生体機械化兵マシナリー・ソルジャーどもだ!」


「いくぞ、主様!」


 厄介な装甲車両が片付いたら次は電磁ライフルで武装した生体機械化兵マシナリー・ソルジャーたちの相手だ。


「ここが俺たちの死に場所だ。退くな!」


「自分のために死ぬな。戦友たちのために死ね」


 元イスラエル国防軍IDFローエー旅団の兵士たちが東雲たちに襲い掛かる。


 電磁ライフルが電気の弾ける音を立てて口径25ミリの高性能ライフル弾を叩き込み、東雲が“月光”を高速回転させてそれを弾き飛ばす。だが、いくつかの銃弾は東雲の肉をえぐり、血を失わせた。


「畜生。生身の相手にぶっぱなつものじゃない代物をバカスカ撃ちやがって。くたばりやがれ、ブリキ缶野郎ども!」


 東雲が一気にサンドストーム・タクティカルの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーに肉薄すると“月光”の刃で装甲化された機械化ボディを貫き、それによって殺害した。


「サイバーサムライめ! 死ね!」


「てめえが死んでろ!」


 東雲に近接されたことで電磁ライフルを捨てて、2本の超高周波振動ナイフを構えたサンドストーム・タクティカルのコントラクターに東雲が切りかかる。


「我々には義務がある! 贖罪の義務があるのだ!」


「知るかよ! 勝手にあちこち核爆弾で吹き飛ばす前に考えやがれってんだ!」


 サンドストーム・タクティカルのコントラクターがナイフで“月光”を防ぎ、攻撃を弾いて東雲の肉体にその刃を突き立てる。肉が裂け、血が流れ、痛みが走るが東雲は止まることはない。


「主様! 助けるぞ!」


 東雲とサンドストーム・タクティカルの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが“月光”と超高周波振動ナイフで戦う中、その背後から“月光”の少女が生体機械化兵マシナリー・ソルジャーを襲った。


「ぐうっ!」


 “月光”の刃がサンドストーム・タクティカルのコントラクターの機械化ボディを貫き、排熱機構を破壊した。装甲化され、強力な出力を出す機械化ボディの放熱が制御されずに蓄積し、熱が溜まり続ける。


「自分の……ために、死ぬな! 戦友のために、死ね!」


「こいつ、自爆する気かよ、クソッタレが!」


 “月光”の少女によって刃で貫かれた生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが東雲に向けて突撃してくる。東雲はさらに“月光”の刃を突き立て、さらに向かって来るコントラクターの体を蹴り飛ばした。


 熱暴走で生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが爆発。人工筋肉と装甲、そしてタングステン製の骨格が周囲に激しく撒き散らされる。


「クソ。血が足りなくなって来やがった」


 破片は東雲の肉体をえぐり、“月光”の少女を維持することで血を消耗している東雲にさらなる負担を強いる。


「さっさと片付けないとな。残りを仕留めるぞ、“月光”!」


「任せるのじゃ! やり抜くぞ、主様!」


 東雲と“月光”の少女が残る敵に突っ込む。


「退くな! 戦い続けろ! 死ぬまで戦え!」


「我々の義務を果たせ!」


 サンドストーム・タクティカルのコントラクターたちは狂気じみた戦意で東雲たちに食い下がる。軍用四輪駆動車の無人銃座RWSの重機関銃に援護されつつ、東雲と“月光”の少女に銃弾を浴びせ続けた。


「止まらないぞ!? 化け物どもめ!」


「ここは“ネクストワールド”の影響下だ! 事象改変を使用しろ!」


「了解!」


 そこでサンドストーム・タクティカルのコントラクターたちが装備しているワイヤレスサイバーデッキでプログラムを起動した。


 突撃してきた東雲たちの刃が見えない壁に阻まれ、弾かれてしまう。


「また障壁使いやがったな。そいつは対策できるって知らないみたいだな、ええ?」


「やるぞ、主様。障壁砕きペンタクルブレーカー!」


 東雲と“月光”の少女が刃に障壁砕きペンタクルブレーカーを付与する。


「やってやるぜ!」


 東雲が再度サンドストーム・タクティカルのコントラクターに襲い掛かり、彼らが展開した障壁を砕き、その首を刎ね飛ばした。


「なっ! 障壁が無力化されただと!」


「魔術の素人じゃな! 障壁が脆いぞ!」


 驚くサンドストーム・タクティカルのコントラクターを“月光”の少女も切り倒し、殺害する。また生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが熱暴走を起こして爆発しては、破片と肉片を周囲に撒き散らす。


「このまま畳むぞ!」


「了解じゃ!」


 東雲と“月光”の少女は元異世界の勇者と現役の吸血鬼の王に伝わる魔剣の化身としての戦闘力を発揮し、サンドストーム・タクティカルの哨戒部隊を鏖殺した。


「クリアだ」


「主様、酷い顔色だぞ! 大丈夫なのか……」


「大丈夫だ。こいつがある」


 “月光”の少女が心配するのに東雲が救急用造血剤を口に放り込んだ。


『東雲。君を追跡中だった哨戒部隊のC4Iを雪風がハックして攪乱した。君にそれ以上追手は来ないと思うよ。それから哨戒部隊の軍用四輪駆動車は使えるから、それを運転してきて合流しよう。足がいるよ』


「あいよ」


 ベリアからの連絡に東雲がサンドストーム・タクティカルの哨戒部隊が残した軍用四輪駆動車の運転席に乗り込み、“月光”の少女が助手席に乗り込んだ。


「さてと。ベリアと合流しないとな」


 東雲が運転し、軍用四輪駆動車が走り始める。


「主様。我はもう戻った方がいいのではないか?」


「いや。今ひとりになると危ないから一緒にいてくれ。それに今の“月光”が傍にいると美人だから士気が上がる」


「全く、主様は。おだてても何もないぞ?」


「本心さ。その成長した“月光”は俺の好みだ」


 “月光”の少女が悪戯気に笑うのに東雲も笑ってそう返した。


 軍用四輪駆動車はフナフティ・オーシャン・ベース上を進んでいく。元々が航空機の試験施設なだけあって広大だ。とにかく人工的に作られた陸地が広がっている。


「東雲! こっち、こっち!」


「ベリア! お前に会えて本当に嬉しいと思ったよ」


 暫く進んだ東雲たちの前でベリアが現れ、軍用四輪駆動車に向けて大きく手を振って知らせた。


「状況を教えてくれ。こっちはさっぱりだ」


「オーケー。まだ財団ファウンデーションは上陸してない。敵防空網破壊DEAD任務と地対艦ミサイルSSMの撃破、そして対潜作戦ASWをやってる」


「サンドストーム・タクティカルは?」


財団ファウンデーション艦隊を相手に暴れまわってる。地対艦ミサイルSSMの釣る瓶打ちとMANPADSや機関砲での航空機の迎撃。けど、もうかなり押されてる。上陸部隊を迎撃する準備を始めてるよ」


「やべえな。大乱戦になっちまうぞ」


 ベリアの報告に東雲が呻く。


「今は私たちは全員で合流するのが先決。それから財団ファウンデーションの上陸が始まる前にASAの研究施設に突入ブリーチ。そこにあるサーバーに直接接続ハード・ワイヤードを行う」


「そうだな。王蘭玲先生や八重野たちとも合流しないと。行こうぜ」


「オーキードーキー。行くよ、呉!」


 ベリアが言い、待機していた呉が現れる。


「東雲。また美人さんを連れてるな? 浮気か?」


「こいつは相棒。恋人じゃないの。でも、美人だろ?」


 呉がからかうのに東雲がにやりと笑って返した。


「そこ! 遊んでないでさっさと行くよ。乗って!」


「はいはい」


 ベリアが軍用四輪駆動車の運転席に座って怒鳴るのに東雲たちが乗り込む。


「まだ財団ファウンデーションは防空コンプレックスと地対艦ミサイルSSMを優先して爆撃してる。だけど、それが終わったら装甲車や無人戦車の類まで爆撃対象になる。つまり、この軍用四輪駆動車も爆撃されるってこと」


「おいおい。勘弁してくれよ。流石の俺たちも爆撃されたら敵わんぜ」


「だから、その前に合流して、ASAの研究施設に向かう。時間との勝負だよ」


「あいよ。やってやりましょう」


 ベリアがアクセル全開で軍用四輪駆動車を飛ばし、東雲は助手席で外を見張り、呉は軍用四輪駆動車の無人銃座RWSを制御する端末を操作していた。


「まず近いのは猫耳先生と暁、ロスヴィータがいる場所」


「八重野とセイレムは大丈夫なのか?」


「待って。いや、大丈夫じゃなさそう。ふたりしてサンドストーム・タクティカルの大部隊を相手にドンパチやってる。凄いことになってるよ」


「やべえぞ。八重野はともかくとしてセイレムは」


「分かってる。けど、近いのはロスヴィータたちだからそっちに行くよ。装備も回収しなくちゃいけないし」


 ベリアは軍用四輪駆動車を全速力で飛ばし続けた。


「上空に無人戦闘機だ」


財団ファウンデーションだね。これまではスタンドオフミサイルで攻撃してたけど、ついに爆弾を落としに来たか。防空コンプレックスが制圧されるのは時間の問題だ。急がないと」


 上空を無人戦闘機が飛び去るとそれを追いかけるように地対空ミサイルSAM対空火器AAAの曳光弾が飛び、無人戦闘機が火を噴いて墜落していった。


「サンドストーム・タクティカルは俺たちに気づいてはいるけど、追いかけちゃいないんだよな? なんか戦車もどきを相手にしたけど、あれはやばいぜ。戦車と同じような主砲がついてる。こんな車ふっ飛ばされる」


「大丈夫。雪風が攪乱し続けてる。サンドストーム・タクティカルの私たちに関する情報はリアルタイムで改竄され、正しい情報が伝わっていない」


「雪風様様だぜ」


 東雲たちは爆発音とエンジン音がひっきりなしに響くフナフティ・オーシャン・ベースを駆け抜け、航空機の性能を地上で評価する巨大な風洞実験施設がある方向に向けて進んだ。そこにはサンドストーム・タクティカルもいない。


「そろそろのはずだけどな。ロスヴィータ? そっちにサンドストーム・タクティカルの軍用四輪駆動車で向かってるけど、こっちは見える?」


 ベリアがマトリクスからロスヴィータに呼びかけた。


『見えた。こっちから合図を送る。AR上に表示してるから気を付けて見て』


「分かった。確認する」


 ロスヴィータからの連絡にベリアがワイヤレスサイバーデッキによって表示されるAR空間の情報を見ながら軍用四輪駆動車を走らせる。


「あそこだ。行くよ!」


 ベリアがARで示されたロスヴィータたちの位置を確認して向かった。


「ロスヴィータ!」


「ベリア! 東雲たちも! 大丈夫だった?」


 ロスヴィータたちは王蘭玲がワイヤレスサイバーデッキでマトリクスに潜っており、暁が口径40ミリ電磁ライフルで周囲を警戒していた。暁に預けておいた装備も無事だ。


「全然大丈夫じゃないよ。サンドストーム・タクティカルの戦車もどきには追いかけられるしさ。さっさと行こうぜ?」


「待って。猫耳先生がASAの構造物内に入ったんだ」


「なんだって?」」


 ロスヴィータが言うのに東雲が目を見開いた。


「本当なの? ASAの構造物ってここにあるサーバーの?」


「そう。猫耳先生がASAの高度軍用グレードのアイスを砕いた。今、ASAの研究施設の構造物に仕掛けランをやってるよ」


「成功の要因は何? ASAの構造物はほとん攻略するのは不可能なはずだったのに」


「回線。猫耳先生はサンドストーム・タクティカルの使ってる軍用通信衛星をまずは落として、そこからASAの回線に侵入。そして、正規のアクセス権限を偽装して内部に侵入し、雪風とアイスを砕いた」


 ベリアの問いにロスヴィータが答えた。


「凄いな。信じられない。でも、猫耳先生の正体を考えれば納得かも」


「雪風の生みの親だもんね。それで作戦は?」


「変更なし。財団ファウンデーションが上陸する前にASAの研究施設に突入ブリーチする。そして、直接接続ハード・ワイヤードを実行」


「オーケー。やろう」


 ベリアの言葉にロスヴィータが頷いた。


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