犯人は家政婦?

タイダ メル

第一話

 デスクの椅子を所在なさげに揺らしながら、田島がため息をついた。

「先輩、これもう解決でよくないですか? 犯人も自白してるし」

「ダメだよ。信憑性なさすぎる」

「くそー、もうちょっと説得力のある自白してくれればいいのに……」

「こら、不謹慎だぞ」

「だってー」

「まあ、気持ちはわかるけどね」

 事件が起きたのは一週間ほど前。

 とある富豪の家へ、脅迫状が届いた。

「今夜、金庫の中身をいただいていく」

 その家の当主である宇都宮仙右衛門さんは、怪盗のようなこの脅迫状を読むと、警察に通報もせずに自らが金庫の中に立てこもり、寝ずの番をすることにした。後ろ暗いところでもあるのかもしれない。

 そして次の朝、宇都宮仙衛門さんは遺体で発見された。

 死因は心不全だが、脳溢血の症状も見られる。いくつか不自然な点があるようだが、詳しいことは検死の解剖待ちだ。

 資料の写真に目を落とす。

 眠るように死んでいる。被害者は八十代に差し掛かっているご老体だ。たまたま事件の日に心不全が起きた、と考えられなくもない。

 捜査は事故の方向で進められる、はずだったのだが。

 容疑者の一人が自白した。

 長年その家に勤めていた家政婦長の谷山かなえさんが、事情聴取の最中に「私がやりました。私がそれとなく、旦那様が金庫に立てこもるよう誘導しました」と言ったのだ。

 だがしかし、簡単に信じることはできない。

 詳しく事情を聞きたい、と思っていた矢先、留置場にいた谷山さんは持病である心臓の発作に襲われて命を落としてしまったのである。

 残ったのは、信憑性の薄い自白のみ。

 どうやって殺したのかも、なぜ殺したのかも不明のままである。

 ここで捜査を打ち切るのはあまりにも杜撰だろう。

「問題は殺害方法だよね」

「心不全でしょう? そういう風に見える毒じゃないですか? 彼女も高齢者です。体力や腕力のない人間が殺しをする手段としては、一番妥当です」

「それがねえ、被害者の体からはその類のものが全く出なかったんだ。毒以外の外傷もないそうだ」

「じゃあ、あのおばあさんがそう言ってるだけ、って線が強そうですね」

「やっぱそう思う? でも、関係者の話だと、彼女は嘘をつくような人でもなければ、ボケているわけでもなかったそうだ」

「くそー、振り出しですね」

 死亡推定時刻である午後八時、金庫の鍵は閉まっていた。

 谷山さんが殺したとするならば、開かない鉄の箱に入った人間に危害を加えたことになる。

「なにを使えば、彼女にも殺しが可能だったと思う?」

「手を触れずに、痕跡も残さずに、でしょう? 超能力者なんじゃないですか?」

「そうかもしれないなあ……」

 さあさあ、お立ち会い。今からこの鉄の箱に入っている人間を、手を触れずに殺してご覧に入れましょう……、というわけだ。

「フリーザ様なら手を触れずに殺せるんですけどね。パーン! って」

「クリリンのことか。さすがにフリーザ様は手配できないなぁ……」

「もうされてるに決まってますよ。あれだけ悪いことしてるんですから」

「でももう死んでるし、一応書類上では犯人死亡ってことになってるんじゃないの?」

「おっと先輩。さては復活のFをご存じないですね? ゴールデンフリーザ超強いんですよ?」

「ゴールデン……?」

「今度DVD貸しますよ。ついでなんで、その続きのブロリーも!」

「ああ、うん。ブロリーは知ってる。怒ると怖い人でしょ?」

 時計に目をやる。今日は、二人の参考人が事情を話しに来てくれる。

 一人は谷山さんの部下だった家政婦の浅野渚さん。

 もう一人は被害者である宇都宮仙右衛門さんの息子、宇都宮義孝さんだ。

「そろそろ行こうか」

 私たちは参考人の待つ聴取部屋へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る