第29話 分析したい大浪さん

「さてさて、直矢くん。休日の話を私たちに聞かせてもらおうか」


 休日明けの月曜日。

 俺は今、大浪さんに問い詰められている。

 その横で彼女に便乗しながら、「聞かせろよ〜」と和樹がニヤニヤしていた。


 まさか教室に入った途端に拉致られるとは…

 なので、俺は鞄を持ったまま階段下へと連れてこられていた。


「話をしろと言われても、大浪さんは大体の話は知っているでしょ?」

「………知らないよ。和樹も知らないよね?」


 大浪さんは横にいる和樹にも問い掛けた。


「知ってい…いや、俺も知らない」


 今、明らかに大浪さんからの圧力あったよね?

 凄い睨んでいるの目の前からでも見えたぞ!!


「ほらね!だから早く教えて、ね!」


 大浪さんはニコニコしながら、和樹は手を合わせて、「ごめん」って表情をしていた。


 仕方がない。ほとんど知っている内容だと思うが、端折りながら話すとするか。


「あの日は侑梨と元所属事務所に訪れて、コンサートのチケットを受け取ったんだよ。それから事務所内を案内してもらって、カフェでお茶して帰った」

「ふむふむ。それらの話をまとめると…デートですな。和樹もそう思うでしょ?」

「確実にデートで間違いありませんね。そしてポイントになるのが元所属事務所に行くことですな」


 俺の話を聞いた途端、2人が何やらぶつぶつ言い出した。


 いつも思うんだけど、俺のプライベートの話を聞いて分析するの辞めてほしいんだが。

 そんなに面白くないだろ。2人がデートした時に俺と侑梨が分析したらどう思うんだ?


「それは直矢くんと侑梨ちゃんの今後のデートに参考になるなら、私は嬉しいかな」


 どうやら俺の心の声が漏れていたらしい。

 しかも最後の方だけ。


「と言っていますが、和樹は他の人にそんなことをされたら嫌だよな?」

「嫌だけど…俺は直矢の話を分析するの楽しいから、直矢になら許可しよう」


 和樹はサムズアップした。


「おいおい…俺の目の前にいるのはバカップルの2人なのか?和樹は置いといて、大浪さんは真面目な雰囲気だったはずだよな?」

「俺を置いとくなんて酷いぞ直矢!」

「あっはは。私は真面目だよ。ただ、直矢くんと侑梨ちゃんの2人が微笑ましくて気になってしまうんだよね〜 」


 何言ってるんだ…?

 俺は和樹の話は無視して、大浪さんの会話に返答することにした。


「余計なお世話だ!って思うけど、大浪さんには助言をもらった気がするから憎めない…な」

「うんうん!私、直矢くんに助言などをしたから憎めないよね〜 」


 大浪さんはニヤニヤしながら頷き、「だから」と言葉を続けた。


「私が直矢くんと侑梨ちゃんのデートのことを聞いても問題ないよね!アドバイザーだし!」


 うん。まぁ…大浪さんは反論しても無駄だから了承するしかないよね。


「気は乗らないが、大浪さんは許そう」

「おいおい、俺は?俺はダメなのか?」


 すると、和樹が手を挙げて聞いてきた。


「ダメに決まっているだろ」

「………えっ?」

「当たり前だろ。大浪さんはアドバイザーとして許可したけど、和樹は何もしてない。だから、ここで許したら侑梨からの信頼がなくなる」

「そうだぞ、和樹くん」


 大浪さんが割り込んで入ってきた。


「美唯まで… 分かったよ。俺は美唯から全体の概要を偶に聞くとするよ」

「大浪さん。俺が許可した話は和樹に伝えてもいいけど、ダメと言ったのは言わないでね?」

「もちろんです!」


 大浪さんは敬礼ポーズをして返答した。


「直矢も美唯も酷いよ〜」


 和樹が涙目になって呟いていると、ホームルームが始まるチャイムが鳴った。


「さてと、話は終わりだね。俺は教室に戻るぞ」

「私も遅刻はしたくないから戻るよ」


 俺と大浪さんは教室へ戻った。

 後ろから和樹の声が聞こえるが、遅刻したくないので無視した。

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