第27話 金を欲する者
「パーティーの仲間に金を盗られた?」
「はい……」
酒場の別室にて。
俺はメイアやテティと共に、訪れた依頼者の話を聞いていた。
ちなみにフランは「情報集めなきゃいけないから失礼するッス」と言い残して出かけている。
――今回の依頼者は三人の冒険者だった。
大切な金を盗まれたから取り戻して欲しい、盗んだ奴に代償を払わせて欲しいという依頼は少なくない。
が、今回の依頼については少し変わったところがあった。
「あの女、マジで許せねぇ!」
「少し可愛い顔してるからって、オレたちの金を盗りやがって!」
「くそっ、みんなで貯めてきた金だったってのに!」
「……」
依頼者である冒険者たちは皆が男性で、同じ人物に金を盗まれたらしい。
冒険者たちは別々のパーティーで、いずれもリーダーを務める人間とのことだ。
「なるほど。つまりは冒険者パーティーの金を狙った常習犯か。しかも犯人が女性とはな」
依頼者からの話を聞く限り、今回の窃盗事件には4つの共通点があった。
1つ目、依頼者全員がそれなりにランクの高い冒険者パーティーであること。
2つ目、盗まれたのは金銭のみであり、例えばパーティーの仲間を傷つけられたなどの被害は出ていないこと。
3つ目、犯人と思わしき人物は新規に加入を希望してきた女冒険者であり、パーティー加入してからすぐ犯行に及んでいること。
そして4つ目――、依頼者たち曰くその女冒険者はとても美人だということ。
……。
いや、最後の4つ目はどうでもいいな。
「でも、皆さんランクの高いパーティーのリーダーなんですよね? それなのにお金を盗まれてしまったということは、その女冒険者さんもかなり腕の立つ人物ということなのでしょうか?」
俺の隣に控えていたメイアが疑問を口にする。
もっともな推察のようだったが……、
「「「そ、それは……」」」
依頼者の冒険者たちが揃って口をつむぐ。
どういういきさつで金を盗まれたか、という経緯がとても話しにくいらしい。
――依頼者は全員男性で腕は立つ。また、皆がリーダーであり金を管理していてもおかしくはない立場の人間。そして、犯人は美人だという。
……。
「なるほどな。色仕掛けにやられたか」
「だぁー! 執行人様、それを言わないで下さい!」
「そんなこと言われてもな……」
俺は冒険者たちが頭を抱えているのを見て溜息をつく。
「ねえメイア、色仕掛けって何?」
「要するにハニートラップってことですよ、テティちゃん」
「はにーとらっぷ?」
「…………テティは知らなくていい」
メイアとテティのやり取りを止めさせ、俺は重ねて嘆息した。
――まあしかし、なるほど。
だから依頼者たちは冒険者ギルドにも相談できず、俺のところに来たというわけだ。
自分の色欲が原因で金を盗られましたなどと報告はしにくいだろう。
仲間の金を管理する立場でありながら、見事に
が、金銭を盗まれたことには違いないし、話を聞く限り本気で困っているらしい。
「分かった。依頼は請け負う」
「「「あ、ありがとうございます!!!」」」
三人から揃って頭を下げられる。
「ただ、俺が偉そうに言うことじゃないが、金を管理するならもう少し警戒心を持て。仲間の金なら尚更だ」
「「「は、はい……」」」
心底反省している様子の冒険者たちを見て、俺は改めて今回の件の詳細を尋ねることにした。
「で? その女性の居場所に心当たりは?」
「そ、それが全く。金を盗られた後、すぐに行方をくらまされたもんで……」
居場所が分からないか。
こうなると中々骨が折れそうだ。
「何か覚えていることは無いか? 例えば外見的な特徴とか」
俺の質問に対して冒険者たちは口々に答えていく。
それらをまとめるとこうだ。
・髪色は赤く長髪。
・背丈は俺とメイアの中間くらい。
・年の見た目は10代後半。
・告げていた名前はそれぞれ違っていて、恐らくそのどれもが偽名。
――同じ条件で被る人間が多そうだし、やはり情報不足だな。
情報屋のフランに頼むにしてもこれだけの手がかりで探すのは厳しいだろう。
テティの時は獣人という珍しい種族だったため探すことができたが、冒険者たちが挙げた特徴だけでは特定するのは難しそうだ。どうしたものか……。
「ねえ、アデル」
「ん?」
考えを巡らせていたところ、テティにちょんちょんと服の端を引っ張られる。
「あのさ、その人たちから同じ匂いがするんだけど」
「匂い?」
「酒場に置いてあったお花とおんなじ。良い匂いがするから香水に使われることもあるってメイアが説明してた」
「あ……。もしかして《アイリスローゼン》ですか、テティちゃん?」
「うん。確かそんな名前」
「3人から同じ匂いってことは……」
俺が確認すると、3人ともが「そういえば確かにその女は香水をつけていた」と認める。
つまり、犯人の女性は日頃から《アイリスローゼン》という花の香水を付けているということだ。
しかもメイアによるとその花はとても貴重なもので、付けている人物はかなり限られるらしい。
これは大きな手がかりになるだろう。
――まさかメイアの講習が役に立つとは……。花を届けてくれたマリーにも感謝だな。
「それにしてもよく匂いに気付いたなテティ。日も経ってるだろうに3人の残り香から気付くとは」
「うん。獣人族は鼻が利くからね。役に立てたのなら良かった」
俺が撫でるとテティは頭から生やした耳を嬉しそうにピクピクと動かした。
とにかく、テティに頑張ってもらえば犯人の女性を追えるかもしれない。
俺は次の日から犯人の追跡を開始するとを告げ、依頼者の冒険者たちと別れた。
――そして、翌日。
「近いよ。こっち」
テティの案内で、その女性を見つける。
――外見の特徴も聞き込みした内容と一致している。あれが犯人だな。
俺とメイア、テティが物陰から遠巻きに観察していると、女性がある施設の敷地に入っていくところだった。
「あれは……」
その施設を見て、俺は思わず呟く。
それは古びれた孤児院で、犯人の女性は子供たちに出迎えられていたのだった――。
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【後書き】
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