第22話 何もかもを忘れて全ては私の為に

「次は」

「止まりなさい。」

「……?」


 大人しく従った……訳ではなく、単にその方が面白いと判断したのだろう。

 事実的には大人しく足を止めたフリューデ。そんな我々の後ろには立派な天使が立っており、うちに居るルーナとは違って成人しているように思える。


 ……やっぱりルーナの翼の方が綺麗だな。白一色なんて面白くない。


「森の覇者よ、この辺りで堕天使を見ませんでしたか? あの子は、天界に必要なのです。神が。あの子を望んでおられます。どうか、情報を。」


 自分で捨てといて、随分と傲慢だな。


「堕天使? 天使は堕天使を忌み嫌う生物だろう。」

「問いにだけ答えなさい。私は ――― きゃっ!?」

「へぇ。天使も人間らしい声を挙げられるんだな。」


 こっそりと足元に拡げていた影から足を、腰を、翼に絡みつけて捕縛して。そのまま強引に引っ張って地面に座らせれば随分と気分が良い。

 あまりの心地良さは酒に酔っている時と同じか、それ以上の悦でどうにも気が狂ってしまいそうな勢いだが別に怒らないだろうとフリューデの上で俯せになるような形で寛いで。流石に肘を突くのは痛いだろうと、組んだ腕を枕代わりにそれを眺める。

 徐々にその細い首へ絡めてある影が良い感じに締め上げているので声を出す事も出来ないようで、順調に魔力を吸われ。少しでも意識を落としそうになったら多少首の締め付けを緩め、痛みを与えては眠る事を許さない。

 そのまま影の中へ引き摺り込んでいき、少しずつ記憶を吸い上げていけば流石に意識を保つ事は出来なかったらしい。緩やかに意識が薄れ、そのまま影の中で眠っているのが分かる。


 お前も私の玩具モルモット行きだ。


 生憎、ルーナの記憶はもう全て吸い上げてしまっている。いや、一部は思い出せるぐらいに深く刻み込まれていたので顔を見れば何かしらを思い出す可能性はあるだが、だからといって私の玩具モルモットになっていれば気も晴れるだろう。

 こいつは特に、ぞんざいに扱う予定なのだから。


「……良し。今日はこれぐらいにしよう、フリューデ。」

『あれ、もう良いの?』

「あぁ。これだけ広大な森だ、狩り尽くす心配等はしていないが……それはそれとして、明日少し予定があってな。あまり時間を削る訳にはいかないんだ。」

『そっか、じゃあ仕方ないね。』

「このまま屋敷まで頼む。」

『はぁ~い! あ、そうだ。ねぇねぇ愛し子、あの子達はどうするの?』

「地下に作った施設で飼う。……まずはシルアとルイスに預けて再教育だな。彼らが目を覚ます頃には記憶もなければ教養もない。あの2人に私へ忠誠を、狂信を覚える程にしっかりと育ってもらわなければ困る。」

『教育……。愛し子はあの子達に、どんな風に育ってほしいの?』

「そうだな……。定期的に供物と称して魔力や羽、鱗、血を差し出してくれればそれで信仰心がしっかり備わっている証明と言えるだろうな。私の言う事に何も歯向かわないのは忠誠の証と言えるだろう。そして何より、私の全てに肯定するようであれば……それは狂信と呼べる。その3つは最低条件だな。その後は追々考える。」

『そっか。楽しみだね、これからが。』

「あぁ、全くだ。」

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