第29話 これから来るであろう未来に乾杯を
「では諸君、教会の成功を祝って……乾杯。」
乾杯、と大きな唱和が食堂に響く。
結果として、昨日始めたばかりの教会は大盛況だった。
恐らくだがシールクアーテが人間の国の中でもかなり端に存在するのもあり、王都からの手が届きにくい場所だったのだろう。それか、この森がある影響からいつか滅びると思っていたのかもしれない。
そんなシールクアーテには教会も孤児院も存在しておらず、こんな森の中にあるというのにあっさりと人が集まって。中には早々に捨て子の類も確認出来た為、孤児院の方もかなり順調な滑り出しとなった。
このまま少しずつでも影響力と勢力範囲を広げていき、もっと効率良く獲物を得る。そうすればこれまで以上に繁盛する事だろう。
「それにしても……今日はかなり豪勢だな。」
「主の弟君が弾んでくれましたので。」
「カルゼグルージが……?」
「はい。」
「
ドラゴン、という事で竜人と同種にされる事の多いそれだが、原則的にドラゴンは獣。竜人はちゃんと文明や文化も持つ知的生命体であるされており、竜人もドラゴンを喰う事はよくある。
問題は、その
種族に沢山の種類があるように、当然ながら
1頭捉えられればそれだけで街1つが1週間程食事に困らない程の肉や素材が手に入るものの、あまり率先して狩りが行われないのが一般常識だ。
なのに、それを贈ると言う。
ここまで酷いとはなぁ……。まぁ、使える者は全て使うが。
「どの異種族の中でも高級品だと言うのに。」
「弟君のお話によると、以前にも群れで襲ってきたとの事でその際に撃退し、どの貴族や諸国も買い取れずに余ってしまった物が12頭分もあると言う事で戴きました。」
余り物を渡してくるだけまだマシか。あいつなら穫れ立てを持ってきてもおかしくないからな。
「同時に、素材も色々と戴いておりますし、調味料等も仕入れましたので今日の夕食は今までで1番美味しいかと! 私も今回程料理に苦労した事はございませんから。」
「そうか。」
「しかし……主。幾ら在庫処分とは言えど、全てを無料で渡す彼は……どう、なのでしょう?」
「そういう奴なんだ、あいつは……。それはそうと少し気になったんだが、12頭と言ったな? 元の群れの総頭数は聞いているか?」
「確か、40程だったかと。」
「……私の知識と記憶が正しければそもそも、ドラゴンは群れで生活しない。するのは竜人だけのはずだ。」
「私もそう記憶しております、主。」
「街でも色んな噂を聞きますよ。本来生息域ではない地域に謎の生命体が現れたり、逆に居なくなったり。今まででは考えられない行動をとる種族や知的生命体から魔獣に堕ちた種族まで。……一体何が起こっているのやら。それ故、今回お嬢様が発案された教会も異様な繁盛を見せたのかと。」
「……そうか。なら久々に王都へ行き、国立中央図書館に籠って本を読み漁る必要があるやもしれんな。私の知識程の蔵書量はなくとも、新しい本はある。シルア、お前もなるべく街でそういった変わった本や最近の本と情報を集めるようにしてくれ。教会がある分、今まで以上に色々とやり易いはずだ。」
「えぇ、畏まりましたお嬢様。」
「あぁ、そういえば。主、もう1つ主の弟君から預かった物が。」
「……変な物じゃないだろうな。」
「いえ、主があの国で唯一お好きだった
「……やっぱり憶えていたか、あいつ。」
燐金梅、というのは比較的何処の地域でも採れる上に一度に収穫出来る量もかなり多く、何より高級品と見間違える程に舌鼓や舌触りの良い梅の事。
それを利用して作られた梅酒は貴族や王族のパーティでも常用される程に甘くて喉越しも良いというのに、その生産のし易さと大量生産に向いている事から庶民でも簡単に手が届く物となっている。
昔から、あまり王族らしい生活を出来なかった私にとって一番の贅沢がこれだった。それも、今は思い出として忘れてしまっていたが。
「では主、宜しければ今日のステーキと一緒に嗜まれますか?」
「あぁ、そうだな。開けてくれ。」
「そういえば。主、こんな物が届いておりました。」
食事もそれなりに進み、ゆっくりと酒を嗜みながら過ごしていた頃。ふと、差し出されたのは黒い手紙。
軽く見てみれば赤文字で「
「
ついでに話しておくと、人間が作り出した教会という組織は魔法を害悪と罵り、魔法を使える他種族と奴隷として扱い、自分の身を弁えぬ愚か者の集まりだったりする。
話を戻すが、「
手紙の内容は……やはり招待状の類らしい。
個人的にはこのまま破り捨てても良いが……色々と生活的に発展する事を望んでいる現在、上手く利用するか。はたまた、いつも通り懐に引き摺り込んでしまうのも一興だろう。
少し前向きに考えるのもあり、か。
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