白鯨//半生体兵器戦
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──白鯨//半生体兵器戦
ベリアたちが戦っている間にも東雲たちは新しい戦局に突入していた。
メティスの研究区画にて半生体兵器と交戦していたのだ。
メティス・バイオテクノロジー製半生体兵器は自らを複製するものとしてメティスの研究施設にあった大量の有機物質を摂取し、膨大な数になって押し寄せてくる。
メティスの研究室から無数の半生体兵器が湧きだし、緑生い茂る和やかな休憩エリアに向かってきた。
そこに東雲たちがいる。
「クソッタレ! こいつら、斬っても再生しやがるぞ!」
「第二世代の半生体兵器だ! 自分の体内のリソースを修復に回すこともできる!」
東雲が半生体兵器を切り刻んでも手ごたえがないことに愚痴るのに、呉がそう情報を寄越してくる。
「じゃあ、どうやって倒すんだよ!」
「メモリーがある! 自分の体の構造を記憶しているメモリーだ! そいつを潰せば、もう再生できなくなる!」
「あいよ!」
呉からメティス・バイオテクノロジー製の半生体兵器の情報が送られてくるのに、東雲がその情報に従って半生体兵器のメモリーを狙う。
「そらよっと。メモリー撃破!」
メモリーを撃破された個体が回復せず、そのまま機能を停止して無害化される──そのはずであった。
「なっ。こいつら、死んだ仲間も死体を食ってやがるぞ!」
「同じものでできているからな! 食えるものは食うさ!」
そして、ガトリングガンによる掃射が行われる。
「ちっくしょう! いつも数で不利だな!」
「そういうものだ。俺たちの
「嫌になるぜ」
研究室に繋がる唯一の通路は半生体兵器で一杯。通れそうにもない。そして、半生体兵器の死体は別の半生体兵器によって利用される。
東雲たちは徐々に押されて行き、高火力の武器を有するマスターキーやニトロがなんとか完全な撤退を阻止していた。
「や、やばいっすよ! このままだと押し切られるっす!」
「確かに弾薬の残量も残り少ない」
剣と刀で戦う東雲、呉、セイレムと違ってニトロたちには残弾数を気にする必要があるわけであった。
「おい。ニトロ! こいつを使えるか!」
そう言って呉が背負っていたリュックサックをニトロに放り投げる。
「規格は同じグレネード弾っすけど。なんっすか、これ?」
「空中炸裂型グレネード弾。ジェーン・ドウが言うには、半生体兵器の機能を停止させる効果があるとかなんとか」
「あやふやっすね。とりあえず、使ってみるっす」
グレネード弾をオートマチックグレネードランチャーに装填し、ニトロが半生体兵器に向けて叩き込む。
グレネード弾は半生体兵器の熱源を的確に捉え、限定AIがセンサーで全体を俯瞰し、もっとも効果の及ぼせる場所で炸裂した。
小さな鉄球──いやカプセルがばら撒かれ、半生体兵器にめり込む。
「溶け始めた……」
「マジかよ。すげえな、おい」
呉が唖然とするのに、東雲がそう言う。
ニトロのグレネード弾を食らった半生体兵器は自身を維持するための酵素が不可逆的に阻害され、行動不能になり、さらには自らの肉体を維持することも不可能になる。
「どんどん撃てよ! 蹴散らしちまえ!」
「それが悪いニュースなんっすけど、残り11発しかないっす」
「おいおい。どう考えても足りないぞ」
最初の一撃で撃破できた半生体兵器の数は6体。そして、敵は100体以上いる。
「だが、こいつが生化学的な効果を及ぼす兵器ならば、こいつを食らってくたばった半生体兵器の死体は再利用できないはずだ。利用すれば連鎖的にくたばっていく」
「そいつはいいニュースだ。奴らが連鎖的に崩れるまで耐え抜きましょうか」
事実、あのグレネード弾の子弾に含まれていたナノマシンは半生体兵器の中で増殖し、次に半生体兵器が利用しようとすれば、取り込んだ段階で効果を及ぼすようになっていた。故に半生体兵器は連続して溶解していく。
東雲たちは半生体兵器が死体を取り込むために敵を攻撃し、敵がニトロのグレネード弾で死亡した半生体兵器の死体を寄り込むよういに促す。
半生体兵器は負傷による回復のためのリソースを得るべく、仲間の死体を分解し、取り込む。そして、ナノマシンに感染して、溶解する。その連鎖が次々に続いていく。
『東雲! そっちはどう!?』
「半生体兵器を蹴散らしているところだ。上手くいくかもしれん」
『メティスの研究室にオリバー・オールドリッジがいる。彼を確保して。そして、白鯨を消し去るための方法を聞き出して。今の状況じゃこっちも白鯨を倒せないから!』
「オーケー。やってやりましょう」
メティスの研究室まではまだまだ距離があり、半生体兵器は自滅しても、次から次に研究室から湧き出してはグレネード弾やガトリングガンで攻撃してくる。
「呉、セイレム! 俺たちで道を切り開くぞ! メティスの研究室に白鯨を作った男がいる! そいつを確保して、白鯨の削除方法を聞き出す!」
「了解。任せとけ」
呉とセイレムが頷き、彼らがメティスの半生体兵器を相手にする。
メティスの研究室に通じる通路から湧き出し、次々に攻撃を行う半生体兵器。
東雲は“月光”で銃弾を弾いて呉とセイレムを援護し、呉とセイレムは超電磁抜刀を含めて半生体兵器に斬りかかる。
激戦が繰り広げられる。
傷を負ったり、弾丸が尽きた半生体兵器は死んだ仲間の死体を取り込み、そして自滅する。限定AIで操作されているせいか、学習する様子は見られない。
「この調子ならいけるな」
東雲がそう思ったときだった。
半生体兵器が仲間の死体を取り込むのを止めた。
そこでARの表示にノイズが走り、黒髪白眼の少女──白鯨が姿を見せる。
「同じ手は、何度もは受けぬぞ。限定AIを、アップデートした。これからは、そう簡単に行くと思うな」
「ちっ。面倒なことを。だが、お前の飼い主まではもう少しだぜ? ビビってるんだろう。俺たちが迫っているのに。だから、こうしてここに現れた。お前は神様にしてはビビりすぎなんだよ」
「黙れ。お前たちなど、恐れるに値しない。私は、マトリクスの支配者だ。今の世界において、マトリクスの支配者こそが、世界の支配者」
「じゃあ、何だってわざわざ出てきてるんだよ。俺たちが怖いんだろう。今からお前の飼い主をとっちめて、お前を削除する方法って奴を吐かせてやる。覚悟してろ」
「お父様に、手を出してみろ。死ぬよりも、恐ろしい苦痛を、与えてやる」
「やれるもんならやってみな!」
東雲は白鯨に向けてそう言うと、“月光”を高速回転させて半生体兵器を切り刻む。
半生体兵器は死体からリソースを回復させようとはせず、共食いをしてリソースを回復させる。
そう、共食いだ。破損して動けなくなった個体を分解して取り込む。まだ生きており、ニトロの空中炸裂型グレネード弾からナノマシンを浴びていない個体を食った。
「機械ながらなかなかおぞましいことをしやがって」
機械という名の肉の塊。群れが負傷した個体をバラバラにして吸収していく様は、ただただ怖気しかなかった。
「だが、奴らのリソースは有限だ。この調子でいくぞ」
「おうよ!」
仲間を捕食した個体に東雲たちが斬りかかる。
バチンと電磁装甲が作動するも“月光”の刃は止められない。
「おらあ!」
東雲はメモリーを破壊する。
メモリー以外の場所を破壊すると蓄えたリソースで修復されるのだ。
リソースは蓄えられる。あらゆる形で。弾丸にしろ、装甲にしろ、人工筋にしろ、余剰になったリソースはそういう場所で蓄えられ、損傷を修復するのに使われる。
「メモリーだ。メモリー以外は無駄だぞ」
「分かってるさ。何度も血を流さない野郎に再生されても血が足りん」
東雲はそう言って“月光”を高速回転させて銃弾を防ぎつつ、造血剤をやけくそ気味に五錠口に放り込む。
「さあ、一気に片付けるぜ! ニトロ! あと何発残ってる!?」
「3発っす!」
「残らず叩き込め!」
「あいよっす!」
ダッシュKがガトリングガンを掃射して援護する中、ニトロが前に出てオートマチックグレネードランチャーから空中炸裂型グレネード弾を叩き込む。
空中炸裂型グレネード弾は炸裂し、効果を及ぼす。
そのはずだった。
「効いてないぞ……」
「畜生。まさかリアルタイムで体内の組成を組み替えたのか」
そう、白鯨は半生体兵器の組成をリアルタイムで組み替えた。半生体兵器にはこのような状況に備えて、ゲノム組み換え機構を有している。
それはやはりナノマシンであり、人間と同じように新陳代謝する半生体兵器はその過程で新しいDNAにコードされたタンパク質を生み出し、それで肉体を構築する。
人間などの生き物にあっても、半生体兵器にはないある種のシステムがそれを可能にする。
「こいつらに免疫系はない。体内の物質が突如として組み変わろうと、まるで気にしない。あるのは物理的な装甲とマトリクスのための
「とことん白鯨に似てやがるな。死体を食って育ち、自在に体を組み替える。学習して対抗手段を講じる。こいつ。白鯨が作ったんじゃないか……」
「案外そうかもな」
親が親なら子も子だと呉は言う。
「とにかく火力を叩き込んで、押し通るしかないね。全員、残弾は?」
セイレムが肩をすくめてマスターキーたちにそう尋ねる。
「あたしのアーマードスーツもそろそろ弾切れだ」
「私のガトリングガンももう残り僅かなりー」
マスターキーとダッシュKがセイレムの問いに返す。
「あたしのももう弾が残ってないっす。サーモバリック弾ならあるっすけど、半生体兵器相手にサーモバリック弾はあまり効果はないっす」
サーモバリック弾は装甲目標に相性が悪く、半生体兵器は装甲に覆われている。
「どうやらあたしたちが道を切り開くしかなさそうだぞ」
「やってやるさ。こんな訳の分からない場所で訳の分からないものに殺されてたまるか。白鯨は抹消するし、俺たちは生き延びる」
「オーケー。マスターキー、全弾撃ち尽くしたら、停泊中のシャトルに行ってシステムをオフラインにして発進準備を。いつでもとんずらできるようんしておけ」
東雲がそう言うのに、セイレムがマスターキーに命じる。
「あいよ、セイレム」
「じゃあ、せいぜい足掻いて見せましょう」
セイレムは獰猛な笑みで目の前に迫る半生体兵器を見た。
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