第26話


「王女様を探せぇえええ!!」


「大変だ!!クレア様が行方不明だ…!!」


「クレア様ぁああああ!!どこにおられるのですかぁあああ!!!」


クレアと共に城に戻ると、大騒ぎになっていた。


…まぁそうだよな。


「ど、どうします…?」


俺は物陰に身を隠しながらクレアに尋ねる。


「きょ、今日はありがとうございました…!私は…自分の部屋にこっそり戻って、箪笥の中に隠れていたということにします…!グレンに迷惑はかけませんから…!」


「大丈夫ですか?」


「ええ…!これでも城の外に出たことないだけあって、城の中に関しては誰よりも詳しいと思います。自分の部屋までも見つからずに行けると思います…!」


「そうですか。ではご武運を」


「…はい!」


クレアは頷き、騎士や使用人たちがバタバタと城中を走り回る中をうまく物陰に隠れながら進んでいった。


なかなかの身のこなし。


あれなら心配いらないだろう。


「俺も戻るか」


クレアがいなくなったのを見届けてから、俺も自室に戻る。


「あ…グレン!!」


「げ…」


部屋の前でアンナが待っていた。


俺の姿を認めると、すぐに駆け寄ってくる。


「どこにいってたの!?また城の外!?」


「あ、あぁ…そうなんだ」


「心配したじゃん!!なんで私に言ってくれなかったの!?」


「す、すまん…」


「これからは城の外に出るときは私に一言言って!!すごく心配になるから…!」


「お、おう…」


俺が頷くと、アンナは嘆息した。


「それならよろしい……えっと…あとは…あ、そうだ…!!第二王女のクレア様が行方不明らしいんだけど、グレン知らない?」


「…し、知らない」


「本当…?まさかクレア様と外出してたんじゃないよね?」


「してないしてない!!してないから…!!」


どきりとした。


アンナ鋭すぎる。


「嘘ついてない?」


「つ、ついてるわけないだろ…?」


じっと俺の顔を覗き込んでくるアンナ。


俺はごくりと唾を飲む。


「そ…ならいいけど」


「…ほっ」


アンナはそれ以上は追求してこようとせず、俺は安堵の吐息を漏らした。




翌日になってアレルがようやく部屋から出てきた。


「すまない…迷惑をかけたな…」


部屋から出てきたアレルはろくに飯も食べずに色々思い悩んだせいか、げっそりと痩せていた。


アレルは使用人たちによってまず風呂に入らされ、食事を取らされ、着替えさせられて早速訓練をさせられることになった。


1日くらい休ませてやってもいいような気がするが、この世界の住人にとっては文字通り自分達の存亡がかかっているためぐずぐずしていられないのだろう。


…まぁ、魔王は既に俺が倒したんだけどな。


「はっ…はっ…はっ…!」


「アレル…大丈夫かな?」


「さあな」


アンナと共に訓練をするアレルを見守る。


「違う違う!!もっとこう、力を入れて…腰の使い方も大事だ!!」


「お、おう…!」


1人の騎士に指導されて、アレルはひたすら木刀の素振りをしている。


中庭には俺やアンナ以外にも野次馬が大勢きていた。


皆引きこもり勇者が部屋から出てきたという噂を聞きつけてやってきたのだろう。


「あれが当代勇者か…」


「なんと弱々しいお姿…本当に勇者なのか…?」


「あれに魔王が倒せるとはとても思えない…」


「腕の紋章は確かなのだろうな…?偽物ではないのか?」


ヒソヒソ声のそんな噂が聞こえてくる。


皆、アレルが本当に勇者なのかどうか、疑心暗鬼になっているらしい。


本来のストーリーなら、この時点で既にアレルは城内の人間たちに認められていて誰もアレルが勇者であることに疑いを持ってなどいないのだが…


一度狂ったストーリーの歯車のせいで、いろんなところに綻びが出てきているようだ。


「今日は…確かあのイベントの日だよな」


…けれど俺はこの状況をあまり悲観していない。


なぜなら今日、あるイベントが城内で起こり、おそらくそれがアレルの名誉挽回の機会になるはずだからだ。


俺は中庭を見渡す。


どこだ…?


そろそろ現れてもいいはずだが…


「おいおい、冗談だろ!?本当にお前が勇者なのか!?お前みたいなちっぽけな小僧が!?」


来た…!


俺はその人物の登場に思わずガッツポーズをとる。

勇者の咬ませ犬こと、第一王子ルクスの登場だ。




〜あとがき〜


ここまでお読みくださりありがとうございます。


この作品と現在同時並行で、


『道端に落ちてた野良サキュバスを拾ったら、美少女とセックスしまくりのハーレム学園生活始まったんだが』


というラブコメ作品を連載中です。


そちらの方も是非よろしくお願いします。







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