台所の雨音

藍染 迅@「🍚🥢飯屋」コミカライズ進行中

雨降らし

「さて、ちょっと雨でも降らしてこようかね」

 幼いころ母さんはそういって、台所に立つことがあった。

 わが家では天ぷらのことを「雨降らし」と呼んでいた。

「ジャー」という油が立てる音を茶の間から聞いていると、夕立の音のように聞こえたのだ。

 一人暮らしをして自分で揚げ物を作ってみると、あんなに暑苦しい料理はない。

 いま思えば暑苦しい揚げ物を少しでも涼しげに思わすために、「雨降らし」なんてことばを使っていたのだろう。

 わが家の暮らしは豊かとはいえず、揚げ物といっても肉や魚を材料にすることは少なかった。

 天ぷらなら野菜。フライならコロッケが定番だった。とんかつや海老天は家で作れるものではないと思っていたな。

 母さんの天ぷらは美味しくて、中でもさつまいもの天ぷらは絶品だった。


 わたしは天ぷらの中で、さつまいもが一番好きだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る