荒野のゴブリン

第1話  ゴブリンだと?



「 ゴ、ゴブリンかよ・・・」


 ドラゴンとまでは言わないが吸血鬼とかにしてくれても良かったんじゃないの?

自分の顔は見えないが、目に入る手足と腹は張りが無く肉付きの悪いカーキ色。

頭を触ると毛髪は無く、耳介は大きくひらひらしている。 ・・・間違いない。

これは魔獣の底辺といって過言でないゴブリンじゃないか。 

orz 両膝と両手を地に着いて呻く俺。

しかし口から洩れたのは言葉ではなく獣の唸り声そのものだった。 




 面白いと思ったオプションがあったからノリでポチッただけなんだ。VRMMORPG  "Final Quest(FQ)”。

最近のお気に入りで毎日2時間(上限は4時間)くらいプレイしていた。

メインのアバターはカンストしていて日々新パッチ攻略に勤しんでいる。

進学する大学も決まり一日中が自由時間となって数日、運営から告知があった。

『FQのADオプション』 サービスの募集だという。


 ADAfter Death とは亡くなった人のペルソナコピーをVR上に再現するサービスだ。

"降霊室"で死んだ両親や祖父母と会話できる、というメモリアルパレス(最近は昔ながらの墓苑は少ない)も珍しくなくなって来ている。

故人のアバターの再現性リアリティを上げる技術も日々進歩していて、自分も大学ではそっち方面の勉強をするつもりだった。 なんてったって"成長産業"だものな。


 ゲーム的に言えばプレイヤーのペルソナコピーがアバターを引き継ぐ、という話。 

FQの制作・運営会社であるテクノフロンティア( TF )はADビジネスにも進出するつもりだったのだろうか? 

それとも単にアクティブプレイヤーを増やす宣伝材料くらいの考えだったのか。


 とにかく俺としてはスルーできない新サービスだった訳よ。


  PC ペルソナコピー作成には最低 200時間のログインが必要だとのことだった。

俺のプレイ時間は優にそれを超えていたので 既に申込Formが表示されていた。


”ADオプション”には3グレードあった。


【プレミアム】 最終ログイン、又は登録時(選択可能)のデータで復活。

【レギュラー】 初期装備・ステータスで復活。

【エコノミー】 モンスターとして復活。


 因みに【プレミアム】は1週間の海外旅行ができる程の値段。 安くは無い。

そして【レギュラー】はカップルで高級レストランのディナーに行けるくらい。

最後の【エコノミー】は無料。 タダ。


俺はまだ高校生だしウチはそれ程裕福な家庭じゃない。 前の二つは無理だ。

「取り敢えず【エコノミ―】をポチッとけ」 て思うよね ?

だって”ADオプション”だよ ? 

「貴方の死後ゲーム内にアバターとして復活できます」 ってサービスだよ?

これから大学に入るという高校生が真剣に考え込むような問題じゃないよね?


勿論、「個人情報のデジタルアーカイブ化」は自分のこれから取り組むテーマだから自分の各種SNS・blogのアカウントやパソコンのマイドキュは申込時に入力したさ。

そういうデータがペルソナのリアリティUPに有効なことは判明していたからね。




「ログアウト状態が50日以上継続」

・・・これが自分の設定したアクティベーション条件だった。

(ログインが途絶える事以外にもオプション有効化のルートはある)

今までFQをプレイしない日はあったけど二日以上開けたことはない。

だから選んだのは”最短”の期間だった。


「もう50日ログインしてないのか・・・」


事故か、事件か。 健康な受験生だったから”病気で”てのは考えにくい。

誰かに恨まれていた、って心当たりも無い。 特に刃傷沙汰になるようなのは。

登山やドライブ、船や飛行機に乗る予定も無かった。 (俺は何で死んだ?)


 

「しかしPCって再現性高いな!」


なんというか”自分”に対する違和感が無い。 

肉体がゴブリンに変わっているのは勿論かなりショックだったのは確かだけれど、

 ”気持ち(精神?)はいつも通りの俺” という感じなのだ。



そう。 今の俺は本来の自分 『野田明』 ではないことは明らかなのに。










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