保護//大混乱
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──保護//大混乱
TMCセクター11/9を警備している大井統合安全保障の下請けから、大井統合安全保障にアンドロイド暴走の知らせが入ったのはベリアたちの侵入から4時間後のことで、アンドロイドが持ち場を離れてから30分後のことだった。
白鯨は手当たり次第にアンドロイドをハックして乗っ取り、東雲たちにけしかけ続ける。それはまさに人類が恐れていたような自律AIとアンドロイドによる人間への反乱そのものだと言えた。
『オーバーロードよりゼファー・ゼロ・ワン。目標は市街地にて暴走中。現在サイバー戦部隊が原因を解明中。それまで物理的に制圧せよ』
『ゼファー・ゼロ・ワン、コピー』
事態を危機的と判断した大井統合安全保障は
その時既に戦場はセクター12/1に移っており、東雲たちは懸命にアンドロイドを振り切ろうとしていた。
「“月光”!」
展開した七本の“月光”の刃が車にしがみつこうとするゾンビ映画のゾンビのようなアンドロイドを引き裂き、叩き落とす。
「畜生! 一体、何体いやがるんだ!? どうして俺たちを追跡できてる!」
『ID認証システムがハックされている。君たちのIDを読み取って、アンドロイドを暴走させてはけしかけている。追跡されないようにIDを削除すると今度は大井統合安全保障が煩いし、どうせ白鯨は既に君の生体認証データを持ってる』
だから、スーパーでも襲われたんだよとベリアが言う。
「畜生。クソッタレ。そっちでID認証スキャナーを破壊できないのか?」
『大井統合安全保障の代物だよ?
「クソ。その大井統合安全保障は動いているのか?」
『動いている。今、彼らの緊急即応チームが出動した。横から流れて来た通信を傍受している。この混乱の源──つまり、君らを目指して進んでいる』
大井統合安全保障の緊急即応チームの動きはベリアも把握していた。
「不味いことになるんじゃないか?」
『まず事情を聴かれるだろう。その前に相手が撃ってこなければ、の話だけど』
「ジェーン・ドウからは大井統合安全保障を頼るなと言われている」
『そうするべきだろうね。彼らの中型輸送機と軽装攻撃ヘリが接近中。飛ばすよ!』
車が急加速し、曲がり角をドリフトで曲がる。
それに追随するようにアンドロイドが追いかけてくる。
『後方から車両。大井統合安全保障じゃない。民間のタクシーだ。アンドロイドが運転している。撃破して!』
「了解」
東雲は“月光”で目標を照準すると“月光”を後方のタクシーに向けて射出した。タクシーはスピンして壁に衝突し、爆発炎上した。
その爆発の中からアンドロイドたちが湧き出てくる。
「なんてこった! ゾンビ映画も真っ青だ! 畜生、畜生、ウェアをキメねえとやってられねえ!」
三浦はそれを見て叫び、電子ドラッグをBCIポートに差し込んだ。
「この世の終わりみたいだな。ええ?」
一心不乱に東雲たちの車を追跡してくるアンドロイドたちを見て、東雲が本気で嫌そうな表情を浮かべていた。
そこで後方でさらに爆発が起きる。
「なんだ?」
『大井統合安全保障の軽装攻撃ヘリからのロケット弾による攻撃』
「ご到着か」
ベリアが答えるのに、東雲は上空を見上げた。
上空をティルトローター輸送機3機と小型の軽装攻撃ヘリ3機が飛行していた。
軽装攻撃ヘリは上空を高速で行き来しながら、空中展開型戦術ドローンを展開している。それが下にいる東雲たちやアンドロイドたちをスキャンする。
「あんた、IDはちゃんと持ってるだろうな?」
「イエスッ! 特級品をな! 最高にイケてるIDだぜ?」
「IDにイケてるもクソもあるか」
これだから電子ドラッグジャンキーと仕事をするのは嫌だと東雲は思った。
「スキャンされた。ベリア、大井統合安全保障には本当に侵入できないのか? 連中が次に狙うが、俺たちなのか、暴走しているアンドロイドなのかを知りたいんだが」
『待ってて。今万全を尽くしているから』
場が
「ダメだにゃー! ここの
バンダースナッチが悲鳴を上げている。
「やってやるのだ! バンダースナッチ、連携して複数のアイスブレイカーを使うのだ! それならば限定AI風情の対処能力は限界を迎えるのだ!」
「了解にゃー! それー!」
「とりゃー!」
バンダースナッチとジャバウォックが同時に複数のアイスブレイカーを展開し──大井統合安全保障のサーバーの
「ご主人様! やってやったにゃ!」
「頑張った。よしよし。後は検索エージェントを──」
ビリっとひり付くような感覚がしたと思えば、検索エージェントは抹消されていた。
「中はブラックアイスか。流石は六大多国籍企業のサーバー。そう簡単には行かせてくれないってことか」
「こいつを放り込んでやろうぜ」
「それは?」
ディーが丸いボール状の物体を取り出した。
「軍事目的で開発されたシステム制圧用ワーム。サーバーに負荷を掛けると同時に、ブラックアイスを機能不全に陥らせる」
ただし、とディーは言う。
「一時的に、だがな。すぐに防衛エージェントが鎮圧しに来る。中に盗聴器を仕込んだらさっさととんずらだ」
「オーキードーキー。それで行こう!」
「よっしゃ!」
ディーは掛け声と同時にサーバーにワームを放り込む。ワームはブラックアイスに焼き殺される前に瞬く間に増殖した。そして、まるで免疫系を制圧するウィルスのようにブラックアイスを機能不全に陥らせる。
その時点でベリアはプローブのように検索エージェントを走らせ様子を窺っていた。
「制圧できた」
「盗聴器をしかけようぜ」
ベリアとディーはささっとサーバーに進入すると、通信関係、緊急即応チーム関係のシステムに盗聴器──正確にはデータを外部に送信する検索エージェントの一種──をしかけてシステムが復旧する前に逃げ出した。
「システム復旧。盗聴機は無事。情報が流れてきてる」
「緊急即応チームの通信が鮮明に表示されている。コールサインはゼファー・ゼロ・ワン。『ゼファー・ゼロ・ワンよりゼファー・ツー・ゼロ。民間の車両は無視して、暴走しているアンドロイドを制圧せよ』と」
「攻撃は東雲には向かいそうにない。東雲たちの偽装IDも偽装と見抜かれてない」
「いいニュースだな」
早速伝えてやれよとディーが言う。
「東雲? 偽装IDはバレてない。それから攻撃目標にもなって──」
「待て! 緊急即応チームの兵装システムはハッキングを受けてる! 俺のワームよりも強力な奴で誰かが大井統合安全保障のサーバーを制圧しやがった!」
「誰か? 決まってるじゃん。白鯨だよ!」
ベリアたちが大井統合安全保障のサーバーを見ると巨大なデータがサーバーに侵入しつつあった。クジラだ。白鯨だ。
白鯨の頭の上には例の赤い着物の黒髪白眼の少女がおり、それが白鯨がマトリクスから大井統合安全保障のサーバーに侵入していくのを見守っている。
そして、とぷんと水の滴る音がして、白鯨は大井統合安全保障のサーバーを制圧した。完璧に、完全に。
「東雲。前言撤回。白鯨が大井統合安全保障のサーバーを乗っ取って、緊急即応チームの兵装システムに介入している。今、アーマードスーツと軽装攻撃ヘリの運用権限が正規オペレーターから剥奪された」
『それは大井の方から攻撃が来る可能性があるってことか?』
「そういうこと」
『最悪だぜ』
場が
東雲が最悪のニュースを聞かされた直後、運用権限が剥奪された軽装攻撃ヘリ──スピード・スカウト2機がミサイルの照準を東雲たちの逃げる車に照準し、アーマードスーツ──48式強襲重装殻“屠龍改”4体が投下された。
投下されたアーマードスーツも肩部にマウントされた小型対戦車ミサイルの照準を東雲たちの逃げる車に照準する。
『誰かヘリとアーマードスーツを止めろ!』
『権限が剥奪されています! 動かせません! ヘリは緊急遠隔操作モード、アーマードスーツは仮想小隊システム状態です!』
『クソッタレ!』
計6発のミサイルが東雲たちを照準し──。
獣を解き放った。
6発のミサイルは燃料が点火し、一気に加速しながら東雲たちを目指して飛翔してくる。東雲は車から身を乗り出して“月光”を向かわせた。
6発のミサイルに“月光”が襲い掛かる。
まさにイージス艦のごとき正確さと即応性。
“月光”はミサイルを前段撃墜し、空中からの衝撃波が東雲たちまで伝わる。
“月光”はミサイル撃墜後、すぐに東雲の血を吸った。東雲は片手で造血剤を口に放り込む。纏めて三錠。
軽装攻撃ヘリとアーマードスーツは再びミサイルを発射し、東雲がそれを同じようにして撃墜する。投射速度が早いだけあって吸われる血の量が多い。
「ミサイルは撃ち終えたみたいだな」
「どえらいな! 凄いぜ! 飛びまくってる! ひゃっほうっ!」
三浦は完全にぶっ飛んでいた。
ミサイルを撃ち尽くした軽装攻撃ヘリはそのまま東雲たちに向けて突っ込んでくる。
「なっ……! 体当たりか!?」
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