六 切断処刑 茂木

 十二月十七日、金曜、午後十一時。

 杉並区梅里一丁目の茂木の自宅前に黒の大型SUVが停車し、男が降りて門のインターホンのスイッチを押した。

 度重なる逮捕で茂木の妻子は実家へ行ったまま戻っていない。自宅は茂木独りだった。

 茂木はモニターで訪問者を確認した。ディスプレイに黒いスーツのSPらしい男が映った。道路に黒の大型SUVが停車している。


「何の用だ?」

「臼田副総監(警視監)の指示でお迎えに上がりました。

 特別席を用意しましたのでおいで下さい」

 臼田副総監の指示と聞き、茂木は、これまで茂木が部下に命じて隠蔽させた、上層部の駐車違反や接触事故や、あのとんでもない事件を思いだした。

 約束どおり隠蔽の見返りに、俺をどこか警備会社へでも就職させるのだろう・・・。

「待ってくれ。仕度する」

 やっと上層部が助け船を出してくれた・・・。茂木は意気揚々と室内着からスーツに着換えて身支度し、黒の大型SUVの後部シートに乗った。


「そこに飲み物を用意しました。好きな物をお飲み下さい」

 助手席に居る黒いスーツの男がそう言った。

「ありがとう」

 茂木はブランデーをグラスに注いでぐっと飲み干した。

 これで、俺のやってきた事が報われる・・・。

 そう思いながら、茂木は再びグラスにブランデーを注いで飲み干した。

「ところで、どこへ行くのかね?」

「二階から一階を見下ろせる、見晴らしの良い場所に特別席を用意してありますので」

「そうか。うれしい事を言ってくれるね・・・・」

 話の途中で茂木の記憶が無くなった。



「起きて下さい」

 頬を叩かれて茂木は目を覚した。腕と足が動かない。腕も足も結束バンドでジュラルミンのパイプ椅子に固定されている。茂木の横に、黒覆面に黒い服装の男が立っている。

「どうしたんだ!これは何だ?ここはどこだ?」

「静かにして下さい・・・」

 黒覆面の男の声は音声変換された機械的な声だ。

 茂木は周囲を見渡した。パイプ椅子に座っている位置から一階が見えた。ビルの三階から下を見ているような高さがある。

 黒覆面の男がパイプ椅子に座った茂木の耳元で囁いた。

「痴漢をくり返したのはなぜですか?」

 茂木は黒覆面の男に恐怖を感じた。

「痴漢なんてしてない!俺には女房がいる!」

 茂木は怯えながらそう答えた。

「奧さんがいても痴漢をしないとは限りません」

 黒覆面の男はパイプ椅子の茂木の耳元でそう囁いた。

「痴漢はしてない!嘘じゃない!」

 茂木は震える声でそう言った。


 黒覆面の男がフロアのバッグからタブレットを取り出して動画を見せた。

「この動画を見て下さい」

 黒覆面の男はパイプ椅子の茂木に、茂木が電車内で痴漢する動画を見せた。

「これは捏造だ・・・」

茂木は慌てた。

「嘘を言わなくていいですよ。SNSで公開されてます」

「・・・」

 黒覆面の男にそう言われ、パイプ椅子の茂木は沈黙した。茂木はパイプ椅子に腰と手足を結束バンドで拘束されて身動きできない。

 黒覆面の男はタブレットをバッグに入れ、防毒マスクを取り出して茂木の顔に被せた。

「やめてくれ!やめて・・・」

「麻酔薬を仕込んであります・・・」

 茂木の身体から感覚が無くなった。


 黒覆面の男は茂木の顔から防毒マスクを外してバッグに入れ、傍にある高周波電流発生機を見ている。

「舌が無くなれば嘘を言う必要は無くなりますよ・・・」

「ウッッッッ・・・」

 男は床のバッグからプライヤーを取って茂木の口をこじ開けた。プライヤーで舌を引き出して高周波電流の電極で舌を挟み、電流を流した。

「ウオォォッッ・・・」

 茂木の舌が焼き切れた。舌の血管は焼かれたため出血していない。茂木が呻いて身体を動かすが麻酔が効いて動かない。


 覆面の男が茂木の鼻を見た。

「今後は、女の匂いを嗅ぐ必要も無いですね・・・」

 茂木の鼻が電極で挟まれて電量が流れ、鼻が焼き切られた。

「ギャアッッッッ・・・・」

「女の声を聞く事もない・・・」

 黒覆面の男は茂木の両耳を焼き切った。

「ギャアッッッ」


「女の尻と胸を撫でまわすこの手も不要ですね・・・」

 茂木の腕はパイプ椅子の肘掛けに結束バンドで拘束され、麻酔が効いて動かない。  

 覆面の男はプライヤーをバッグに入れてハンマーを取り出し、そのハンマーを振り上げて茂木の右手を叩き潰した。

「ウオッッッッ・・・・」

 さらに左手を叩き潰した。

「ウオッッッッ・・・」


「一番はこれですね。これがあるから痴漢をしたくなるのですね・・・。

 無ければ、しなくなりますよ・・・」

 黒覆面の男はハンマーをバッグに入れて、裁ちバサミを取りだし、茂木のズボンの股間と下着を切り裂いた。裁ちバサミをバッグに戻してピアノ線の束を取り出し、茂木の股間にピアノ線を差し込み、絞首刑のロープのような仕掛けが施されたピアノ線で股間部の根元を括り、ゴム被覆された末端を鉄骨に括った。

「ウオッッッ・・・・」

 茂木はパイプ椅子ごと引きずられた。

 この時になって茂木は、自分が居るのは廃墟となった町工場の二階だと気づいた。それも、屋根まで吹き抜けになった工場の一郭を取り囲む二階らしく、一般家屋の三階以上の高さがある。

「さあ、今日までいっしょだった玉と竿とはお別れです」

 覆面の男は、焼き千切った舌と鼻と耳とパイプ椅子の茂木を二階から蹴落とした。


「ウワッッッッ・・・」

 茂木はパイプ椅子に座ったまま落下した。茂木がコンクリートのフロアに落下する三メートルほどの高さで、茂木の股間に括られたピアノ線が伸びきった。

「ギャアッッ・・・」

 茂木は悲鳴を上げてコンクリートの床に落下した。パイプ椅子は潰れ、茂木の腰骨と背骨が潰れた。茂木の股間から血が流れ、床から三メートルの高さに、ピアノ線に括られた股間部がぶら下がっている。


 中二階にいる覆面の男はピアノ線を揺すって茂木の部分を一階フロアに落した。固定してあるピアノ線の末端を解いて巻き取り、ポリ袋に入れた。男は小型高周波電流発生機と道具とピアノ線が入ったポリ袋をバッグに入れて背負い、階段を下りて一階のコンクリートのフロアに立った。

 覆面の男は茂木の頸動脈に手を当てた。鼓動はするが弱い。千切れた鼻の前に手を翳した。かすかに呼吸している。

 覆面の男は背負っているバッグを床に置いた。食塩水入りのペットボトルを取り出し、茂木の出血が止まらないよう、千切れた股間に食塩水をかけた。

 茂木はまだ麻酔が効いている。

 覆面の男は、茂木の腕と脚と腰をパイプ椅子に拘束している結束バンドを切り取って外し、バッグに詰めた。辺りを見まわして遺留品がないか確認し、現場から去った。


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