十四 同期の捜査会議

一月八日、土曜。午後六時。

 捜査第一課の東条課長から特命を受けた二人が、四谷三丁目にある三島の実家の座敷に集った。

「警察学校の卒業以来だな」

 座卓を囲んで、大森警察署の刑事課係長・池上涼太警部と、城東警察署の刑事課係長・大嶋茂樹警部がそう言って笑っている。


 三島が言う。

「さて、今回の事件で五人が始末された。

 一人目は痴漢の常習だったらしいが、過去に一度も痴漢の捜査線に浮んでいなかったから、今も身元が判明してない。

 茂木(元監察官、警視)は痴漢の常習で、霧島(元課長、警視)が茂木の犯行を隠蔽していた。

 臼田(元副総監、警視監)と若松(元本部長、警視長)は組対捜査の手を抜くよう組織から女をあてがわれたが、淫行の行き過ぎて殺害してしまい、その後始末を霧島たち部下に指示した。

 その事を組織に知られ、見返りを要求されて組織に捜査情報を流し、捜査の手を抜いた。

 五人を殺害した者は、臼田と若松に殺された女の身内か、組織に荷担した警察幹部に天誅を下そうとしている者だろう」


「男と茂木殺害は、霧島と臼田と若松殺害の捜査を混乱させるための犯行だな」

 大森警察署の係長の池上涼太警部は、犯行目的の相異を述べた。

「臼田と若松に殺された女の身内の犯行じゃない。組対捜査の不祥事を知ってた者の犯行だ」

 城東警察署の係長の大嶋茂樹警部は、被疑者が警視庁内部に居るのを示唆した。

「やはり庁内の者だな・・・」と池上警部。

「殺害の証拠を残さない事から考えて、鑑識に詳しい者だろう」

 大嶋警部は鑑識に詳しい者の犯行だと推測している。

「そうなると、我々に話を持ってこなくても、本庁で解決・・・、できないか」と池上。


「東条肇課長は、臼田と若松と霧島に指示されて組対捜査の手を抜いて動いた者たちを挙げるのに躍起になってる。本庁の大不祥事だ・・・」

そう言って三島は、警視庁捜査第一課の東条肇課長(警視)が部下たち全員を疑っているだろうと思った。

 かつて組織犯罪対策課は捜査第四課だったが、現在、組織犯罪対策部として刑事部とは別組織だ。現在の刑事部には、かつて臼田や若松や霧島の部下だった者が多い。


「被疑者は庁内の情報を把握している。鑑識に詳しい。警察官あるいは鑑識官だ、科捜研職員も考えられる」と池上。

「殺された霧島に情報が上がってなかった。被疑者は所轄の警察官だな」と大嶋。

「今後の犯行は無いだろう。臼田と若松と霧島の不祥事が判明して目的を果たしたはずだ。

 被疑者が残した録音に、臼田と若松の不祥事現場にいる霧島の画像を、霧島に見せているような会話があった。

 被疑者は、霧島たちが撮った画像を入手できる立場にあって鑑識に詳しい。

 所轄の警察官と断定していいな?」

 三島はそう言いながら対策を考えた。


 大嶋が言う。

「所轄警察官から事件当時のアリバイを調べるのは手間だぞ」

「そうだな・・・。被疑者は犯行後に、犯行の反響を確認したはずだ。

 池上の大森警察署で今回の事件に異常反応した警察官が居たか?」

 三島はそう言いながら、自分の所轄署、四谷警察署の警察官の動向を思い浮かべた。

 今回の事件で異常反応した者は居なかった。私がそう思っているだけか?何か見落としていないか・・・。


「大森署の警察官は事件より、捜査が本庁の捜査本部に移移された事に異常反した!」

 池上は、あの時の腹立たしい思いを忘れなかった。

 変死体が霧島と判明した一時間後、現場に捜査第一課の東条課長が部下を引き連れて現れ、断りも無しに捜査は本庁本部へ移されたのだから、所轄の警察官たちが憤慨して当前だ。


「うちの署で異常反応した奴はいなかった」

 大嶋は城東警察署の警察官たちを思った。

 身元不明者が殺害された時も、茂木が殺害された時も、担当した菊川刑事は事件に対して個人的な感情は示さなかった。いつもの菊川だった。他の警察官たちも同様だ・・・。

 殺害手段が異常だったのに、菊川や他の警察官が関心を示さなかったのも気になる・・・。警察官の間で、何かあったのだろうか・・・。


「被疑者はどうやって本庁内の過去の組対情報を得たと思う?

 二〇〇三年以前に、被疑者が捜査第四課に居たとは限らない。当時の、隠蔽した事件の記録は無い。被疑者がどうやって、隠蔽した事件を知ったか・・・」

 三島は、被疑者の、過去の組対情報の入手経路が気になった。

 二〇〇三年四月一日。暴力団等の取り締まりを担当してきた刑事部捜査第四課、暴力団対策課等に代わり、組織犯罪対策部が設置された。

 現在、組織犯罪対策部は刑事部とは別組織だ。現在の刑事部には、かつて臼田や若松や霧島の部下だった者が多数居るが、皆、中年以上の高年齢だ。それらの者か自分の身元が

ばれるような犯罪を犯すとは思えない・・・。


「霧島の部下が、霧島から直接、事件の隠蔽を聞いたとは考えられないか?

 あるいは、霧島の部下の部下が関与している場合も考えられる」と池上。

 二〇〇三年以前の捜査第四課から直接内部情報を得ていた警察官が現在も所轄内に居て、その者から情報を得た者が犯行を重ねたと考えるのが妥当だ。

 被疑者は臼田や若松や霧島の部下の若い同僚か、臼田や若松や霧島の部下の部下だ。臼田や若松や霧島の運転手の若い同僚や、かつて運転手だったが今は出世した者の部下という場合だ。大嶋はそう考えている。


「その線だな。本庁内の若手を除外するぞ。所轄署の方が動きやすいはずだ。

 臼田や若松や霧島の部下で、出世して所轄署へ移動した奴と、その部下を探そう」と池上。

「これらの事を署長たちに報告するか?」と大嶋。

「やめておけ。奴らも被疑者対象だ」と池上。

「そうだな。署長も警戒した方がいい」

 大嶋と池上の話を聞いて三島がそう言った。

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