ミリシア//不正規作戦

……………………


 ──ミリシア//不正規作戦



 東雲が機関銃陣地に飛び込み“月光”が乱舞する。


 鮮血が飛び散り、硝煙の臭いの中に血の臭いが混じった。


「制圧! だが、まだまだ大混乱だな、これは」


 東雲が燃え上がる建物と走り回るテクニカル、銃撃戦を繰り広げる民兵ミリシアとフラッグ・セキュリティ・サービスのコントラクターたちを見て唸る。


「東雲。急いで。このままだと焦った“アメリカン・フロント”のハッカーが仕掛けランを実行するかもしれないから」


「はいはい。急ぎましょう」


 セイレムの代わりに東雲が先頭に立ち、アルバカーキの街を進む。


「ぶち殺せ! 六大多国籍企業ヘックスのクソ野郎どもだ! 連邦政府にやとわれてやがるぞ!」


「スペード・ゼロ・ワンより本部HQ! あらゆる場所に武装した民兵ミリシアがいる! 現有戦力では鎮圧は困難だ!」


 州軍から横流しされた迷彩服とタクティカルベストを身に着けた民兵ミリシア強化外骨格エグゾと大口径自動小銃で武装したフラッグ・セキュリティ・サービスのコントラクターたちが撃ち合っている。


「不味い。ドローンに捕捉された。追跡されてる」


「マジかよ。でも、どうしてだ?」


「私たちのIDがこの場所に相応しくないからだよ。不審者検出プログラムに引っかかったみたい。すぐには攻撃されないと思うけど、あまりよくない兆候」


 ベリアがフラッグ・セキュリティ・サービスの通信を傍受して報告した。


「そりゃそうだな。準六大多国籍企業ヘックスのビジネスマンが刀振り回して、民兵ミリシア相手にしてたら怪しまれる」


「場違いそのものだな。けど、フラッグ・セキュリティ・サービスに追いかけ回されるのはごめん被るぜ」


 呉が言うのに東雲がうんざりした様子でそう言う。


「なら、急ぐしかないな。フラッグ・セキュリティ・サービスが“アメリカン・フロント”の連中で手一杯のうちにPerseph-Oneを強奪スナッチして、この地獄のような街からずらかる」


「それが一番」


 東雲たちは戦場となりはてたアルバカーキの通りを走る。


 銃声と砲声があちこちから響いてきて、無人攻撃ヘリやティルトローター機のローター音も激しく上空を行きかう。


「!? 気を付けろ! 砲撃だ!」


 八重野が叫び、そして東雲たちの前方に砲弾が着弾した。


 辺りに黒煙が立ち込め、衝撃波が駆け巡る。


「クソ! 撃ってきたのはどっちだ!?」


民兵ミリシアだ! 旧式の迫撃砲にスマート砲弾。限定AIが搭載された砲弾は自動的に熱源を検出して軌道を変えて着弾する」


「無差別攻撃かよ。クソッタレめ」


「砲撃はかなり遠距離から行われている。急いで移動する以外に方法はない」


「ますます急かされるな」


 八重野が言うのに東雲が上空を見張った。


「砲弾で吹き飛ばされて死ぬなんてごめんだ。先に進め、大井の」


「はいはい。言われなくても進みますよ」


 セイレムがそう言って東雲が再びアルバカーキの通りを進む。


 砲弾はあちこちに降り注いでいる。だが、フラッグ・セキュリティ・サービス側は対砲兵レーダーと高出力レーザーによって迫撃砲弾を迎撃している。無関係の一般市民ばかりが被害を受けた。


『ボルチモア・ゼロ・ワンより本部HQ民兵ミリシアの迫撃砲陣地を確認。攻撃を行う』


「無人攻撃ヘリが迫撃砲陣地を爆撃した。これで一安心」


 フラッグ・セキュリティ・サービスの通信を傍受したベリアがそう言った。


「もう少しだよな?」


「もう少しだな。ここら辺は民兵ミリシア民間軍事会社PMSCの連中も少ないようだが、あまり油断はするな」


「分かってるよ」


 呉が忠告するのに東雲が頷き、目標の住所に近づいていく。


 そこで銃声が響いた。


「おい。今の銃声、あの建物からしたよな?」


「ああ。目標の建物だ。だが、撃ったのが誰か分からない」


「ろくでもないことになりそう」


 八重野と東雲がそう言葉を交わし、目標の建物に接近する。


「サプレッサーで抑制された電磁ライフルの音がする。生体機械化兵マシナリー・ソルジャーがいるな」


「はあ。例のフラッグ・セキュリティ・サービスの特殊作戦部隊か?」


「分からない。だが、連中にしては静かすぎる」


 呉がそう言って眼球に収まったセンサーで建物をスキャンする。


「ブービートラップの類はない」


「踏み込むぞ」


 東雲が建物の扉を蹴り破る。


 建物は作業場として使用されているもので、中には機械類が積み上げられていた。


 そこで東雲の脇腹を大口径ライフル弾が貫いていった。


「クソ! 撃ってきたぞ!」


「電磁ライフルだ! 遮蔽物!」


 東雲が身体能力強化で強引に傷を治し、八重野が叫ぶ。


『リッパー・ゼロ・ファイブよりリッパー・ゼロ・ワン。侵入者だ。民兵ミリシアではない。他の六大多国籍企業が送り込んできた作戦要員オペレーターの可能性あり』


『リッパー・ゼロ・ワンよりリッパー・ゼロ・ファイブ。目標パッケージの確保がまだだ。排除せよ』


『リッパー・ゼロ・ファイブからリッパー・ゼロ・ワン。了解した。排除する』


 謎の射撃手と指揮官と思われる人物の通信が流れた。


「ベリア! フラッグ・セキュリティ・サービスの連中じゃないのか!?」


「違う。フラッグ・セキュリティ・サービスの構造物のトラフィックではここにコントラクターはいない。別の民間軍事会社だよ」


「クソ。どこの連中だ? またサンドストーム・タクティカルか?」


「ヒット。不審なトラフィックを検出。これはベータ・セキュリティだ」


 ベリアがアルバカーキのマトリクスで行動中のベータ・セキュリティのコントラクターたちを発見した。


「マジかよ。ベータ・セキュリティ? メティスか?」


「東雲! グレネード弾だ!」


 東雲がベリアに問いかけている横で八重野が叫んだ。


 東雲が瞬時に“月光”を高速回転させるもサーモバリック弾頭のグレネード弾が周囲に強烈な衝撃波を撒き散らした。


「クソ野郎! やりやがったな!」


テュポーンTコンバットCシステムS。ベータ・セキュリティで間違いない。だが、連中は民間人の格好をしてやがる。不正規作戦部隊だな」


「どうでもいい。ぶち殺そうぜ」


「やるか」


 東雲が“月光”を握って言うのに呉が同じく“鮫斬り”を握ってベータ・セキュリティの不正規作戦部隊をみる。


 ベータ・セキュリティの不正規作戦部隊は民兵ミリシアでもないし、民間軍事会社のコントラクターでもない民間人の格好をしていた。それだけに電磁ライフルとタクティカルベストの異様さが目立つ。


 電磁ライフルにはサプレッサーとアドオン式グレネードランチャーだ。


「3カウントで突っ込むぞ」


「3カウント!」


 東雲たちがベータ・セキュリティの不正規作戦部隊が使うサプレッサーによって抑制された電磁ライフルの銃声を聞きながらカウントする。


 3──2──1──。


「今だ!」


 東雲たちが一斉にベータ・セキュリティの不正規作戦部隊に突っ込む。


「リッパー・ゼロ・ファイブから各員。敵はサイバーサムライだ。近づけるな」


「了解」


 電磁ライフルが次々に大口径弾を東雲たちに向けて放ち、空中炸裂型グレネード弾も飛来する。辺りに破壊が撒き散らされる。


「無駄だ」


 一番に敵に飛び込んだのは八重野だった。彼女は全ての銃弾とグレネード弾を躱して、ベータ・セキュリティの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーの懐に飛び込むと超電磁抜刀で首を刎ね飛ばした。


「いいぞ、八重野! この調子でぶちのめす!」


「次はあたしだ!」


 東雲が電磁ライフルの攻撃を防ぐ中、セイレムが前に出る。


 セイレムも一瞬で敵との距離を詰めて超電磁抜刀で生体機械化兵マシナリー・ソルジャーの胴体を真っ二つにした。


「女性陣ばかりに活躍は持っていかせないぞ」


「いこうぜ、呉!」


 そして、呉と東雲が突っ込む。


 電磁ライフルの銃撃か繰り返されつつ、ベータ・セキュリティの不正規作戦部隊が後退して距離を取ろうとする。


「リッパー・ゼロ・ファイブよりリッパー・ゼロ・ワン。敵の脅威が予想以上だ。仕事ビズはまだ終わらないのか?」


『リッパー・ゼロ・ワンよりリッパー・ゼロ・ファイブ。目標パッケージの確保に民兵ミリシアが抵抗している。排除が不可能ならば足止めせよ』


「リッパー・ゼロ・ファイブからリッパー・ゼロ・ワン。了解!」


 東雲たちが進むのを阻むようにベータ・セキュリティの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが一斉に手榴弾を放り投げる。


「見切った!」


 だが、それを東雲が“月光”で全て撃破。空中で暴発した手榴弾が投げたベータ・セキュリティのコントラクターたちを引き裂く。


「おい! 大井の! あたしまで巻き込まれるだろ!」


「そうだぞ、東雲! 私たちがいることも考慮しろ!」


 だが、東雲の行為は女性陣には不評だった。


「うるせえな! 手榴弾が爆発しても不味かっただろ! もういい! あんたら文句言うなら俺が先頭を進む!」


 東雲は怒り心頭で前方に出る。


「撃て、撃て。敵がサイバーサムライなら間違って近接戦闘に持ち込まれない限り負けることはない」


「どーだろーなっ!」


 東雲が後退して距離を取ろうとするベータ・セキュリティのコントラクターに向けて“月光”を投射した。“月光”の刃は易々と生体機械化兵マシナリー・ソルジャーの装甲を貫き、撃破する。


「なんだ、このサイバネティックは!?」


「怯むな! 撃ち続けろ!」


 ベータ・セキュリティ側は必死に抵抗したが、東雲はどれだけ大口径弾やグレネード弾を叩き込まれようと死ぬことはなく、攻撃を弾きながらベータ・セキュリティのコントラクターたちを切り倒す。


「ぶっ飛べ!」


 東雲が“月光”の刃を投射し、的確にベータ・セキュリティの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが握っていた電磁ライフルのアドオン式グレネードランチャーを破壊した。


 装填されていたグレネード弾が暴発し、ベータ・セキュリティのコントラクターたちが殺戮の嵐に巻き込まれる。


「クソ! なんてサイバーサムライだ! 足止めもできないぞ!?」


「面で制圧しろ! グレネード弾を一斉発射!」


 流石に訓練された元特殊作戦部隊のオペレーターたちなだけあって反撃は素早かった。東雲に向けて一斉にグレネード弾が叩き込まれ、爆風が吹き荒れる。


「やったか……」


 爆発で生じた黒煙の中でベータ・セキュリティのコントラクターたちが生体電気センサーで東雲を捉えようとした。


「残念! それぐらいじゃ死なねえぞ!」


 だが、東雲はグレネード弾の嵐の中を突き抜け一気にベータ・セキュリティ側に肉薄し、“月光”を振るった。


 ナノマシンの混ざった液体が飛び散り、生体機械化兵マシナリー・ソルジャーたちが八つ裂きにされて行く。


「殲滅完了! 突破したぞ!」


「よーし。東雲、まだアルバカーキのトラフィックを監視している範囲ではハッカーが仕掛けランをやった様子はない。まだ間に合うよ!」


「オーケー! このまま進むぞ! 続け!」


 ベリアが叫び、東雲が民兵ミリシアの偽装拠点である作業場内を駆ける。


『リッパー・ゼロ・ワンより全部隊。時間切れだ。これより撤収する。指定された地点まで移動せよ』


 そこでベータ・セキュリティの通信が流れた。


「アルバカーキを映している偵察衛星の映像にティルトローター機を捉えた。この建物の近くに着陸しようとしてる。ベータ・セキュリティと関係あるかもしれない」


「増援?」


「違うと思う。増援を送り込むならダイレクトにこの建物の上空から降下するはずだから。撤収しているのかも」


「そいつはいいニュース」


「悪いニュースもあるよ。フラッグ・セキュリティ・サービスの特殊作戦部隊と緊急即応部隊QRFが動いてる。こっちをしきりにドローンで監視しながら」


「最悪」


 ベリアが知らせるのに東雲がげっそりした。


「だが、今回ばかりは仕事ビズを失敗できない。しくじったら使い捨てディスポーザブルにされても文句はいえん。何としてもPerseph-Oneを強奪スナッチするぞ」


 東雲はそう言って作業場を探索する。


……………………

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