コンフリクト//混成チーム

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 ──コンフリクト//混成チーム



 ジェーン・ドウが去り、東雲、八重野、呉、セイレムが残った。


「積もる話もあるが、今は仕事ビズだ。俺たちはハッカーの攻撃阻止と核攻撃の阻止を同時に行わなければならない。マトリクス上でベリアたちがハッキングを阻止するとしても、ハッカーを追いかけなければならないだろう」


「ハッカーはTMCセクター13/6にいるのか?」


「恐らくは。少なくともセクター一桁代にはいない。チャイニーズマフィアのフロント企業がセクター13/6に高価なサイバーデッキを運び、それを盗もうとしたチンピラが斬り殺されている」


「ふうむ。そいつはサイバーサムライの臭いがするな」


 東雲が説明し、呉が頷く。


「ハッカーの方は物理フィジカル制圧サプレッションしなくとも、マトリクス上でどうにかできる。問題は核爆弾だ」


「ああ。そいつについては追跡している。TMC内の放射線モニターが放射線を観測した。ベリアたちがマトリクスから放射線モニターを見ている」


「ふむ。随分とポンコツの核兵器を持ち込んだんだな。それで、どこで炸裂させるか分かるのか?」


「追跡中だとメッセージが来た」


 セイレムが尋ねると東雲がそう返す。


 ARにベリアから『現在、放射線モニターから追跡中』とのメッセージが来ていた。


「ハッカーがその放射線モニターをハックしないとは限らないな」


「そうか。それが目的かもしれないな」


 呉の指摘に東雲が頷いた。


「どうにもハッカーと核爆弾を同時に追わないといけないようだな。チームを分けるか? あたしは誰と組んでもいいぞ」


「そうだな。このセクター13/6ゴミ溜めは俺が詳しい。俺はここでハッカーを追おう。敵のサイバーサムライがハッカーの護衛についていることも考えて、もうひとりハッカーを追うのについて来てほしい」


「あたしが同行しよう。呉とあたしを組ませるのはちょいと不安だろう」


「信頼しちゃいるがね」


 確かに呉とセイレムはあくまでHOWTechからの増援だ。


「じゃあ、俺はそこのお嬢ちゃんと組んで、核爆弾を探そう」


「お嬢ちゃんではない。立派な成人であり、サイバーサムライだ」


「すまん、すまん。よろしく頼むぜ」


 呉はそう言って、八重野と組むことにした。


「八重野。ベリアに核爆弾の情報をそっちに送るようにメッセージを送っておいた。放射線モニターから推測される核爆弾の位置が送られる。そいつを追いかけてくれ」


「分かった。任せてくれ」


 東雲はベリアに八重野に放射線モニターによる追跡情報を送るようにメッセージを送って、ベリアから了解の返事が来た。


「それでは始めようか。核爆弾、ちゃんと確保してくれよ」


「ああ。やってやろう」


 東雲たちが動き出す。


 東雲とセイレムはそのままセクター13/6での捜索を始める。


「当ては?」


「相手が仕掛けランをやってないと具体的な位置は分からない。チャイニーズマフィアも位置を知らないし、恐らくはヤクザやコリアンギャングも分かってない。情報屋を頼っても仕方ないだろう」


 連中も情報を手に入れるには犯罪組織を頼っているんだと東雲は言う。


「となると、マトリクスを見張る奴が必要だな」


「ロスヴィータが捜索している。あんたたちが殺そうとしたエルフのハッカーだ。今のところ、TMCのマトリクスに異常なトラフィックはないらしい」


「ふむ。あたしも念のために潜ってみる。これでも一応サイバーサムライなんでね」


「頼む」


 セイレムの申し出に、呉がそう返した。


「じゃあ」


 セイレムはバックパックからハイエンドワイヤレスサイバーデッキを取り出し、マトリクスにダイブする。


「ふむ。確かにトラフィックに異常はないな。妙な構造物もない。仕掛けランをやるとしたら大井関係の構造物だろうが、静かなものだ」


「だとしたら、何も掴めないな」


「わざわざサイバーデッキを持ち込んだんだ。何かしら反応はあるだろう。だが、それと同時に現実リアルでも目標を追いかけなければならんな」


「そうか。だとすると、ちょいとばかり情報屋を当たろうかね。あまり有意義な情報はないだろうが、何もないよりもマシだ」


「了解」


 東雲はセクター13/6を繁華街の向けて進む。


「あまり頼りにはならないが、手広く情報を扱っている人間がいる。ヤクザ、チャイニーズマフィア、コリアンギャングにも通じている」


「だが、信頼できないと」


「渡してくる情報に正確さが欠けている。ゴシップやデマの類にも値段をつける人間だ。さも事実のように扱ってな。だから、用心しておかなきゃならん」


 東雲はそう言ってセクター13/6ゴミ溜めにある雑居ビルを訪れた。


 雑居ビルの階段を上り、看板には雀荘とある部屋の扉を開く。


「いらっしゃいませ、お客様。会員様ですか?」


「いいや。だが、ここにいる人間に用事がある」


「どなたですか?」


「土井誠。東雲が来たと伝えてくれ」


「畏まりました」


 接客用ボットが東雲に応じる。


「ここは違法賭博か?」


「ああ。チャイニーズマフィアが運営している。このセクター13/6にはこういう場所が腐るほどある。インチキは平気でやるし、レートもおかしい。そして、犯罪組織の金貸しやがセットだ」


 セイレムがトランプを並べたり、麻雀をしている客たちと、それを見ているスーツ姿の男たちを見て尋ねるのに、東雲がそう返す。


「お待たせしました。どうぞ、東雲様」


「あいよ」


 接客ボットの案内で薄暗い室内を進む。


「やあ、東雲さん。どうだいひとつ勝負をしていかないか?」


「やめておく。言っておくが、俺がお前のイカサマをチャイニーズマフィアにチクってないのはお前のことが好きなんじゃなくて、使える人間だからだぞ」


「そいつは泣けるほど嬉しいね」


 土井は30代前半ごろのアジア系の男で、店で出される酒──ということになっている化学物質──を片手にブラックジャックのテーブルにいた。


「話がある。仕事ビズだ。来い。どうせまた金欠だろ?」


「東雲さんは上客だよ。いつでも歓迎する」


 土井はそう言って場所をバーカウンターになっている場所に移す。


「最近、チャイニーズマフィアがサイバーデッキを運んだだろう。そして、チンピラがそれを襲った。で、返り討ちにった。サイバーサムライらしき連中によってな」


「知ってるよ。そこから先の情報はあるかってことかい?」


「ああ。サイバーデッキの最終的な目的地が知りたい。サイバーデッキはどこに運ばれたか分かるか?」


 東雲が土井に尋ねる。


「いくら出す?」


「基本5000新円。いい情報だったら追加で3000新円」


「あいよ。情報はあるよ。最後に問題のサイバーデッキを運んだのは、ヤクザのフロント企業さ。そいつらがサイバーデッキを運んだ。廃棄物処理場にね」


「おい。ヤクザが運ぶだけ運んで捨てたってのか?」


「違う、違う。配送先がそうなっていただけだ。捨てたわけじゃないよ。東雲さんもこのセクター13/6で人を避け、煩い広告から逃れ、静かに過ごしたいと思ったら廃棄物処理場が一番だと分かるだろう」


「ああ。そういうことか。廃棄物処理場をねぐらにしている連中がいるってことだな。だが、あそこがどれほど汚染されているかも知っているだろう。セクター13/6の破棄物処理場はTMC全体のゴミ溜めだ」


「イエス。神経毒から、人食い連鎖球菌まで選り取り見取りだよ。長居はできない。だからこそ、ヤクザにサイバーデッキを運ばせた連中がTMCの外のお客様だと分かる」


「ふうむ。どうやら案外外れでもなさそうだな。廃棄物処理場ってのは、一番デカい奴で間違いないな?」


「ああ。TMC自治政府が大井環境システムズに委任している廃棄物処理場だ。あんな場所でもワイヤレスBCI接続できるんだよ」


 大井はTMCのゴミ処理施設も運営していた。


「いい情報だな。8000新円ものだ。端末を出せ」


「ありがたいね」


 東雲は土井の端末に8000新円を移した。


「他に何か情報はないか。サイバーデッキに関わった連中の情報ならなんでもいい」


「そうだね。ヤクザの下っ端が言うには、サイバーデッキを運ばせた連中は妙に金払いがよかったらしい。恐らくはプロだね。プロのサイバーサムライ。こいつはヤバイ相手だと思うよ」


「ああ。いい知らせだ。ありがとよ」


 東雲はそう言って部屋から出ていった。


「どうやらクソみたいな場所に、クソみたいな連中がいるらしい」


「あたしたち向けの相手だ。サイバーサムライと気取ったところで、六大多国籍企業ヘックスのゴミ処理係りだ」


 セイレムがそう言って肩をすくめる。


「じゃあ、行きますか。廃棄物処理場までは距離がある。ベリアに足を用意してもらおう。外れの可能性がないわけでもないしな」


 当たってくれていることを祈るがと東雲は言った。


 場がフリップする。


「今のところ、予定通りだ」


 車のハンドルを握っている縮れた黒髪という様相のラテン系の男がそう言う。


「ふむ。ネロはまだ仕事ビズを始めていないだろう、アウグストゥス?」


「まだな、ティベリウス。同時進行だ。この危険な奴をセットしたら、ネロも仕掛けランを行う。大井の対応能力を飽和させなきゃならん」


 アフリカ系のスキンヘッドの大男──ティベリウスと呼ばれた男が尋ねるのに、アウグストゥスと呼ばれた男が返す。


 ふたりとも腰に刀を下げている。


「俺たちはやれと言われた仕事は確実にこなす。TMCをこいつで吹っ飛ばしたら、次は逃げなきゃならん。脱出経路は犯罪組織には頼らない。大井が懸賞金を俺たちにかけるはずだ。犯罪組織に頼れば、売られる可能性がある」


「だな。上手く立ち回る必要があるぞ。TMCは大井の縄張りだ」


「全く、どうにも危険な仕事ビズが回されたな。カリグラも今回はTMCに侵入できなかった。あいつはTMCで前科がある」


 アウグストゥスが運転する軍用四輪駆動車の後部座席をティベリウスが見る。


 後部座席にはスーツケースが置かれていた。やや大きく、とても頑丈で、電子キーのつけられたものだ。


「大井統合安全保障は本当にこいつに気づいていないのか。連中だってH脅威R目標T捜索S追跡T確認C作戦を行っているだろう」


「気づいてはいるだろう。だが、どこをふっ飛ばすかは分かっていないはずだ」


「いつまで気づかないと思う……」


「最悪を想定するならば、設置前にバレる。緊急即応部隊QRFが待ち伏せていてもおかしくはない」


「大井統合安全保障は立派な民間軍事会社PMSCだ。警察じゃない。軍隊だ。装備も、人員も軍のそれ。まともに相手にすると時間を食うぞ」


「そこは急ぐしかない。この手の仕事ビズは常に時間との勝負だ。こうやって急かされるのもスリルがあって悪くはないだろう」


 ティベリウスが指摘するのにアウグストゥスがにやりと不敵な笑みを浮かべて返す。


「それもそうだ。俺たちはいつも死に急いでいる。墓場こそが俺たちの帰る場所だ」


「ああ。つまらなくて長い人生より、刺激的で短い人生だ。それこそが生きる価値のある人生ってものだ」


 ティベリウスが呆れたようにそう言うのに、アウグストゥスは車を走らせながらそう言った。


「さて、間もなくパーティー会場だ。きのこ雲は近くでは見たくないね」


「同感だ。死ぬなら敵のサイバーサムライと戦って死にたい」


 アウグストゥスたちの向かっている先は──。


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