二枚目

次に眺めた絵画は、騙し絵だった。

入れ子のような、見た目の構造。

まるで、合わせ鏡のように。

絵画の中の絵画に描かれた、絵画の女の子。

額縁を抱えた彼女は、こちら側をじっと見つめながら。こちら側を見つめる彼女が描かれた額縁を抱える彼女が描かれた額縁を抱えている。

額縁の中に並び続ける、彼女の裸の身体。

しかし。実際には、その数には限りがある。

光の反射の終わり。

ボヤけて不明瞭な、青い点の群れ。

受けた光を完全に反射し続ける鏡など、この世には実在しないのである。

彼女の輪郭は、どれも崩れ落ちている。あたかも、溶けた絵の具のように。額縁に塗られている、肌色の泥の中から。ごく稀に、一人の人間の姿を想起する瞬間が立ち現れて。

確かに、数多の視線を感じられる。

額縁の中から放たれた、彼女達の青い視線。

合わせ鏡のように永遠と続いた、世界の中の世界の中から。頭の奥底に、重く訴え続けているのである。

すると。溶け落ちた姿こそが明確に、ハッキリと浮かび上がってくる。

こちらを覗き上げる彼女の、はにかんだ表情。

頭の上に被さった麦わら帽子は、サラリとした黒い髪の流れを強調して。余計に、未熟な裸体のラインが露わになる。

淫靡な記憶の不連続。

覚えのない昔の体験が、この身に起こっている。

アングラ・マイルドル。

在りし日の追憶を描き続けたと言われる、失語症の画家。

彼の辿った生涯は、とても不遇なものだと言われている。

ひどく現実味に欠けた、明るい配色で構成された世界。額縁の内側に閉ざされた、不明瞭な女の子の姿。目の前に浮かび上がる光景は、果たして、本当に不幸な物なのだろうか。

写実的な情景の美。

額縁の外側の描写は、とても丹念に。照明に包まれた部屋の様子を、はっきりと描き切っている。蛍光灯の薄い明かりに映し出された、彼女が抱える額縁の色鮮やかさ。

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