第8話 サポートします!(物理)
「え? やあよ。何で私が」
「そんなこと言わずに、ね? 一生のお願いだから! 一人だけじゃちょっと不安なのよ」
私はゾアの屋敷で手を合わせて必死で頼み込んでいた。
「グレンを手助けしたいのは分かるけど……」
「昼間起きれない人間に、主に活動が昼間の魔物退治って無理があるでしょう? 倒した数勝負なのよ? それにもし彼が襲われたらどうするのよ」
私が頼んでいるのは、私が陰ながらサポートしたいので一緒に山に行ってくれないか、と言う話である。
「ほら、ゾアは弓が得意だし、何かあれば頼りになるじゃない」
「止めてよ。エヴリンがしょっちゅう山に遊びに連れて行くから自衛のために覚えただけだし、レディーになるためにはもう不要な技術だわ」
「でももう婚約者もいる訳だし、自衛のためだけとは思えないほど熱心に練習していたじゃないの。協力して獲物を仕留めた時には一緒にハイタッチもして喜んでいたのに、完全封印してしまうのは勿体ない腕じゃない? 才能あるんだもの」
ゾアは自分が小柄で筋力が弱く、重たい剣さばきには向いてないと判断したためか、早くから弓の鍛錬をしていた。彼女はかなり目が良いので遠くの獲物を見つけるのも早かった。私がとにかくアウトドアなタイプだったので、気がつけばゾアも流されてという感じではあったが、少なくとも弓の腕は一級なのである。
「あのねえ、キアルのためならまだしも、何故グレンのために私が動かないといけないのよ?」
「とりあえずね、私はゾアのところでお泊り会をしたいと父様に言うから、ゾアの家でも何とか口裏を合わせて欲しいのよ。二日ぐらいなら何とかなると思うの」
「だから人の話を聞きなさいよエヴリン」
「心配でいてもたってもいられないのよ。……それに、ちょっと格好良いじゃないの。隠れて人助けして、人知れず姿を消すとか正義のヒーローみたいで」
「…………」
「ゾア、今ちょっと気持ち揺らいだでしょ?」
「……そんなことないわよ」
「子供の頃、川原で小さい子が溺れそうになっていたのを見つけて二人で助けに行ったの、覚えてる?」
「……そうね」
「そしたら私たちもびしょ濡れになって、一緒に溺れそうになったのをグレンが助けてくれたわよね? ああ格好良かったわ本当に」
「そんなことも……あったかしらね」
「彼は『困っている友だちを助けるのは当然だから気にするな』ってお礼も言わせてくれなかったけど、今こそ困っている友だちを助ける時じゃない? まあ私は友だちではなく未来の旦那様希望なのだけど」
「……隠れて人助け、ねえ……」
「それに、ゾアだってレディーがどうとか言ってるけれど、実は野山を駆け回るの案外好きでしょう? 私と縁を切らなかったぐらいだもの」
ゾアはぴくりと眉を上げる。
「結婚したらそんなことも出来なくなるでしょうし、独身の間だけよ? 好き勝手に動けるのも。もちろんゾアが危険になるようなことはしないし、その時には私が命に代えても守るわ。私は後先考えないタイプでしょう? 絶対に彼の邪魔にならないようにしたいの。だから冷静に客観視出来る、司令塔としてのゾアが必要なの」
「司令塔……ふふ、いい響きじゃないの」
ようやくその気になってくれたのか、ゾアが笑みを浮かべた。
「──分かった。ひっそりとグレンの護衛と手助けをすること、協力するわ。私の愛弓スペシャルゾアの引退仕事ね」
「ありがとう! 愛してるわゾア!」
ゾアにがばっと抱きついた。だけどネーミングセンスはイマイチなのよねえこの子、と思いながらも味方が出来た安堵に胸を撫で下ろした。
幼馴染みのゾアのことをいたく気に入っている父は、お泊り会については快諾してくれた。
「ゾアもそろそろ結婚するし、そうそう気軽には出歩けないだろうからな」
「そうなのです。ですから親友のエヴリンと心ゆくまで語り合いたいのですわ陛下」
「公の場でなければ前みたいに気軽にローゼンおじ様で構わないよ。娘もゾアも、どんどん大人になってしまうようで私も悲しいからね」
「ありがとうございますローゼンおじ様!」
父にキラキラした眼差しでお礼を言うゾアに頷きながら、
「エヴリンもゾアを見習って素敵な淑女になるように頑張りなさい」
と私に説教をして来た。
彼女、さっきまで自室であぐらをかいた状態で弓の手入れしてましたけれども、そういった辺りを見習えば良いでしょうか? それとも矢じりに塗る毒と眠り薬に使う薬草を、満面の笑みでゴリゴリと器で砕いていた手際の良さ辺りも見習った方が良いでしょうか?
ともあれゾアの父への受けの良さは大変ありがたい。
私とゾアは、明日の待ち合わせ場所を決め、誰かに見られても参加者の一人と誤解されるよう動きやすい男性の格好をすること、食料と治療薬などの分担を決めて別れた。
……グレン、私たちが万全のサポートをするから、どうにか試練を乗り越えて突破してちょうだいね。
私は祈るような気持ちで早めにベッドに潜り込んだ。
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