第36話 男同士の秘密の密会①
日曜日。本来なら侑梨と魔法少女のアニメを一気見する予定だったのだが、和樹に呼ばれて都会へと足を運んでいた。ただ、和樹が絡むと俺の身に良くないことが起こるんだよな…。
「直矢さ、目の前で大きなため息を吐くなよ」
俺が大きなため息を吐くと、横にいた和樹が顔を引き攣りながら言ってきた。
「そんなことを言われてもさ、今日は家でゆっくりアニメを見るつもりだったのに」
「あれ?直矢ってアニメ好きだったっけ? 俺が知っているのは、アイドルオタクだったはずだけど」
そこを追及してくるなよ…。
一から説明するのが面倒くさいんだから。
でも説明をしないと、和樹は引き下がる気配がないので———俺は諦めて説明をすることにした。
「この間、侑梨と出掛けた時に魔法少女のガチャをしたんだよ。そのあと、家でアニメを見ることになり、一緒に見ていたら面白くて、気が付いたら一期はあっという間に見終わっていた。 そして今日から二期目に入る予定だったんだよ」
「なんて言うか…段々と芹澤さん色に染められてきているな」
和樹の発言に内心動揺したが、顔に出ないように必死に抑えて話題を変えることにした。
「馬鹿なことを言っていないで、今どこに向かっているのか教えろよ」
駅で合流してから、ここまで話しながら歩いてきたが、未だに目的地は聞かされていない。
連絡が来た時も『ここに集合!!』と短い文だけ送られてきた。……それで集合場所にちゃんと来た俺、偉すぎるだろ。
「場所を教える前に、この割引券を見てくれ」
そう言って、和樹は鞄から財布を取り出し、中から二枚の割引券を出してきた。
「それは何の割引券になるんだ?」
「これはな、今向かっているメイドカフェの割引券なんだよ!」
「……メイドカフェ? 俺たち、今メイドカフェに向かっているのか?」
「そうだよ」
和樹はニヤリとしながら返事をした。
「ちなみにだけど、大浪さんは和樹がメイドカフェに行くことを知っているのか?」
「知らないよ。 美唯にメイドカフェに行ったことを知られたら、俺、生きていないかもしれない」
確かに、大浪さんは「浮気は許さないよ」とか言って、和樹に鉄拳制裁を繰り出しそうだな。
それに俺もヤバいのは同じだ。侑梨には和樹に誘われたから出掛けてくるの一言しか言っていない。
その出掛け先がメイドカフェとなれば、侑梨も大浪さんと同じことをしてくるだろう。
「俺も生きていないかも… 和樹、今日のことはお互いに絶対に秘密にしような」
「おっ!直矢もメイドカフェに行く気になってくれたか!! よし、男と男の秘密だな」
お互いに固い握手を交わして、俺たちはメイドカフェのある建物まで向かった。
◇◆
駅から十五分ほど歩き、俺たちは目的地であるメイドカフェが店舗が入っているビルにやって来た。
一階の玄関口にある案内板を見ると、ビルは五階建てで、メイドカフェの店舗は二階にあるらしい。
「こんなビルの中にあるのか」
「やばい…初めてのメイドカフェにドキドキしている自分がいるよ」
「そのドキドキは大浪さん関連の不安ではなく、本当にメイドカフェにドキドキしているのか?」
胸元に手を置き、少し顔が緩んでいる和樹に冗談混じりに言ってみた。
「当然だろ!! 美唯には絶対にバレないと確信しているんだから、メイドカフェに決まっている!」
「だと思ったよ… でも大浪さんは勘が良さそうだから、俺が言わなくてもバレるかもよ?」
「そうか? 美唯には他の件でもバレたこともないから、今回も心配ないのさ〜」
楽観的な返事をしながら、和樹はメイドカフェのある二階に向けてエレベーターに向かった。
大浪さんに密告しようかな、と思いながら、俺は和樹の後を追いかけた。
エレベーターで二階に上がり扉が開くと、目の前にはピンクの壁に大きく店の名前が書いてあった。
「ここはメルヘンなのか…!」
「メルヘンではないが、別世界にいるみたいだな」
「直矢よ、もう少しテンションを上げて行こうぜ!折角のメイドカフェに来たんだぜ?」
「そんなことより、早く店に入ろうぜ」
和樹の質問を無視して、俺は店内に入るように促した。入店前に体力が無くなりそうな気がしたから。
扉を開けると、メイド服を着た二人の女性店員が満面の笑みで挨拶をしてきた。
「「おかえりなさいませ、ご主人様!!」」
「ただいま!」
和樹はすぐに返事を返していたが、俺は少し恥ずかしさがあったので軽く会釈だけした。
そして店員は俺と和樹を連れて、店内の空いていた席へと案内された。
「それでは、メニューが決まりましたらお呼びくださいませご主人様!」
店員は一礼して持ち場へと戻っていった。
「メイドさんたち可愛すぎるだろ!! 直矢もそう思わないか?」
「確かに可愛い。 侑梨が着たらもっと可愛いんだろうな〜」
「おいおい… ここのメイドさんに対しての感想ではなく、侑梨ちゃんの方かよ」
「そーゆう、和樹はどうなんだよ? 大浪さんのメイド服姿とか見たくないのか?」
「……そうだな」
和樹は腕を組みながら、考える素振りを見せた。
「即答じゃないのかよ!」
思わず、ツッコミを入れてしまった。
だって、彼氏なんだから彼女のメイド服姿見たいものだろ?一部例外があったとしても、和樹なら即答だと思ったし。
「美唯のメイド服を見たいのは当然だろ。 だけど、美唯が真面目に着てくれると思うか?」
確かに…。大浪さんがメイド服を素直に着てくれる想像ができない。
例え、着てくれたとしても、何かしらの条件を付けてきそうだな。
「思わない… それに条件を付けてきそうだな」
「だろ? だから、ここでメイドを目に焼き付けておくのは当然のことなのさ!」
「自信満々に言うことではないだろ…」
本日、何度目か忘れたけど、大浪さんに告げ口をしたくなった。
「とりあえず、早く注文しようぜ」
「そうだな」
机に置いてあったメニューを開いた。
メニューはフード・スイーツ・ドリンクの種類に分かれて掲載されていた。その中から俺は無難なカルボナーラとアイスティーを選ぶことにした。
「直矢、決まったか?」
「決まったよ。 和樹の方は随分と決めるの早かったけど、メニューを知っていたのか?」
「まあ、事前に公式サイトを見てきたからな!」
そう言い、和樹は店員を呼ぶ為に手を挙げた。
店員が来たのを確認すると、俺と和樹は交代で注文をし、聞き終えた店員は一礼して元いた場所へと戻っていった。
「てか、公式サイトの確認までしてたのかよ」
「当然! 初めて行くお店なんだから、ちゃんと調べておくのは鉄則だろ!」
どうりでお店までの道のりで、一つも迷わずにスムーズ着いたわけだ。
「それで調べた情報と実際に来たので、何かしらの違和感でもあったか?」
「全く持ってありませんでした! 第一印象も最高だったし、接客も悪くない。 満点です!!」
「お前はメイドカフェの専門家かよ」
俺は苦笑しながら言った。
「専門家か…それもいいな」
「大浪さんにドン引きされても知らないぞ」
「そんなことにはならないだろ」
「また適当な———」
「お待たせしました!」
俺が言い合える前に、店員が注文した料理とドリンクを運んできた。
「カルボナーラとアイスティーのお客様」
「あっ…はい!」
俺が注文した料理の名前を呼ばれて返事をすると、店員は目の前に置いていく。
置き終えると、後ろにいた店員からもう一つの料理とドリンクを受け取り、和樹の方に視線を向けて言った。
「こちらが、萌え萌えオムライスとコーラになります」
店員は料理を置き終えると、言葉を続けた。
「萌え萌えオムライスのお客様にはお絵描きサービスがあるのですが、いかがですか?」
「お願いします!!」
店員の質問に対し、和樹は即答した。
大浪さんの話の時は即答できなかったのに、メイド服を着た店員を前にしたときは即答かよ。
…大浪さんにバレてしまえ!!!!
内心そう思いつつ、俺は目の前で行われているお絵描きサービスを楽しんでいる和樹を眺めていた。
◇◆
メイドカフェを出て、階段で一階に降りていると、和樹が腕を伸ばしながら感想を言ってきた。
「人生初のメイドカフェ、最高だった〜!!」
「それは何よりだ」
「おいおい、メイドカフェに行って、テンション低くなるのおかしくないか?」
「それは…気のせいだ」
割り勘での支払いだったが、二人の合計金額が余裕で四千円を超えた。なので、一人二千円弱の支払いになるが、この出費は大きかった。
俺は事前情報など無しで来たので、メイドカフェでもお金が掛からないと思っていたのだが———それは甘い考えだったようだ。
「なら、次はどこのメイドカフェに行こうか? やっぱり、メイドカフェの聖地とか?」
「和樹よ… あまり調子に乗って———」
和樹に助言みたいなことを言おうとした時、目の前から二人の女性の声が聞こえてきた。
「か〜ず〜き〜? ここで何をしているのかな?」
「直矢くん。 私との予定を断って…こんな所で何をしているんですか!!」
視線を向けると———腕を組んでいる大浪さんと胸の前でガッツポーズをして頬を膨らませている侑梨が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます