爽籟に溶けていく君は

KaoLi

第1話

 窓から差し込む日の光に、僕は思わず顔をしかめながら起き上がる。

 まだ完全に覚醒し切っていない頭を使い、目元に指をあてる。昨晩まではあったが無いことに疑問を持ちつつ、どこかに落ちてしまったのだろう愛用しているを探した。


 しかしそれは容易ではなかった。


 目を凝らせば、ぼやけた眼前に見えてくるのは一面に広がる資料たち。

 そこで僕は、ああ、そうだった、と昨夜の自分の行動を思い出す。


 仕事の為に広げた論文、医学文書、そして医学書が机上に散乱していた。

 その中から『メガネ』という小さな物を探し当てるのは少々骨が折れるというもの。

 しかし無ければ生活に支障をきたすので、僕は一生懸命になりながら散乱した机上を探し、ついに10分ほどして目的であるメガネを探し当てることができたのだった。

 ここでこんな時間を要するとは思ってもみなかった。若干の気疲れが僕を襲った。


 寝落ち、恐るべしである。


 “カシャッ……”


 どこからかシャッター音が鳴った。

 僕は探し当てたメガネを目元に掛け、シャッター音の聞こえた方へ視線を向ける。


「……ああ、おはよう、爽子さわこさん」


 ファインダーを覗き込みながらもう一度シャッターを切り、君は微笑む。

 きっと、今撮影された画が君の満足のいくものだったのだろう。

 は微笑んでいた。

 僕に声を掛けられたことで彼女はファインダーから視線を外して、そして僕を見て同じように微笑んだ。


「おはよう、鹿目かなめ先生」


 これは、僕と爽子さんの不思議な2か月間の話であり、


 また、


 彼女のである。

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