第100話『しちゃった……』

 他のみんなはスイスイ滑り始めたのだが、俺はひかりちゃんが滑れるようになる迄マンツーマンで指導する事に。

「こッこッこッ、国府宮さぅわぁッ!?」

 ひかりちゃん、また転んじゃったし……。これで何回目だろう?今日はジーパン穿いてて良かったね、と。

 ひかりちゃんは俺が教えた通り、基本に忠実にしているのに、何でこんなに転びまくっているのだろう?やはり恐怖心のせいだろうか?

「ひかりちゃん、そろそろ手すりから手を離してみようか?私がひかりちゃんの手を引いてあげるから。怖がらなくていいからね」

 ちょっとこのままではらちが明かないので、少し荒療治に入ろう。ひかりちゃんが転ぶ前に俺が支えてあげれば、何とかなるんじゃなかろうか?

 ひかりちゃんはビクついているが、とりあえず手すりから手を離しても立った状態を維持している。

「うん、その調子。それじゃぁ、ゆっくり滑ってみようか」

 俺はひかりちゃんと向かい合って、バックで滑りながら手を引いてあげる。

 ひかりちゃんも必死で俺の手を掴んでいるが、どうにか俺の動きについて来てくれている。やれば出来るじゃないか。

「こッこッこッ、国府宮さん!?私、今滑っていますよね!?ちゃんとスケート出来ていまよね!?」

 フフッ、ひかりちゃん凄く嬉しそうな顔をしているぞ。その調子だ。

「うん!ちゃんと出来てるよ!ひかりちゃんも、やれば出来るじゃない!」

 二人で向かい合って、ゆっくりと滑り出す。何かまるで、フィギュアのペアスケーティングみたいだな。ひかりちゃんも凄く楽しそうだ。

 まぁ、まだ小4女子なのだから、こうしてのんびりと、マイペースに遊ぶのが良いだろう。

 ひかりちゃんに無理をさせないよう、俺もスピードを落としてゆっくり手を引いてあげていた。まるで二人だけの世界に浸っているかのように。

 ところがここで、思わぬ事態に遭遇してしまう。ちゃんと滑れるようになったと思っていた輝美が、猛スピードで突っ込んで来たのだ!

「あかりさんッ!甲斐荘さんッ!お逃げになって下さい〜ッ!!私止まれませんのぉ〜ッ!!」

 イヤイヤイヤイヤ、ちょっと待て、ちょっと待て、今この状況で急にそんな事言われても!?

 豪快に激突されて、三人一緒に団子になってすっ転んでしまう。何か揉みくちゃになって訳分からんぞ!?

 ……ん?何だ、この柔らかい感触は?


 んんん〜ッ!?


 何か転んで揉みくちゃになった拍子に、ひかりちゃんとキスしてしまったようだ。えッ!?マジかッ!?

「国府宮さん……、私達キス……しちゃいましたね……。あの……、スミマセン……」

 ひかりちゃんは顔を真っ赤にして恥ずかしがっているし、その横では輝美がパンツ丸見えのマヌケな姿を晒している。

「あ、イヤ、あのね、ひかりちゃんが謝らなくてもいいのよ?その……今のは事故なんだから。私、全然平気だから。ひかりちゃん、ケガとかしていない?大丈夫?」

 とりあえずひかりちゃんと、ついでに輝美も立たせてやるが、何だかひかりちゃん、頬を染めたまま、凄く恥ずかしそうにしている。

 まぁ、まだ小学4年生なのだから、おそらくファーストキスになるのだろう。その相手が俺(あかり)っていうのは、やはりショックなのかもしれない。

 でもまぁ、幼馴染みでずっと仲良くしている友達なのだから……、それでもショックなのかなぁ〜……?何かひかりちゃんに申し訳ない事しちゃったかな……。



 その後、俺はひかりちゃんと輝美がキチンとスケート出来るようになる迄、キッチリ指導してやった。

 ただ、どうもひかりちゃんの態度がよそよそしくなってしまい、何だか調子が狂ってしまう。

 俺とキスしたのが、そんなにショックだったのだろうか……?

 しかし、あんなのは単なる事故で、ぶつかった拍子に偶然唇が触れただけだし、断じて意図的なキスではないのだが……。



 帰りのバスでも、ひかりちゃんはほとんど喋らなかった。対照的に、輝美やミラクル☆ツインズと麗美は、初めて体験したアイススケートについて、興奮気味に語り合っている。

「あの……、ひかりちゃん?今日はスケート、楽しかった……よね?」

 何かちょっと、遠慮気味に聞いてみた。何でこんな風に、腫れ物に触れるような話し方をしなくちゃならんのだ。

 そう思うのだけど、やはりどうしても気を遣ってしまう。

 するとひかりちゃん、

「……ハイ、楽しかったです。国府宮さんのお陰で、私もスケート出来るようになりましたし。国府宮さん、本当にありがとうございます」

 はにかみながら、そう答えた。

 お?ひかりちゃん、いつもの感じに戻ってきたかな?何か知らんがホッとした。

 やれやれ、一時はどうなる事かと思ったが、ひかりちゃんも気持ちが落ち着いてきたらしい。変なトラウマ与えていたらどうしようかと心配していた。

「国府宮さん……、手を繋いでもいいですか……?」

 なんて遠慮気味に言うひかりちゃん。そのぐらいはお安い御用だ。友達なのだから。

 俺が笑顔で頷き、優しく手を握ってあげると、ひかりちゃんは何か安心したような顔を見せる。

 そして程無く、かなり運動したから疲れているのだろう、俺にもたれ掛かって眠ってしまった。

 バスを降りる迄は、まだしばらく時間が掛かる。このままゆっくり眠らせてあげよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る